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003 幻の装備屋


 フィールドに入ると、すでに沢山の人がいた。


 マップを見ながら、待ち合わせ場所を探す。




 待ち合わせ場所は入り組んだところにあったが、なんとかたどり着くことが出来た。



 しかし、朝陽の姿が見当たらない。


 本名を叫ぶ訳にもいかないしどうしようか悩んでいると、こっちに向かって走ってくる人影がある。



「ごめんっ、遅れた!」


 駆け寄ってきたのは、青色の髪に淡い赤の眼の青年だった。



 顔に見覚えがある。


 この青年が朝陽、なはずだ。


 色が変わるだけでこうも印象が変わるとは驚きだ。


 返事もせずにぼーっとしていると、朝陽は赤い眼をぱちぱちと瞬かせて、きょとんとしている。



「朝陽?であってる?」


 じっと見ているとやはり、人違い説を否定できなくなって、思わず確認してしまう。



「俺、顔も覚えられてなかったりする?」


 わざとらしくシュンとするのを見て朝陽だと確信する。

 

 これ以上面倒くさい反応をされたくは無いので話をそらしてしまおう。


「僕はこっちでは紫に月ってかいて紫月って名前にしたんだけど、朝陽の名前はなんて言うの?」 


「俺は夜に陰って書いて、夜陰(よかげ)って名前、フレンドなれば名前くらいすぐ、見れるし、さっさと交換しようぜ。」


『夜陰さんからフレンド申請が届きました。承諾/拒否』


 承諾っと。




「よし、じゃあレベリングに出発だー!」


 何が、よしなんだよ。


 気が早すぎませんか?


 準備とかしなくていいんですか??


 ゲームに関しては朝陽、じゃなくて夜陰の方が先輩だし、ここは大人しく従ってみるか。


 「あ、レベリングの前に、名前を非表示にして、顔を隠そう。」


 何故?


 結構自信作のアバターだったんだけど……


 


「なにか勘違いしてないか?

アバターが変だから隠すんじゃないぞ。

むしろ出来が良すぎるのが問題なんだ。

容姿端麗なアバターを作るのはそもそも難しいし、上手くいっても自然にはならないから、やるやつも少ない。

だからお前みたいなアバターがいると変に注目浴びちまうんだよ。」


 なるほど、でもこういう場合は堂々としていたほうが溶け込めるんじゃないのか?


「隠したほうが、かえって目立ちそうなものだけど。」


「鏡を見てから言えっての。

大体髪色も目立つの。

白髪紫眼とか、見た目に自信がないと選びづらいだろ。」


 確かにちょっと目立つ色を選び過ぎたかもしれない、後悔はしていないが。


「目立つと遊びづらいでしょ。

運営の配信AIが追ってくるかもだし。」


 配信AIというのは、自動で配信を行ってくれるAI搭載のシステムである。


 このゲームは機材があれば無料でプレイできるが、その代わりに配信に映るかもしれない、というリスクを負うことになっている。


 配信に映った際に投げ銭があれば、50%は映った本人が受け取れるらしい。


 win-winなシステムに見えるが、配信AIに目を付けられると集中的に狙われることもあるので気を付けたいところだ。


 ちなみに、配信AIに関しては、別のゲームで配信AIの被害にあった夜陰の受け売りだ。


 経験者の言葉は重い。


「そうだね、隠すことにするよ。」


 アバターを作るのも楽しかったが、俺としてはしっかりゲームを楽しみたい。


 見た目のせいで面倒ごとになるくらいなら隠してやろうではないか。



 アイテムボックスを覗いてみるが、顔を隠せそうなアイテムは無かった。


「顔隠せる装備持っていないんだけど、どこで売ってるか教えて貰ってもいいかな?」


「俺もまだ見つけてない。

とりあえず、装備売ってるっぽいし、そこの店入ってみるか?」


 そう言って指さしたのは、雰囲気のある古びた店だった。



 なんだかまるっきり別の世界に来てしまったような気分だ。




 扉を開けると中も期待通りのファンタジー風だった。


 店の奥のほうには爺さんが座っていて、何やら作業をしている。


「いらっしゃい。」


 爺さんはつぶやくように言った。


 不愛想な人だが追い出される事は無いようなので、店内を見てまわっていると、真っ白なヴェールが目についた。


 薄い素材なのに向こう側が見えない。


 不思議に思いじっと眺めていると、ピコンと音がして文字が表示された。



『スキル 鑑定 を獲得しました。』


『鑑定:物事を見極める。』



 ずいぶん簡単にスキルが手に入った。


 さっそく、さっきから気になっていたヴェールを鑑定してみる。


『欺瞞のヴェール:認識阻害(中)』


 これは大当たりだ。


 夜陰のほうはどうだろうか。



「いいの見つかりそう?」


「見つかるもなにも、この店やばいぜ。

さっき入った店には置いてないようなもんが、ごろごろ置いてあんの。」


 ここは事前配布されていた地図の、ぎりぎり外側の店だ。


 初日から、わざわざ地図の外に出ようとする奴はいないだろう。


 実はここ、穴場だったりするのか?



「ここで装備揃えちゃったほうがいいかも。

というか俺は揃える。」



 夜陰がそうするなら俺もそうしよう。


 初期の装備は人と被り過ぎて、テンションが下がる。


 さっさと買い替えたいと思っていたところだ。


 それに俺たちは抽選の際に貰ったゲーム内通貨がたんまりあるのだ。




 俺は見た目重視で選ぶため、あっさり決まった。


 だが、杖は置いていないようで、諦めることとなった。




 夜陰のほうは見た目と性能どちらも重視するタイプのようで、あれでもないこれでもないと唸っている。


 そして今は、俺も一緒になって、あれでもないこれでもないと悩んでいる。


 なにせ、こいつは顔が良いのだ。


 アドバイスを求められたら、全力でこたえたくなるというものだ。


 何時間も悩み、やっとのことで装備が決まった。





 俺は『欺瞞のヴェール』『純白のインバネスコート』『白い神父の服』『黒い靴』『殉教者の短剣』『シルクの手袋』を装備した。

 

 見た目は、顔はヴェールで隠れ、白くてなんだか神々しいインバネスコート(丈の短いケープと長いコートが繋がった、シャーロックホームズが着ているようなアウター)のなかに、神父が着るような服の真っ白バージョンを着ている、といった感じだ。


 効果も確認しておくとしますか。


『欺瞞のヴェール:認識阻害(中)』

『純白のインバネスコート:神聖属性(小)』

『白い神父の服:神聖魔法強化(小)』

『黒い靴:蹴り(超)』

『殉教者の短剣:攻撃(+5)』

『シルクの手袋:器用(+2)』


 ん?んん?


 蹴り(超)とは?


 黒い靴の詳細を確認!


『黒い靴 □□□の□が使われた靴。非常に硬く攻撃に適している。』


 一体何が使われたんだ……


 機能は俺好みだけど、読めない部分が怖くて仕方ない。




 夜陰は『精霊編みのフェイスカバー』『収納ベルト』『天空のケープ』『独尊の錬金術師の服』『おもちゃ工房のブーツ』『氷炎の双剣』を装備した。


 きらきらと光る白いフェイスカバーで顔を隠し、サスペンダーのついたファンタジーっぽい服の上に、ごちゃごちゃとした錬金道具が付いたベルトを付け、裏地が空色の白いケープを羽織っている。


 下が広がったズボンの下には個性的なブーツを履かせた。


 それぞれにどんな効果があるのかは知らないが、見た目は完璧だ。


 本人は、子供っぽいかも、とか言っていたが知ったことか。


 夜陰は本格的に顔を隠すつもりが無かったようなので、半ば無理やりフェイスカバーを押し付けた。


 こいつには自分の顔が整っている自覚が無いのか? 


 運動も勉強もできて、顔面偏差値が高くて、人懐っこくて、無自覚。


 駄目だ、なんかちょっとムカついてきた。




 なんとなくイライラしつつ、店を出ようとすると、奥に居た爺さんに話しかけられる。


「さっき、杖がいると言っていたがこれはどうじゃ?」


 先ほどしていた作業は、杖の手入れだったようだ。


 俺はその杖を見て、イライラなんて吹っ飛んだ。


 そして迷わず、


「買いますっ!」


 即決した。



 俺にぴったりの紫とシルバーがベースのデザインだ。


 先端の石からは光が溢れてくるようで、ただならぬ雰囲気を感じる。



 これはもう買うしかない。

 

 夜陰は、かなりの値段の物を即決したことに驚いていたが、爺さんはさも当然だという様子で、こちらを見ている。


「お前さんならきっと使いこなせるはずじゃ。」


 鑑定してみる。


『幻想の杖:神聖魔法強化(中)、攻撃(+攻撃^レベル)』


 俺は自分の目を疑った。


 ぶっ壊れ性能だ……


 俺が杖を受け取ると、爺さんは夜陰のほうに向き直った。


「そっちの錬金術師さんにはこれを渡しておこう。」


 爺さんはそう言って紙切れを渡すと、店とともに姿を消してしまった。


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