新しい場所へ
私の両親がお客様として明誠荘にやってきた。
でも、今の私が両親に美味しい料理が作れるのだろうか、今の私が小松と料理なんてできるのだろうか。
能登さん……どうしよ。
厨房に向かおうとすると北介さんが自販機コーナーでコーヒーを飲んでいた。
私は一緒に座った。
「美香ちゃん、僕は大輔くんを子供のように可愛がっていた。すごく悲しいよ」
と私に言ってきた。
「美香ちゃん、君は悲しいかい?」
と続けて尋ねられた。
当たり前だ。
悲しくない、なんて人がいるのだろうか。
「当たり前じゃないですか!」
と私は答える。
「美香ちゃん、今は……悲しいかい?」
と北介さんは私に尋ねてきた。
まるでずっと私を見ていたかのように。
悲しくない、は嘘だが悲しんでいないのは事実だ。
と思っていた。
でも私は悲しかったのだとすぐに理解できた。
「美香ちゃん……大輔くんとの思い出を一つ一つ思い出してみて?」
私は北介さんが言っている通り能登さんとの思い出を思い出した。
一緒に厨房に居て料理を作った。
金沢デートも行った。
超大人数団体客に料理を出した。
花火を見た。
常に能登さんが隣にいた。
能登さんの背中が前にあった。
能登さんの温もりが胸にあった。
でも今は冷たい世界に一人ぼっち。
能登さんがいない世界に一人ぼっち。
私は涙が出てきそうになったのをぐっと堪えた。
すると私の頭に温かい手が触れる。
「ダメだよ……さらけ出すんだ。もう……我慢しなくていいんだよ?」
と北介さんが言った。
北介さんは笑っていた。
ニコッと私を見つめた。
ああ……私は一人じゃないんだ。
泣くことを許してくれる人が他にもいるんだ。
あぁ……あぁ……
「あぁ……!! ああ……」
私の声が漏れる。
涙が止まらない。
声も溢れて、涙も溢れて、我慢していた気持ちも溢れ続ける。
「あぁぁぁぁ!」
泣いていいんだ。
悲しんでいいんだ。
能登さん……
「悲しいよぉ……寂しいよ……辛いよっ」
そのあと私は何分か泣き続けた。
泣き止むのをずっと待っていてくれた北介さんが話し始める。
「人間は生きていたら辛いことが絶対ある。でも絶対にいつか立ち直る。僕も何回もあったけど、今となれば元気だよ。でもね……何十年経っても立ち直れない人がいる。それはね、悲しむ時に悲しめない人だよ」
と言った。
そうなんだよ。
能登さん……私、悲しいよ。
でもやっぱり、私は残されたことをやるよ。
やらなきゃいけないことをやって、泣くよ。
能登さん……見てて!
私は厨房に入った。
すると後ろから小松が入ってくる。
「小松……悲しいね。」
「はい」
「小松……ごめん」
私は能登さんが亡くなってからずっと小松にしっかり向き合っていなかった。
だから私が謝らないといけない。
ごめん、小松。
「何を謝ってるんです? 元気な輪島先輩じゃないとやる気出ないんすけど」
やっぱり生意気な後輩だ。
でも……
「そうだよね! 届けたい人に届けたい料理を! やるよ! 小松!」
「はい!」




