隠せない悲しみ
能登さんの葬式には大勢の人が参加した。
能登さんがどれほど信頼されていた人か、能登さんがどれだけ優しい人か、この人数を見れば分かるのだと思う。
私はボケッと歩いていると男の人に当たった。
「悠さん……」
悠さんがそこには立っていた。
「美香ちゃん、大丈夫か?」
悠さんは優しく対応してくれていたが、私は適当に受け答えていた。
適当というよりは無意識に。
「美香ちゃん、今は悲しいし寂しいだろうけど君の実力は今凄い広まってる。どうか自分に自信を持って、頑張るんだよ」
「は、はい……」
私たちは明誠荘に帰った。
私は小松に料理をすると言って厨房に呼んだ。
「大丈夫ですか? 先輩。僕も先輩も能登さんが亡くなってショックなはずでしょ? 別に休んだって誰も何も言わないんじゃ……」
と小松が言った。
私は、
「何言ってんの、能登さんの期待裏切るつもり? 私たちに悲しんでる暇なんてないでしょ。能登さんの弟子なんだよ」
と言った。
小松は何も言わずに私と厨房で料理を作った。
私はその料理に失敗した。
焦がしたり、時間を間違えたり。
そこらへんの主婦でもしないような失敗だった。
「輪島先輩……今日はやめません? やっぱりちゃんと落ち着いてから作った方が……」
小松が気を使ってこんなことを言ってくれた。
でもこの時の私はそうは思えなかった。
「やる気がないならあんただけやめればいい、私は落ち着いてるし、やる気がある」
と言ってしまった。
「別にやる気無いわけじゃ……」
「ないじゃん、さっきから」
ああ……ダメだよ……。
小松はこんな時でも付き合ってくれてるのに。
「先輩、じゃあその失敗はなんすか」
違う。
たまたまミスっただけなんだよ。
「やる気ないのは先輩の方でしょ」
そうかもしれない。
今の私が料理に気が向いてるわけがない。
「先輩! 集中してない時に作る料理が一番不味くて、一番失礼ですよ」
「黙って!!」
図星。
自分でも分かっていたことだったけど、この時の私はこれが正しいと思っていた。
小松は黙って厨房から出て行った。
私だけが悲しい訳じゃない。
そんなことは分かっていた。
でも少しだけわがままな私を許して、小松……。
能登さんが亡くなってから1週間が経つ。
私はまだ1回も泣いていない。
すごいでしょ?能登さん。
でも泣いた方がいいのかな。
泣くのは情けない人がすることだと思っていた。
この時の私は……。
次の日、厨房に向かっているとロビーで女将さんが誰かと話していた。
私はロビーをこっそり覗くとそこに居たのは女将さんと男女二人だった。
車いすが見えた。
女性の方が車いすに座っていて、男性の方が車いすをひいていた。
「なんでこんな時にくるのよ……」
私は一人で呟いた。
お父さん、お母さんに美味しい料理を作れる気がしなかった。




