70話 恐怖する戦乙女
空を駆ける二機の悪魔。
対するは多数の天使。
誰が見ても絶望のほかないでしょう。
だというのに二人の悪魔乗りは負けるという事を考えはしませんでした。
いえ、考えたら駄目だと感じていました。
だからこそ――。
天使たちを次々に落とすことで安心感を得ていたのです。
自分たちはまだ戦える。
きっと勝てる……単純ではあります。
ですがそれは彼女たちの切なる願いでもありました。
『ふん……大人しくしていればいい物を』
親玉らしき天使はそう口にすると光の剣を作り出し、それを天高く掲げるように構えました。
ゾクリとしたものを感じた美月は――。
「綾乃ちゃん!! あれに当たっちゃダメ!!」
綾乃へとそう告げました。
何故か分かりません。
ですが、あれに当たったら終わりだ。
そう考えたのです。
美月の忠告が告げられてすぐ天使の剣は振り下ろされ――。
二人はそれをなんとか躱す事が出来ました。
出来てしまったからこそ、それが恐ろしい物であると理解してしまいました。
「……は? なんなの……あれ」
「う、嘘……」
それは大地を割き、巨大な爪痕を残しているのです。
そして――それに対し呆然としている二人へと他の天使達が群がるように襲い掛かってきます。
「――っ!!」
すぐさま対処をする二人でしたが……。
たったの一撃、それで流れは変わってしまったかのようでした。
無理もないでしょう。
彼女たちは確かに戦士です。
ですが、ただの少女でもあるのです……。
そんな彼女たちが力の差を見せつけられ、恐れないわけがなかったのです。
歴然とした差。
それを見せつけられ――。
あれに勝てるのだろうか?
そんな不安が彼女たちの中に広がっていきます。
「……ど、どうしよう」
美月は以前様に小さな声になってしまい。
「そ、そんなこと言われたって……」
綾乃もまた動きがぎこちなくなってしまいました。
このままでは負けてしまう。
そんな事も考え始めると、イービルを動かす手はどんどんと鈍くなっていくのでした。
『終わりだ』
絶望する彼女たちに向かいそう口にした天使。
その声だけで、彼女たちは首元に手を当てられた気になりました。
『愚かな者たちだ……』
そうつぶやく天使は巨大な刃を綾乃へと向けます。
恐らく魔法使いではない彼女はただの邪魔な存在なのでしょう。
このままでは綾乃が死んでしまう、それを理解した美月は――。
「だめ……ダメ!!」
思わず叫びますが、他の天使がまとわりつきうまくイービルを動かせません。
「ダメ……やめて!!」
美月は叫びます、ですが残酷なことに天使の刃は迫っていきました。
守ると約束したのに……。
守ってくれると言ったのに……。
美月の中でそんな気持ちがぐるぐると渦巻き……。
「……ダメ!!!」
コントロールオーブを握る手に力を籠めました。
無意識だったのです。
『魔力増幅確認……』
「ぁ……ぅ?」
急に魔力を失った感覚を感じ、彼女は首を傾げます。
一体なにが起きているのか? 必死で理解しようと確認をすると――。
『トニトルス発動』
聞いたこともない、魔法の名前でした。
それはジャンヌを中心にまるで……いえ、彼女の思い通り綾乃を守るかのように雷を落としていきます。
そして、それは――天使へと狙いを定め落ちていくのです。
彼らが逃げようと執拗に追いかけて行っているのが理解できました。
『貴様、何を!! ――っ!!』
そして、動きを止めた敵の親玉の機体へも雷は吸い込まれるように動き、彼はそれを避けようと試みます。
いえ、確かに回避をしたのです。
ですが……。
「ぁぁ!? あぅ!?」
美月がイービルの中で息苦しさを感じ苦悶の表情を浮かべると雷はその進行方向を捻じ曲げ、意志を持ったかのように敵を追いかけ始めるのでした。




