67話 建物へと向かう戦乙女
地上に居る天使たちは美月たちを見て騒ぎ立てますが、彼女たちは近くに見える大きな建物へと目を向けます。
彼らは機体を持っていません。
何より近くに居る人に危害を与える気はなかったのです。
「それにしてもここって……」
綾乃の言葉に美月は辺りを見回します。
どうやらここも元は地球のように襲撃された星なのかもしれない。
そんな感じがしました。
何故なら……。
「酷いね……これが天使のやり方なんだ……」
辺りには崩落した建物、彼は果てた土地。
何度見ても地獄が広がっていました。
対し、天使たちの根城らしきそこには不釣り合いなほど立派な建物があります。
「……地球をこんな事にはさせない、行こう!」
「そうだね、こんなの酷すぎるよ……!」
大事な人たちを守るため彼女達はその建物へと向かいます。
すると――先ほどの天使が連絡をしたのでしょう。
「天使、前方に複数だよ!」
「おーけい!! この銃の威力で!!」
美月の言葉を聞き、綾乃は背にある巨大な銃へと手をかけ……。
銃身にエネルギーが溜まっていきます。
そして――。
「魔法使いじゃなくても、この銃は――使えるんだ!!」
彼女はそう言うと――。
にやりと笑みを浮かべます。
そして、操縦桿のトリガーを引くと光の線が描かれ――。
「へ? は?」
使った本人さえそれを見て呆然としました。
いえ、しないわけにはいかないでしょう。
「こんなん地球で使ったら大惨事じゃん!?」
「あ……うん、そだね……」
試作品、とでも言ったほうが良いぐらい使い勝手が悪い物だったのです。
威力は申し分ありません。
ですが、天使は勿論遠くにあったはずの建物にまでダメージを与えていました。
「い、今のでざっと十機ぐらいは落とせてる……の、かな?」
「なにそれ、こわ……」
綾乃は思わず素でそう口にし、美月もまた頷きます。
ですが――。
「あまり魔力はこめない方がいいかも?」
「分かった……そうする」
美月の助言に綾乃は素直にそう答えるのでした。
ここがただの天使の世界なら気にする必要はありません。
ですが、ここには天使以外の人々が住んでいます。
美月は少し気になり地上へと目を向けると……。
「あ……」
「どうしたの?」
そこには小さな子供が居たのです。
ボロボロの服……手入れもされていないだろう髪……生まれてから希望も何もなかったであろう子供たちは確かに美月たちを見上げていました。
彼らの目に自分たちがどう映っているのかは分かりません。
ですが……。
「ううん、何でもない……被害は最小限に抑えよう?」
迫りくる天使達へと視線を戻した彼女は改めて綾乃にそう伝えます。
すると綾乃は――。
「うん!」
そう口にすると大きな剣を構え――。
「郊外って言ってもどこだか分からないけどあっち側なら!!」
そう口にすると城の方へと飛び立ちます。
美月も続くように飛び……。
迫る天使達へと向け魔法を唱えました――。
「テンペスト!!」
『魔力増幅、確認……テンペスト展開』
彼女の言葉が先か機械的なアナウンスが先か……いえ、ほぼ同時に紡がれた魔法。
それは迫る天使たちを押し返し……。
巨大な剣を持つ綾乃にとっては追い風となります。
「一機!」
彼女の叫びと共に天使の胸には巨大すぎる剣が深々と刺されました。
背骨ごと貫かれた天使は動けなくなり、目の前の悪魔にたじろぎます。
そして、彼女は無理だと判断したのでしょう……攻撃が美月へと向きますが……。
「――!!」
彼女もまたここまで生き残ってきた悪魔乗りです。
ましてや必ず戻ると約束しているのです……。
迫る天使の攻撃をかいくぐり背を向けた天使に対し――。
「ライトニング!!」
雷撃を放ち、動きを鈍らせたうえでブレイバーを背に叩き込むのでした。




