63話 決別する戦乙女
悲鳴を上げてしまった美月ははっとし、すぐに身構えます。
縮こまってる場合ではありません、早く身を守らなければと考えたのです。
ですが、とっくに訪れているだろう衝撃はいつまで経ってもきませんでした。
それほどに衝撃を受けたのか? 美月は不安になりますが……。
「そんな弱弱しい君はどうやって戦うというんだ?」
代わりに司の呆れた声が聞こえました。
どうやら、彼が撃ったのは仲間たちの声を届けていた装置のようです。
「とっくに予想はついていた」
彼はそう言うと美月に目を向けると――。
「だが、大したことはない……私は人類のために戦っている……一人になろうと感謝されずとも関係ない、英雄になりたいわけではない、様々な敵から人類を助けたいだけだ」
「…………」
「君にその覚悟があるのか?」
「……そのために犠牲を払う覚悟ですか?」
美月はゆっくりと言葉を吐き出した。
そして、大きくため息をつくと――。
「貴方のやってることは自分が満足したいだけの自己中心的な考えです」
「君は違うというのか? 傷つけたくない、助けたい! それが君の望みだ……人は皆、自分が自分の気持ちが大事なんだ」
そう言われるとそうかもしれません。
美月自身、誰かに助けてほしいと言われたわけではないからです。
それが彼女のエゴというのなら、それはその通りなのです。
「エゴ、偽善……そんなものは誰もが持っているものだ。そして、私と君では違うもの……目的は同じでも手段が違えばたがえるのは通り」
「………………」
何も言えませんでした。
ですが――美月は彼に押し負けたわけではありません。
「いずれ分かってくれとは言わない、覇王と呼ばれてもいい……私は人類を存命させる。そのために悪魔と呼ばれる覚悟をした」
それが彼の決意なのでしょう。
「奴は英雄を差し出し、人類を貶めた……これは奴の仲間だった誰かがしなければならないことだ」
「…………最初の悪魔乗り、ですか?」
彼はゆっくりと頷く。
クラリッサの話、そして彼の話から恐らく二人は仲間同士だったのだろうことは予測がついていました。
ですが、誰かが裏切ったという以外はほぼ分からないのです。
「ああ、そうだ……そのせいで新谷はあのような体になり、私たちはイービルを失った……」
戦場で戦わない理由。
それは気になりました。
しかし、今はそんなことどうでもいいのです。
「……そう、ですか……でも、それでも……私は皆と一緒に皆を守りたいんです」
美月の意思は変わりません。
これからも怯えてしまうでしょう。
怖いことは多いでしょう、これからも怯えてしまう事もあるでしょう。
それでも、彼女は――。
「私は貴方に従えません……天使に勝った後は地下の人達と協力していかなきゃいけないんです! あなたの言った通り同じ目的でも言い争ってしまうかもしれません、戦争になるかもしれない……でも、そうなる前に手を取り合う手段はあるはず」
「理想論だ……卓上では何とでも言える……私達だって天使と会話を試みた……だが、それは――」
「レンちゃん達は地球人です! 外から来た天使とは違う!」
美月は声を荒げます。
自分自身でも大きな声に驚きましたが、一度出した言葉に嘘偽りはありませんでした。
「何が違う? 奴らも知能を持ち、会話をするだろう……だが、それが出来なかった」
「相手に会話をしようという意思がなかったからです、耳すら傾けてもらえなかった……だけどレンちゃん達は違う! イービルを作れたのは彼女たちのお陰なんだ……感謝をするのは当然で恩を仇で返す理由にはならない!」
彼女はそう言うと……。
「だから、貴方がこれ以上何かを言うなら……お母さんを連れて私は出て行きます……勿論、賛同してくれる人は皆……」
「君が指令になると? 自分自身の感情を制御できない君が……」
美月は黙り、ゆっくりと振り返ると部屋から去ろうとします。
もう、話しても無駄だ……そう思ったからです。
初めて本当の意味で人を……人に失望した瞬間でもありました。
話し合いにすらならなかったことに悔やみながら歩いていると……。
「銃を持っている人間相手に背を向けるのは得策じゃない」
そんな言葉が聞こえました。
ですが、美月も馬鹿ではありません……。
「殺しませんよ、だって……ジャンヌと私は貴方にとって変えようのない駒なんだから」
それも分かっていたのだ……。
これから先、彼女がどう行動しようが天使を倒すことは変わりがないのです。
まずは天使を倒さなければならないこの状況で美月たちを失うのは愚策。
それは分かりきっていたのです……。
そして、いう事を聞かせるために母を人質に取るという事も考えられました……。
しかし、それはしないと美月は判断を下したのです。
もし、そうなれば美月はまず母を助けたいと考えたからです。
そのために戦力をそぐことになってしまえば天使に負けるかもしれない。
やっと見えた勝利の兆しを捨てるような人ではない……。
そこだけは……信用できました。




