61話 治療する戦乙女
「…………」
目をつむり、回復魔法を使う美月。
それを心配そうに見つめるのは吉沢信乃です。
いくら今は薬があるとはいえ、絶対に安全だとは限らないのです。
寧ろ薬は毒を以て毒を制すと言ってもいい物です。
「今日はその辺で……」
「駄目です!」
しっかりと治さないと、と考える美月と彼女が心配な信乃。
ですが、医師として治療をしている彼女を止める事が出来ませんでした。
なぜなら、美月は確かに薬で魔力を回復すればいいでしょう。
ですがリーゼは一命をとりとめたとはいえ危篤状態だったのです。
このままでは出血多量でいずれ死ぬ。
それは常に貧血状態と言ってもいい魔法使いの宿命とも言って良いでしょう。
もし、美月が間に合っていなかったら彼女は生命維持をむなしく続けられるだけでした。
その理由は単純……輸血が間に合わないのです。
以前であれば問題なくおこなえたものも現在では血液の量が足りません。
それだけではないのです。
輸血される側の体力の問題もあります。
「…………」
だからこそ信乃は唇を噛み耐えるしかありませんでした。
美月がイービルを動かしていたからこそ魔力の消耗が激しいと考えていても……。
リーゼロッテという少女を救う手段は彼女にしかないのです。
傷さえ治れば治療のしようがあります。
「情けないですね……」
信乃は美月に聞かれないようにそうつぶやきました。
医師として活動するようになったと言っても今の医療には限界があります。
出来ることを……出来るだけの事を……と彼女は思いつつもその限界にたどり着いてしまったのです。
「……ふぅ」
彼女が苦悩している中も美月の治療は続き、額に玉のような汗をかきつつもそれは終わりを告げたようです。
それに気がついた信乃は焦ったような顔をし――。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ……はい」
彼女の心の底から出した言葉に美月は頷きます。
そして、笑みを浮かべてはいました。
ですが――。
「無茶を……とにかく薬を――いえ、恵さんに頼んで輸血を……」
急がなければ魔力を消費した影響での貧血症状に陥る。
信乃はすぐに恵へと連絡をしようとしますが……。
「多分薬で大丈夫……ですよ」
「何を言って!!」
彼女はあせりますが――美月はその理由を告げます。
「マナタンク強化されましたから……実は魔力の消費が少なかったんです。だから――」
回復に使った魔力なら薬で回復できる。
美月はそう言うと笑みを浮かべます。
対し事実を知った信乃は深いため息をつき――。
「先に言ってください……」
この時、彼女は初めて美月を睨みそう告げます。
心底心配していたのでしょう……。
いえ、心配しないわけがありません。
美月は彼女が好意を寄せているのは当然として世界の希望と言って良い少女なのです。
いくら人を救うためとはいっても彼女が倒れてしまえばもう人類の希望は途絶えたと言って良いのです。
「良いですか! 夜空さん!!」
「は、はい?」
他人行儀な言葉に美月が驚くと信乃は指を鼻の頭に突き付けます。
「貴方が死んだりすれば人類の希望が無くなります! 綾乃さんは間違いなく戦えなくなります! 良いですか? 自分の身体を大事にしてください! それだけじゃなく、大丈夫であればその理由をちゃんと言ってください報連相です分かりますか!?」
初めて怒られてしまい美月はおろおろとしてしまいます……。
ですが、信乃はそれに対し――。
「分かりましたか?」
と再び繰り返し――。
「は、はい……ごめんなさい」
美月は謝罪の言葉を告げるのでした。




