59話 帰還した戦乙女
一機、二機……着実に天使の数を減らしていく二機の悪魔。
それは人間にとって正樹に奇跡という物でした。
すごい……と言う言葉がオペレーターの口から洩れます。
元々ジャンヌダルクは人類の希望とまで言われた機体です。
ですが、天使はそれ以上の脅威でもありました。
だというのに今はその天使達を圧倒する力を得ていました。
「よし!!」
美月と綾乃はたがいの背中を向かい合わせ天使達と対峙します。
まだまだ多勢に無勢。
ですが、その二機はまさに一騎当千の武将と言ってもいいでしょう。
「美月、魔力は?」
「大丈夫……タンクからちゃんと使われてるみたい」
二人にはまだ余裕がありました。
ですが、いくら余裕があろうと敵の数はまだまだ多く……。
「まだ、こんなに……」
「でも確実に一機ずつ減らしていくしかないよ!!」
二人は悪魔を駆り、再び天使を撃墜していきます。
すると――。
「あれ?」
天使は一機また一機と不自然に数を減らしていきます。
レーダーを確認してみると支部から離れるように移動をしているようです。
「撤退をし始めた……美月、もう少し!!」
「うん! 耐えよう!!」
二人の奮闘に天使は消耗をするだけだと気がついたのでしょう。
徐々に撤退をし始めたのです。
出来れば今後の事を考えると殲滅したいところではあります。
ですが、それは流石に無理という物でしょう。
だからこそ、美月たちはなるべく数を減らし、敵の撤退を待ちました。
そして、ようやく……。
「勝った……?」
たった二機の悪魔は天使から勝利を勝ち取る事が出来ました。
「これが、のちの敗北に繋がらなければ良いけど……」
皮肉気にそうつぶやいた綾乃でしたが、あながち無いとは言い切れない物でしょう。
不安は残りますが、二人は取り合えず辺りに敵が残っていないかを確認します。
「大丈夫みたい……」
「それじゃ一旦戻ろう?」
そして、安全を確認したのち支部へと戻るのでした。
二人がハンガーにたどり着き機体から降りると聞こえてきたのは歓声です。
思わずびくりと体を震わせる二人の前に見覚えのある男性が歩み寄ってきました。
「伊達さん!」
美月は彼の名を呼び、綾乃は複雑そうな表情を浮かべます。
「おう! よく帰ったな……それにしても二人とも派手な帰還だったじゃないか」
「お土産には……なったでしょ?」
綾乃がそう言うと伊達は笑みを浮かべ、キョロキョロと辺りを見回します。
「あいつは?」
「レンちゃんはまだドイツです……多分ゲートについてしっかりと調べてから連絡をくれると思います」
「そうか……」
寂しそうな表情を浮かべる伊達に対し綾乃はまたも複雑そうな表情を浮かべ……。
「寂しい?」
「そりゃ、まぁ……懐かれちまったからな……娘がもう一人出来たみたいだ」
娘が戻ってきた、ではなくもう一人と言う言葉を聞き綾乃は何かをこらえるように俯きます。
「綾乃ちゃん……」
「大丈夫……」
事情を知る美月は彼女を心配しますが、すぐにその瞳を伊達に向けます。
彼もまたどこか寂しそうでした。
素直になればいいのに……そう思いますが言い出せず。
「少し休憩してきますね」
「ああ、綾乃、夜空もしっかり休めよ」
彼はそう言うとイービルの方へと向かっていきます綾乃の横を通り過ぎる時――。
「良く戻ってくれた……」
小さくつぶやいたつもりなのでしょう。
その言葉は美月にもしっかりと聞こえたのでした。




