55話 食事をとる戦乙女
美月たちが通された部屋ではすでに食事の準備がされていました。
こんな緊急事態だというのにです。
「優秀な兵にはしっかりと英気を養ってもらわないといけないからね」
そう言うのは日本人の料理長らしき人でした。
彼はそう言うと笑みを浮かべ……。
「ドイツや日本だけじゃない……君達イービルの悪魔乗り達は世界の希望なんだ」
そう口にします。
以前ならその言葉が重荷になっただろう美月は笑みを浮かべて頷いていました。
自分自身でも不思議だと思うほど……。
怖い、怖いけど……だけど、それでも……それ以上に……。
大事な人を失いたくない。
何もしないで後悔なんてしたくない。
そんな思いが彼女にはあったのです。
そこには臆病な少女はもういませんでした。
「美月……」
綾乃も覚悟を決めたのでしょう。
いえ、美月が傍に居るからでしょうか?
二人は手を繋ぎ頷きあうと近くの椅子へと向かい……それぞれ席へとつきました。
ですが、すぐに気がついたことがあり、美月たちは顔を上げ――。
「「じゅ、住民の避難は!?」」
慌てて立ち上がると通訳の女性は誇らしげに微笑みます。
「安心してください、こんなこともあろうかとすでにシェルターの方を作ってあります」
「で、でも……!」
「緊急時には兵たちが町に赴き子供や高齢者を避難させます。一般の住民にも避難誘導を手伝ってもらう事もあるでしょうが、もうすでに住民の90%は避難済みです」
彼女はタブレットを操作しながらそう言い。
美月たちは疑問を感じました。
天使の襲撃からそれほど時間がたっていません。
各国が襲われたからと言っていきなり避難するとは考えにくいのです。
「高性能な天使レーダーこれにより、ドイツ近辺では敵の接近にいち早く気がつけます。避難ぐらいでしたら十分な時間があります」
「そ、そっか……凄いんだね、リーゼの家って……」
「うん……そだね」
二人はもうこの国だけで防衛は何とか出来るのでは? と考えてしまうのですが……。
「ですが、耐えきれるというわけではありません……被害は出ます。ですからあなたたちの力が必要です」
彼女はそう言うとテーブルに乗せられた食事へと手の平を向け……。
「さ、冷めてしまう前に」
「はい」
二人はようやくその食事に手を付けるのでした。
ゆっくりと味わう暇はない。
そう思いましたが、自然とゆっくりとかみしめてしまいます。
正直味なんてわかりませんでした。
それほど緊張をし、気が気でなかったのです。
それでも、食事を進め……ある程度お腹が膨れたところで二人は手を止めます。
「さすがに全部は無理だね」
「うん……戦いが終わったら今度リーゼちゃんに頼んで……」
「待った待った! そういうのは無し! フラグになるから!」
慌てて止める綾乃の顔がおかしく、美月は思わず笑ってしまいます。
すると綾乃もまた同じように笑い始めるのでした。
ひとしきり笑ったぐらいでしょうか……。
通訳の女性は険しい顔をし……二人に告げます。
「食事が終わったばかりで申し訳ないのですが……整備が終わったみたいです」
「……分かった」
「いこう、綾乃ちゃん」
二人は頷きあうと立ち上がり、彼女の案内の元ハンガーへと向かいます。
先ほど彼女が言っていた通り、ハンガーはすぐ近くにありました。
並んでいるのは勿論二人の機体であるジャンヌダルクとナルカミです。
二人はそれぞれの機体の前に立つとコクピットへと乗り込むのでした。




