50話 決意を示す戦乙女
「生物兵器……?」
美月の言葉に司はゆっくりと頷きます。
すると綾乃は思わず前に出て……。
「じゃぁ! 美月に何か影響があるって事!?」
「恐らく……魔法を言う力を多用すれば死に至る……これが奴らのやり方だ」
どういう事でしょうか?
魔法は強力であり、使い過ぎてしまえば貧血を起こしやすくなり、やがては身体が弱っていく……。
それは美月も体験した事です。
「天使の兵器なのに天使側の人間にはならないです、よね?」
「そうだ……奴らは魔法という力を与え、知らないうちに人の体をむしばむ……今は対処が見つかったが、君が倒れた時、あの場で見つからなかった場合はどうなっていた?」
美月は司の言葉を聞き、そんなの一つしかないと思いました。
「死んでました……」
その答えに綾乃は顔を青くします。
そして、美月はその時の恐怖を思い出し、思わず体を震わせました。
「その通りだ……魔法に適性があれば力を得て弱っていく……」
「……失敗すれば、そのまま死ぬ」
綾乃は司の言葉に続き、そう口にします。
すると彼は頷き……。
「成功しようが失敗しようが死に至る……これは人類を間引きする生物兵器だ」
「……だと知っていてなんでそれを!!」
世界に公表しないのか?
美月は思わず叫びかけました。
「抵抗する手段に必要だからだ……と言うのは建前だ。確かに体は弱る、だが……便利と分かっているものを人は簡単に切り捨てられるのか?」
「……あ」
「ましてや、愛する者のために手術を受ける者は少なくない、君もそうだろう夜空美月……」
彼の言葉に美月は何も言い返せませんでした。
美月は母を助けるために手術を受けたのです。
それは紛れもない事実です……。
「……ミュータントについては分かりました。でも、それとレンちゃんの護衛の件とは関係ないですよね」
「……だから、彼女は……」
地下から来た……ミュータント感染者かもしれない。
その事は分かっていました。
ですが……。
「このまま、何もしないで天使に殺されるか、レンちゃんを信じて抵抗するか……もう選択肢はそれしかないんですよ? 事実彼女が持ってきてくれた情報でジャンヌ達は強化されたんです!」
美月はそう訴え……。
司は椅子にどかりと座ると……。
「危険だぞ? もし、行くとするなら君一人で……」
「アタシも行く……」
司の話に紛れ込み、綾乃は前へと出ます。
「綾乃……」
「……友達を大事な人を見捨てられないよ」
綾乃は司をじっと見つめそう訴えるのでした。
こうなったらもう意見を変えない。
それをこれまで一緒に暮らしてきた司は知っているのでしょう……。
彼は残念そうな表情を浮かべると……。
「分かった。そもそも私が止めようが恐らく君は行ってしまうのだろうな」
そして、その表情を心配する物へと変えると……。
「ただし、ちゃんと戻ってくることが条件だ……良いな」
彼はそう言うと今度は美月の方へと目を向け……。
「私が言えた義理ではない、だが……彼女を頼むよ」
「もちろんです」
美月はそう答えると力強く頷くのでした。
それを見ていた司はようやくほっとした表情へと変えると……。
「では二人にはあの少女の護衛、そして……監視を言い渡す」
監視の意味はないと思います。
そう言いかけた美月でしたが、その言葉は飲み込み綾乃と目を合わせると互いに頷きあい……。
「「了解」」
とだけ返すのでした。




