40話 出撃する戦乙女
綾乃の行動に対し、美月は固まっています。
そんな時……。
「「――っ!?」」
鳴り響く警音に二人は身体をびくりとさせます。
それは天使の襲撃を知らせる音でした。
「……美月」
不安そうな綾乃に対し、美月はゆっくりと頷くと……。
「うん、行こう!」
美月の言葉に綾乃も頷き二人は立ち上がると手を繋ぎながら部屋を後にします。
母は見送ってくれるつもりだったのでしょう。
部屋の外で待ち構えていました。
「美月、それに綾乃ちゃん……」
「行ってきます」
母の顔を見るのは辛かった……。
戦いに行く……それはもう二度と彼女と会えないかもしれないという危険があるのです。
それでも、香奈は母の顔をしっかりと見て「行ってきます」と伝えたのです。
「行ってらっしゃい」
母は一瞬悲しそうな表情を浮かべました。
しかし、そんな彼女は引き留めることはなく、笑みを作るとそう言ってくれました。
母と娘。
思いは同じでしょう……。
それでも、互いに……まるでただ出かける時のようにやり取りをしたのは理由がありました。
簡単なことです。
ここに戻ってくるためです。
喧嘩や黙って出かけてもう二度と会えないなんて不安を抱えたくはないのです。
戻ってくることを誓い。
彼女は部屋を後にします……。
「美月……怖い?」
綾乃にそう言われ、美月は頷きます。
怖くない、なんて嘘はつけませんでした。
すると綾乃は……。
「そう、だよね……怖いよね……」
赤く晴れた目を悲し気に歪めながらそう口にしました。
そして――。
「あたしが美月を巻き込まなければ……」
こんなことにならなかったのに……。
そう思っているのでしょう。
ですが、美月はゆっくりと首を振りました。
「そんなことはないよ……だって、この時代じゃどこに居てもいつ死ぬかなんてわからないよ……抵抗の手段があるだけ気が楽だよ?」
その言葉は以前の彼女からは決して出てこない物でしょう。
ですが、そう言えるように変わったのは紛れもなく綾乃のお陰でもあるのです。
だからこそ、美月は――。
「だから、ここを守れるように一緒に戦おう?」
綾乃にそう伝えるのでした。
ハンガーへとたどり着いた二人はそれぞれの機体へと乗り込みます。
そして……。
『悪魔乗り各員に通達……気を、付けてください』
そんなことは分かりきっている言葉です。
何故いまさらそんな事を? と考えていると……。
『今回の敵数1……今までの事を考えると少なすぎます』
確かにこれまでの戦いの中で美月たちは力を見せつけてきたのです。
そのため通常の天使では敵わないと新たな機体を導入させていました。
だというのに今更一機だけで攻めてくるのはおかしい。
彼女はそう言いたいのでしょう。
そして、それは美月たちも理解できるような怪しさでした。
「了解」
美月はそう言うと機体の発進シーケンスへと移ります。
そして――。
「美月……」
綾乃に名前を呼ばれ、微笑むと……。
「綾乃ちゃん……頑張ろうね」
と声をかけます。
そして――真っ直ぐに前を見据え口にしました。
「夜空美月……ジャンヌダルク、行きます」
その言葉を合図にぐんっと加速する機体。
最初は悲鳴を上げていたそれはもう慣れたと言ってもいいのでしょう。
彼女は真っ直ぐに前を見つめたまま支部の外へと飛び立ちました。
天使が何を考えているのかは分かりません。
ですが、そんなことはどうでもいいのです……。
美月たちにとって重要なのはどう生き残るか……。
戦っても死んでいては意味がないのです。
そう思うと美月はある人の事を思い出します。
だから……死んじゃったら意味ないですよ……新谷さん。
皆……ううん、東坂さんは一番悲しんでるんですから……。
助けてくれたことは感謝してました。
ですが、心にぽっかりと穴をあけたことは許せなかったのです。
彼女はそんな自分を少し嫌に思いましたが……。
私は死なない……死ねないんだ!!
そう強く思う事が出来ました。




