39話 頼り頼られる戦乙女
部屋へと戻った美月は綾乃の姿がない事に気が付きました。
慌てて探すと……。
「綾乃ちゃん?」
彼女はすぐに見つかったのです。
扉から少し見えにくい角で彼女は布団をかぶり丸くなっていました。
酷く怯えた様子です。
彼女は美月を見つけるとすがるような視線を送りますが、その場から動こうとしませんでした。
「ど、どうしたの?」
いつも明るい彼女がそんな姿になったことは見たことありません。
美月は慌てて彼女へと近づきます。
すると震えながら彼女は美月を見上げ……。
「あたしはだれ?」
まるで子供のようなたどたどしい言葉でした。
「ねぇ……アタシは……だれ?」
今度ははっきりとしていました。
ですが、声は震え涙声です。
クラリッサは知らせておいた方がいいと考えたようですが……。
確実に綾乃の心は傷ついていました。
いえ、傷つかないはずがありません。
今まで父だと信じていた人が父ではなかったのです。
更には名前すらも違うとなれば……。
「ねぇ……写真のあの男の人は誰? ねぇ……ねぇ」
綾乃はゆっくりと美月に近づくと縋りつくように抱き着き……。
「わかんない……わかんないよぉ……」
泣きじゃくり始めました。
もう、どのぐらい泣いていたのでしょうか?
目の周りは赤く腫れており……美月は彼女のそばを少しでも離れたことを悔やみました。
自分が居たらすぐに話を聞いて上げれたのに……。
そう思ってしまいました。
きっと起きた時に美月が居ない事に気が付き不安になったのでしょう。
「ごめんね、綾乃ちゃん」
美月は思わず謝ります。
すると綾乃は顔を上げ……。
「怖い……よ……ねぇ、あたしはだれ?」
質問は最初に戻っていました。
「綾乃ちゃんだよ……私の大事な人」
美月は今度こそしっかりと答えます。
すると綾乃は……。
「でも、アタシは綾乃じゃない……名前も知らないんだよ?」
「私にとって目の前の貴女は綾乃ちゃんだよ」
そっと抱きしめながら美月はそう口にします。
「綾乃ちゃんが居てくれたから、私はここまでこれたの……いなかったらとっくに折れてた。ううん……死んでたかもしれない」
「美月……?」
そこまで言って美月は黙り込むと……。
「違う……」
「え?」
「私はもっと前から綾乃ちゃんに助けられたんだ……学校に居た時からずっと、私を助けてくれたのは貴女……そんなあなたの名前は綾乃でしょ?」
にっこりと微笑む美月を呆然と見つめる綾乃は……。
「なにそれ……」
「でも、本当の事だから……」
ようやく笑みを浮かべたことにほっとした美月は同じように笑みを浮かべました。
大事な大事な友人。
そして、それ以上の存在なのです。
「私は綾乃ちゃんを守る、だから……綾乃ちゃんは私を守って?」
「……そうだね、そうだったね……」
かつて交わした約束。
それを思い出したのでしょう。
綾乃はようやく悲しみの涙を止めるのでした。
そして、ほっとした綾乃はゆっくりと美月にすり寄ってきました。
「あ、綾乃ちゃん!?」
「もう、ちょっと……もう少しだけ、お願い……」
そう言われるともう何も言えない美月は大人しくされるがままです。
そして……。
すり寄ってくる綾乃からは何とも言えない香りがし……。
な、なんだかドキドキする……。
と美月は思いながら固まってしまうのだった。




