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37話 真実を確かめたい戦乙女

 美月は疲れて眠ってしまった綾乃へと目を向けました。

 今日はいろいろあったのです。

 綾乃は司の娘ではなかった。

 それが本当だとしても、その事実は彼女の心を揺さぶってしまっていたのです。

 いや、綾乃だけじゃありません。

 美月もまた彼女同様戸惑っていました。


 あの優しい司は嘘だったのかもしれない。

 そう考えてしまったのです。


「…………」


 美月はじっと綾乃の顔を診つつ、頭へと手を乗せ撫でていきました。

 手入れをしっかりとしているのだろう、このご時世にしては手触りが良い髪の感触がしました。

 勿論、そうだとしても多少なり痛みはあるように思いました。


「ずっとそばにいるから」


 そうつぶやくと美月は彼女の横へと横たわる。

 このまま綾乃を起こすわけにはいかないと考えたのです。

 美月のつぶやきは綾乃の心に何か影響したのでしょうか?


「…………んぅ」


 綾乃はどこか安らいでいるように見えたのです。

 そんな彼女の手を握りつつ美月は柔らかな笑みを浮かべる。

 彼女の傍に居るだけで美月も落ち着くのです。


 美月はゆっくりと目をつむり、寝息を立てました。

 綾乃の傍に居る……。

 美月が傍に居る……。

 二人の中ではそれが最も大事な事をなってしまったのです。






 目を覚ますとまだ綾乃は寝ていました。

 ですが、うなされたり顔をゆがめたりする事はありませんでした。


 美月は彼女の様子を見てほっとしつつ。

 起き上がる。


 そして、クラリッサの言葉を再び思い浮かべました。

 綾乃は司の子ではなく伊達の子供だという事……。


 果たしてそれは本当なのでしょうか?

 でも、確かに伊達は怖い顔ではありましたが、優しい人です。

 確かに綾乃の事も心配していました。

 ですが、同じように司も彼女を心配していたはずなのです。


「確かめなきゃ……」


 そう一人決意をした彼女は部屋を後にするのでした。

 彼女が向かうのは勿論司の元ではなく伊達の所です。

 今、司の所に行っても何も得られない。

 それは分かっていました。








 ハンガーへとたどり着くと一人座り込んでいる伊達の姿を見つけました。

 彼は何かを見ているようです。

 美月はこっそりと後ろから覗き見てみるとそこには一枚の写真があったのです。

 そして、クラリッサの言ったことは本当だと確信しました。


「この頃のあいつはな……近所の男の子と遊ぶのが好きだった……いや、あいつが好きだったのかもしれねぇ……親としては複雑だったが……」


 美月が居ることに気が付いていたのでしょう。

 彼はそう口にしました。


「だがよ、こいつが死んでいいとは思わなかった……」

「…………その人見覚えがある」


 その写真にはもう一人一緒に写っている少年が居たのです。

 まぎれもなく美月が助けられなかった少年です。


「こいつはあいつの恩人だ……俺が間に合わなかったばっかりに子供を死なせた……」


 ギリリと歯ぎしりの音がしました。

 伊達はそれからずっと苦しんでいるのでしょうか?


「その後、あいつは脳に障害があると言われて連れていかれて、次に会った時には記憶がなかった……俺じゃない別人を父と言い名前すら違った」

「………………」


 それが真実……なのでしょう。

 美月には彼が嘘をつく必要がないと思いました。

 だからこそ、黙って聞いていたのです。

 そして……。


「後悔してるんですよね? どうするんですか?」

「……俺は整備士だ。あの頃の何もできない俺じゃない、守ってやるさ……最高の機体に仕上げてな……」


 彼はそう言うと立ち上がり美月の方へと目を向けるといつも通りの笑みを浮かべるのでした。

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