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12.女将さんの悩み

久しぶりの投稿です!

今日から毎日更新していきます!

 ギルドアークにて。


 エミリアはギルドに置かれている机の一つで、料理道具の清掃やチェックをしながら呟いた。


「相変わらず人が、いらっしゃりませんね……」


 ギルドアークは、相変わらず閑散としていた。


 ギルドの受付に座るイネスがにっこりと笑う。


「まあ、ここからよ! 肉屋ギルドと新しくワイルドボアの肉を卸す話をまとめたことで、少しは界隈で話題になるはずよ」


 エミリアは手元の包丁を見る。

 ピカピカでこれ以上メンテナンスする箇所はない。


 道具をカバンにしまう。


 ふと、アベルのことを思う。


 アベルはクエストに出かけていて、不在だ。


 エミリアの胸が少しもやりとする。


 その時、ギシギシという音を立てながらギルドの扉が開いた。


 来客だ。


 イネスが、ガバッと顔を上げる。


「いらっしゃいませ!」


 エミリアも扉の方を見る。


 すぐにエミリアは立ち上がった。


「女将さん!」


 そこには、エミリアがお世話になっていた、宿屋クラークの女将さんがいた。


 女将さんがエミリアの方を見て、にっこりと笑った。


「やあエミリア。元気にしてたかい?」

「はい! おかげさまで」

「そいつはよかった!」


 エミリアは元気よく答える。

 それを聞いた女将さんが、エミリアの方に歩いてきて、頭を下げた。


「突然ごめんね、ちょっとあなたに相談させてくれないかい?」


 相談?


 女将さんが頭を上げた。


 エミリアは女将さんの顔をまじまじと見る。


 少し痩せただろうか? 目の下のクマも気になる。


 背後からイネスの声が聞こえた。


「そのお話、私にも聞かせていただくことができますでしょうか?」


 いつの間にか、イネスもギルドのカウンターから出てきて、エミリアのところに来ていた。


 女将さんの方を再び見る。


「あなたは……」

「申し遅れました。私はイネス、このギルド・アークのギルドマスターをしております」


 女将さんが慌てて頭を下げる。


「おっと、すいません。挨拶が遅れてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ。顔をあげてください」


 女将さんが顔を上げる。


「それで、話を聞いても?」


 女将さんが頷く。

 そしてぽつりぽつりと話し始めた。


「実は……エミリアちゃんがいなくなってから、店の料理の売り上げが激減してね……」

「ええっ! す、すいません。私何かしちゃいましたか……?」


 エミリアは驚きながら聞いた。


 女将さんは首を横に振った。


「いや、逆さ。エミリアちゃんが何もしなくなったから、店の売上が落ちちゃったっぽいんだ」

「逆……」


 エミリアは女将さんを見つめた。


「エミリアちゃんに捌いてもらってた頃、明らかに肉質が上がっていた。それに慣れてしまった人たちが、味が落ちたと思ったみたいでね……」

「そんな……」


 考えれば当たり前のことだった。

 エミリアは魔獣の肉の臭みを消して肉質を大幅に上げる解体のテクニックを持っているのだ。


「だから、どうにかできないかと思って今日は相談に来たんだ」

「なる……ほど……」


 イネスが口を開いた。


「難しい問題ですね。エミリアさんが捌いた肉を卸せば解決しますが、それだとエミリアさん依存になりいずれ破綻してしまうでしょう」

「そうなんだよ。短期的にはよくても、エミリアちゃんがいなくなったりしたら、また状況は同じことになる」


 女将さんがため息をつく。


「かといって、一度上げちまったハードルは中々下がらないもんだ。だから困っちまってね……」


 エミリアは考え込んだ。


 自分が中途半端に手伝ってしまったせいで、女将さんに迷惑がかかっている。


 イネスがエミリアに聞く。


「魔物解体の特別なコツみたいなのを教えることってできないのですか?」

「……同じ種類の魔物でも、一体ごとに微妙に魔力だまりとなっている部分が違うのです。それを適切に切らないと、塊肉にするのは難しく……」


 女将さんも難しそうな顔をする。


「そうだよねえ……まあ、塊肉じゃなくても、美味しい料理さえ出せればいいんだけど」

「あ、それなら解決方法があるかも……?」

「「え?」」


 女将さんとイネスが口をぽかんと開いている。


 エミリアはにっこりと笑った。


「実は魔物の肉にはある特徴があるんです。一定より小さく切れば、だんだん魔力が抜けるんです」

「なんだって!」

「エミリアさん、それ大発見よ!」


 女将さんとイネスが驚く。


 エミリアにとっては当たり前の知識だったが、あまり広まっていない知識らしい。


「それは本当なのね! 早速検証しましょう!」


 イネスに肩を揺さぶられる。


「は、はい。とはいえ、ここからが問題で、麦の種子なんかよりも小さくしないと魔力は抜けないんです」


 イネスがぴたりと止まった。


「なるほど、それは少し問題ね」

「はい」


 女将さんも難しい顔をしている。


「そこまで肉を小さくするには、かなりの時間が必要ね。そうなると、仕込みに時間がかかりすぎちまう」

「はい、なので誰でも素早く肉を細切れにできる機械を考えてみました。鍛冶師さんに説明すれば、作れると思います」

「なんだって」

「ええっ! 本当に!」


 またイネスと女将さんが驚く。


 エミリアは縮こまる。


「いや、まだアイディアの段階なので、実現できるかは怪しいのですが」


 女将さんがエミリアの手を取った。


「エミリアちゃんが来てくれたことで出た利益分が余っている! そのお金でそんな機械があるなら買う!」

「は、はい。では職人さんと相談しようと思います。イネスさん、それでいいですか?」


 イネスを見てみると、少し考え込んでいた。

 しばらくして、イネスが口を開いた。


「エミリアさん、今回の発明は王国の歴史を変える可能性すらあるわ」

「ええっ!」


 エミリアは思わず口を手で押さえた。


「そ、そんなにですか?」

「ええ、そんな機械ができれば、魔物の肉が一般的に食べれる可能性が出てくる。そうなったら、食生活が一変する可能性があるわ」


 イネスが頷きながら言う。


「もろもろ権利関係などの手続きが終わるまでは、このことは口外しない方がいいわ」


 女将さんとエミリアは黙って頷く。


「じゃあ、早速職人さんと話してみましょうか!」


 ♦︎


 一週間後。


 再び女将さんが、冒険者ギルド・アークにやってきた。

 エミリアが出迎える。


「完成したのかい?」

「ええ、試作品ですが!」


 エミリアがにっこりと答える。


 カウンターにいるイネスに合図をして、調理室に案内する。


「おお、これが……!」


 調理台の端に、短い鉄の筒を横にした道具が固定されていた。

 上には肉を入れる広い口が開き、後ろには手回しのハンドルがついている。

 筒の先を塞ぐ丸い板には、小さな穴がびっしりと並んでいた。


 エミリアが小さく切った肉を入れ、ハンドルを回す。

 中の刃で細かく刻まれた肉が、正面の穴から細いひも状になって押し出され、下に置いた皿へぽろぽろと落ちていった。


「すごい!」

「はい、何度か試作して、ここまで細かく刻めるようになりました。この細かさなら、魔物の肉から魔力が抜けて臭みも消えるはずです!」

「おお!」


 女将さんが驚いた顔をして、そしてすぐに真剣な表情になる。


「けど、ここからメニューを考えないとね……」

「あ、おすすめのメニューがあるので、それも教えますね!」


 エミリアはにっこりと笑った。


「……そこまでしてもらっても、どうやって返せばいいかわからないよ」


 女将さんが困ったような表情をする。


 エミリアは首を横に振った。


「いえ、いいんです。王都に出てきて困っていた私を助けてくれたのは女将さんなので」


 エミリアは微笑む。


「あ、どうしてもと言うなら、定期的に魔物の肉の発注を、ギルドアークにしてくださりませんか? そうすればみんな幸せだと思うので」

「……そんなことでいいなら、させてもらうよ」


 女将さんが負けたといった表情で笑った。


「よかったです。じゃあ、料理に入りますね」


 女将さんが真剣な表情になった。


新作短編『商売のことしか頭にない下賤な血の女はいらない 』を投稿しました。

ボロ宿を王国一の宿にしようと奮闘する女の子の恋愛物語です。


こちらもぜひよろしくお願いします。


こちらから読めます。↓

https://ncode.syosetu.com/n6754ms/

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 定番のアレかな(笑)
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