11. 愚か者の買い占め
イネスが肉屋ギルドと交渉して、一週間後。
王都の大通りに面した、周りの商会と比べて一際大きい、緑色に塗られたルーク商会の建物。
そこで商会主のダリオは、豪華な装飾のついた椅子の上、一人の派手な化粧をした女性を膝に乗せていた。
「ダリオ様、まだ昼ですわよ〜」
「うへへ、いいじゃないか」
女性の体を、指をくねくねとさせ弄ろうとするダリオ。
「もう、ダリオ様ったら〜!」
「ぐふふ」
こんこん。
扉が鳴った。
女性が真顔になり、ダリオから少し離れたところに立った。
「……入れ」
足を組むダリオ。
「失礼します」
「なんの用だ? コンラート、今は忙しいんだが」
吐き捨てるように言う。
「……へへ、すみません。ただ副商会主としてダリオ様の耳に入れた方が良いかと思うことがありまして」
手をこねるようにしながら、コンラートが媚びる。
「ふんっ。さっさと言え」
「はい、実は今までの肉を遥かに超える旨味を持った幻の肉が、肉屋ギルドから新しく売られるらしく」
「手に入れろ。どんな金を払ってもな」
被せるようにダリオが答える。
「美食は俺のように舌が肥えているものにこそ相応しい。そこら辺の馬鹿どもが食べていいものではない」
髪をゆっくりとかきあげるダリオ。
「それだけか? それならさっさと出ていってくれ。やりたいことがあるんだ」
そう言って舌なめずりをするように、側に立つ女性の方の全身を見る。
「承知しました。しかしダリオ様、もう一つ耳に入れたいことが」
「なんだ?」
コンラートが少し迷った顔をする。
「実はその肉は、ワイルドボアの肉らしく……」
「なんだとっ! 魔物が食えるはずない! 馬鹿馬鹿しい、期待して損した」
ダリオが舌打ちする。
「この話はなしだ。肉は確保しなくていい」
「しかしですね、ダリオ様。他のめざとい商会はすでに冒険者を集めて、ワイルドボアの肉の確保に動いているようです」
「なるほど。高貴な俺は魔物の肉なんて食べない。けど売れるならそれは別の話だ」
頷きながら、ニヤつくダリオ。
「今すぐ金をかき集めろ。冒険者たちにワイルドボアの肉を集めさせるんだ。どれだけ大金を払ってもいい。集められるほど集めろ。チャンスだ」
「はっ。承知しました。では、早速動き出します」
コンラートは一礼して部屋から出ると、扉を閉めた。
「全く金儲けの才能がありすぎるのも困るなあ」
ダリオはニヤニヤしながら呟く。
「また儲けてしまう」
その時、ふと一人の「無能」のことがダリオの頭をよぎった。
「あの田舎者、体つきは良かったけどなあ」
そう言いながら、女性に手招きする。
「おい、こっちに来い」
「はい」
女性が再びダリオの膝に座った。
そういえば、あの後も「無能」は王都に居続けているらしいと聞いた。
だから王都から追い出すように痛めつけろと冒険者に指示したが、どうなったのだろうか。
そんなことを考えながら、女性の体をなぞっていく。
「ダリオ様、もう。困りますよ〜」
「でゅふふ、いいじゃないか!」
しばらくそうするうちに、ダリオは何を考えていたのか忘れていった。




