エピローグ
——時は流れ、ルディア王国、王都。
その日、街はかつてないほどの祝福に包まれていた。第一王子アルベルト・ルディアと、『守護の巫女』リア・アリアの婚姻が正式に発表されたのである。
国を守る結界を司る巫女は、王国にとって国宝にも等しい存在だ。しかも、その巫女は平民出身。王子との恋が成就したとなれば、市井が熱狂するのも当然だった。
人々は花を撒き、酒場では祝い酒が振る舞われる。まるで御伽噺の結末だと、誰もが嬉々として語り合っていた。
もっとも、その婚姻に至るまでには様々な波乱があったとも囁かれている。中でも有名なのが、『悪役令嬢』ルクレツィア・アーデの存在だ。
穢れなき巫女へ嫉妬し、迫害を繰り返した公爵令嬢。ついには殺害まで企て、断罪された大罪人。
秘密裏に処刑されたのだという噂だが、誰もその処刑がいつ、どこで行われたのかも知らない。
慈悲深き巫女の嘆願により、アーデ家そのものは取り潰しを免れたものの、公爵は責任を取って隠居、爵位は長男クラウディオへ譲られた。クラウディオもまた、生涯を王国へ捧げることで、辛うじて家名を守ったのだという。
「——だ、そうですよ。ルチア様」
——そんな噂話を楽しげに語る民衆の傍らを、一人の青年と少女が通り過ぎた。
「王子殿下と巫女様の話。今日はその噂で持ちきりですね」
「あらまあ。それは……」
くすりと笑いながらそう囁く青年に、少女は目を細めた。
応える声は楽しげに。燃えるような赤髪が、陽光を受けて揺れる。
「それは——なんて、つまらない恋物語かしら」
少女はそう言うと、クスクスと喉を鳴らして笑った。
その笑みに、隣に立つ灰色の髪の青年はどこか穏やかな眼差しを向ける。
「そろそろ帰りましょう、ゼノ」
「はい、ルチア様」
二人はそう言うと、祝祭に沸く街を背に再び歩き出した。
青年に差し出された手を、少女は自然に取る。
ざわめきに満ちた人波。人混みを抜け、二人は喧騒の向こうへ消えていく。
帰る場所は、もう決まっていた。
了
ルクレツィア・アーデ
ゼノ
アルベルト・ルディア
リア・アリア
クラウディオ・アーデ
父公爵 (アウグスト・アーデ)
公爵夫人 (ベアトリーチェ・アーデ)
お読みいただきありがとうございました。感想や評価などいただけると嬉しいです。
また、近日中に別の長編作品も投稿予定です。
今作とは雰囲気の違う、復讐をテーマにしたダークファンタジー長編ですが、もしご興味がありましたらそちらもお付き合いいただけると嬉しいです。




