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第11話 「誤解、再解釈中」

翌日。


 学園の空気は、奇妙な静けさに包まれていた。


 ざわめきはある。


 だが以前のような、“探る声”ではない。


「やっぱり昨日の……」

「見た? ヴィオレッタ様のやつ」


 そこにあるのは、確認。


 もう誰も、“疑い”として話していなかった。


(……完全に固定されたな)


 アルスは廊下を歩きながら、小さく息を吐いた。


 ヴィオレッタは何もしていない。


 否定も。

 弁解も。

 訂正も。


 ただ、“そう見える空気”を受け入れ続けただけ。


 それだけで――


 人は勝手に、答えを完成させる。


「中々いい感じですわね」


 隣で、ヴィオレッタが満足げに言う。


「その感想が出る時点で怖いんですよ」


「褒め言葉として受け取っておきますわ」


「だから褒めてないですって」


 軽口。


 だが、アルスの視線は周囲を観察していた。


 距離感。


 声色。


 視線。


 全員が無意識に、“ヴィオレッタへの接し方”を変えている。


(ここまで来ると、逆に崩れにくい)


 印象は脆い。


 だが、一度“共通認識”になると強固になる。


 ――その時。


「本日放課後、学生会による学生裁判を行う」


 校内放送。


 聞き覚えのある声。


 クラウス=ベルンだった。


「対象は、先日の件に関するものだ」


 一瞬で、空気が揺れる。


「うわ……」

「マジでやるのか」


 ざわめき。


(公開処刑かよ……)


 アルスは顔をしかめた。


 完全に、“事件扱い”だ。


 視線を横へ向ける。


 ヴィオレッタは――


「絶好の舞台ですわね」


「やっぱそうなりますよね」


 即答だった。


◇ ◇ ◇


 放課後。


 講堂には、多くの生徒が集まっていた。


 緊張。

 好奇。

 そして期待。


 様々な感情が、

 講堂の空気を満たしていた。


 その全てが、一人の令嬢へ向けられている。


 ヴィオレッタ=ローゼンベルク。


 今や学園内で最も“話題になっている存在”だった。


(完全に公開処刑の空気だな……)


 後方の壁にもたれながら、アルスは小さく息を吐く。


 中央には、生徒会長クラウス=ベルン。


 そして、その正面にヴィオレッタ。


 まるで裁かれる側だ。


 ――本人は妙に堂々としているが。


「これより、学生裁判を行う」


 クラウスの静かな声が響く。


「近頃、一部生徒に対する過度な指導、並びに威圧的言動について」


 一拍。


「対象は、ヴィオレッタ=ローゼンベルク」


 ざわり、と空気が揺れた。


 だが、その視線を受けてもなお。


 ヴィオレッタは微笑みを崩さない。


「まず確認します」


 クラウスが真っ直ぐ見据える。


「あなたは、マリアに対して必要以上の圧力をかけた」


「そう見えるのであれば、否定はしませんわ」


 即答。


 空気がざわつく。


「では、周囲へ恐怖を与えた件については?」


「結果としてそうなったのであれば、受け入れます」


「否定はしない、と」


「解釈は人それぞれですので」


 まただ。


 否定しない。

 弁解しない。


 だからこそ、

 周囲が勝手に“答え”を補完する。


「やっぱり……」

「認めてるようなもんじゃ……」


 空気が、ゆっくり傾いていく。


(……この人ほんと容赦ないな)


 アルスは額を押さえた。


 自分から悪役側へ寄っていく。


 普通なら避ける流れを、

 ヴィオレッタは迷いなく受け入れていた。


 だが――


(そろそろ限界だな)


 このままでは、

 本当に“悪役令嬢”として固定される。


 それは計画通り。


 ……のはずなのだが。


(なんか違うんだよな)


 アルスは小さく目を細める。


 ヴィオレッタのやり方は、

 確かに怖い。


 誤解も利用する。


 空気すら誘導する。


 だが。


(“悪意”がない)


 利用している。

 誘導している。

 誤解すら武器にしている。


 なのに――


 誰かを壊そうとはしていない。


 そこが、妙に引っかかっていた。



「あの、発言いいですか」


 アルスは手を上げた。


 視線が集まる。


「またあいつか」

「例のやつ……」


 小さなざわめき。


 アルスは肩をすくめながら前へ出た。


「一応確認なんですけど」


 軽い調子で言う。


「ヴィオレッタ様って、具体的に何したんです?」


 空気が止まる。


 クラウスが目を細めた。


「それはどういう意味でしょう」


「いや単純に」


 アルスは続ける。


「確かに怖い、厳しい、圧がある。そこまでは分かります」


 一拍。


「では、実害は?」


 ざわり、と空気が揺れた。


「課題を押し付けた?」

「怒鳴った?」

「暴力を振るった?」


 アルスは周囲を見渡す。


「……誰か、実際に何かされたんですか?」


 沈黙。


 誰も、答えられない。


(だよな)


 結局みんな、

 “空気”で判断している。


「ですが、周囲への影響は――」


 誰かが言いかけた、その時。


「それなら、私が言います」


 小さな声。


 マリアだった。


 空気が変わる。


「マリア……」


 震えている。


 けれど、逃げていない。


「ヴィオレッタ様は、確かに厳しかったです」


 ざわめき。


 だが。


「でも」


 顔を上げる。


「ちゃんと、私を見てくれてました」


 一拍。


「私は、一度も見捨てられてません」


 静寂。


 その言葉は、

 今までの空気を真正面から揺らした。


「だから……」


 マリアは小さく拳を握る。


「勝手に“悪い人”って決めないでください」


 空気が止まる。


 今まで“共有されていた誤解”に、

 初めて明確なヒビが入った。


「……なるほど」


 静かな声。


 クラウスだった。


「つまり、“見え方”と“実態”にズレがあると」


「ご自由に解釈してくださいな」


 ヴィオレッタは微笑む。


 肯定もしない。


 否定もしない。


 だが――


 その態度は、以前とは少し違って見えた。


「……やり方が不器用すぎるだろ」


 誰かが、小さく呟く。


 その一言で。


 空気が、変わった。


「いやでも……」

「実際、マリア本人が……」


「っていうか俺ら、勝手に盛り上がってただけじゃ……」


 揺らぎ。


 再解釈。


 “確定していたはずの誤解”が、

 少しずつ形を失っていく。


(……崩れ始めたな)


 アルスは小さく息を吐いた。


 ヴィオレッタの“悪役令嬢計画”は、

 確かに学園を動かした。


 だが――


  その結末は、


 誰も予想していない方向へ、

 静かに転がり始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


ついに始まった学生裁判。

ですが、ヴィオレッタは相変わらず否定も弁解もしません。


その結果――

“完成していた誤解”が、少しずつ別の形へ変わり始めました。


そしてアルスも、

ようやくヴィオレッタの本質に気付き始めています。


次回、悪役令嬢編クライマックスです。


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