第1話「スライム転生、在庫切れにつき」
俺は魔王に負けて死んだ。
そして気がつけば――ブラック企業に就職していた。
……いや、違う。自分で志願したんだった。今ではちょっと後悔してる。
――株式会社エリュシオン・ゲート。
死者を異世界へ転生させる、いわば“来世の窓口”だ。
大理石の床に、天井から吊るされた巨大なシャンデリア。
高級ホテルのフロントと見間違うほどの豪華な受付。
「いらっしゃいませ。本日はどのような転生をご希望でしょうか?」
カウンターに立つ女神は、完璧だった。
微笑み、声色、姿勢、そのすべてが“神の接客”。
――ただし。
「ちょっと!アルス!!スライム転生の申請書どこやった!!あと“鑑定スキルS+”在庫ゼロだからね!!」
「今探してます!!ていうかそれ昨日もゼロでしたよね!?」
バックヤードは戦場だった。
段ボール、段ボール、また段ボール。
“こんぼう(初心者用)”“村人スターターキット”“チートスキル(※残りわずか)”と雑に書かれた箱が山のように積まれている。
俺はその隙間を縫うように走りながら、書類の海をかき分ける。
俺の名前はアルス元勇者で、今は雑用係だ。
◇ ◇ ◇
「もう一度……勇者としてやり直させてください!」
「申し訳ございません。勇者として再転生するには、徳ポイントが不足しています」
「徳ポイント………その徳ポイントってのは増やせないんですか?」
「そうですね……現在、人手不足ですので。前世が勇者である点も考慮し、労働による加点制度をご案内できます」
女神は笑顔でそう言った。
その結果がこれだ。
◇ ◇ ◇
「見つけた!!スライム転生の申請書ありました!!」
「遅い。もうクレーム来てる」
「ていうか申請書あるなら問題ないじゃないですか!」
「問題はそこじゃないのよ……はぁ」
温度が一気に下がる。嫌な予感しかない。
カウンターに戻ると、いかにも“それっぽい”男が腕を組んでいた。
「だから言ってんだろ!?俺はスライムに転生して最強になるんだよ!!」
出た。テンプレだ。
「申し訳ございません。ただいまスライム転生は大変人気となっておりまして――」
「人気とか知らねぇよ!!テンプレ通りやらせろ!!」
バン!と男がカウンターを叩く。
女神の笑顔が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
「……アルス」
「はい」
「スライムの在庫」
「ゼロです」
「はぁ……そうよね」
一拍。
そして再び、完璧な営業スマイル。
「お客様、大変申し訳ございません。現在スライムの“素体”が欠品しておりまして」
「素体ってなんだよ!!」
「スライムになるための素材みたいなものです。代替案として、“やや硬質なスライム風生命体”または“スライムに強い憧れを抱いたゴブリン”など――」
「妥協の方向性がおかしいだろ!!」
激昂した男が、再び拳を振り上げる。
その瞬間、俺の体は勝手に動いていた。
手首を軽く押さえる。
「落ち着け」
低く、短く。
男の動きが止まる。
「……ここで暴れても、望みは通らない」
自分に言い聞かせるような言葉だった。
かつて、どうにもならなかった側の人間として。
「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
少しだけ弱くなった男の声に、女神がすかさず入る。
「順番待ち登録が可能でございます。現在、約三百年待ちとなっております」
「長ぇよ!!」
「もしくは“成長速度上昇(中)”を付与可能です。努力次第で最強も夢ではございません」
営業スマイル、完全復活。
男はしばらく悩んで――
「……なら、それでいい」
「かしこまりました。“人間・成長特化型”でご案内いたします」
「結局人間かよ……」
ぼやきながら、男は光に包まれて消えた。
静寂。
――の、次の瞬間。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
女神がカウンターに突っ伏した。
「スライム人気なんなの!?在庫追いつかないんだけど!?誰よトレンド作ってんの!!」
「お疲れ様です……」
「あとアルス!!さっきの対応ちょっと良かったけど調子乗んな!!次ミスったらお前がスライムな!!」
「理不尽すぎません!?」
俺は再び段ボールの山へ向かう。
勇者の力は、今日も荷物運びと書類整理に消えていく。
――でも。
さっきの男の目が、少しだけ頭に残っていた。
最強になりたい、って目。
「……徳、か」
これを積めば、本当にもう一度――
勇者になれるのか。
「アルス!!次、“悪役令嬢に転生してざまぁしたい”って客来てるから対応しろ!!」
「ジャンルが渋滞してる!!」
……そして俺は、まだ知らない。
この“悪役令嬢案件”が――
この会社で一番ヤバい地雷だということを。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
元勇者がまさかの転生受付で社畜になる話、いかがでしたでしょうか。
スライム転生が人気すぎて在庫切れ、というメタい?世界ですが、今後もいろんな“転生希望者”がやってくる予定です。
次回は、予告にもあった「悪役令嬢」案件。
たぶん今回以上に面倒なことになります。
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それでは、また次回お会いできたら嬉しいです。




