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俺の幼馴染♂の距離感がバグりすぎているーソウセキとヤスナリー【3/31完結まで毎日更新・全14話】  作者: 新堂凪×TAU


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其之肆 12月29日 課題と雪解け道と

 暇つぶしに課題と向き合っていると、現実があった。

 指先で文字がこすれた。

 解答欄にいるのは、平らになったオレだった。


「くそ、わかんねえ。なあソウ。お前コレ分かるか?」


「どれ? ああこれか。これはこっちの公式をさ……」


 広げたワークとノートを覗き込みながら、ソウが顔と指を近づけてきた。

 だから近いんだって、お前は。


「あんな学校、受けなきゃよかったな。

そうすれば今頃はもっと。オレもお前もラクに。

通えたのにな」


 幼馴染のオレたちだが、ずっと一緒だった訳じゃない。

 高校は別だ。

 オレは連坊館(れんぼうかん)高校。

 地下鉄東西線で山側の青葉山駅から連坊駅へ向かって、標高百メートルもの勾配を十数分で降りて通っている。

 対してソウは、草葉学院。

 乗るのは同じ地下鉄東西線だが、ソウはオレよりふたつ手前の駅で降りて、また乗り換えしなきゃならない。

 なんでそんな手間で遠い学校にしたんだって思うだろ。

 ソウは別に、第一希望だった訳じゃねえんだ。

 オレが、途中で志望校を変えたから。


 そもそも、オレとソウは成績が違う。

 ソウの方がずっと、勉強が出来たんだ。

 なのにコイツときたら。

 ひとつランクを下げるから、同じ連坊館へ行こうとか言い出したんだぜ。

 どんな青春小説だっての。


「ははは、なんだそれ。ヤスが勉強頑張ったからだろ。

結局最後は、努力だよ」


「いいや、運だな。お前に分けてやりたいくらいだ」


「ありがたいけど、そいつは気持ちだけ貰っとくよ」


 ウチの親は放任主義だけど、学力の高い学校を出て欲しいに決まってる。

 それが親心ってやつだろ。

 大学まで行かなきゃ、最終学歴になる訳だしな。


 オレは考えて、志望校を隣の山の公立から連坊館に変えた。

 オレは親とソウに下駄を履かせてもらって、受験したんだ。

 どうせ落ちると思ってた。

 でもオレは、受かっちまった。


 ソウは落ちた。

前日インフルエンザで高熱を出して、受験出来なかったから。

 追試験は本試験より厳しいことが多いし、公立は定員の枠が決まってる。

 ソウが座るはずだったイスに、オレが座っちまったんだ。


 ワクチンも打ってたし、ウチのお守りひと揃えも渡した。

 見よう見まねで、オレが祈祷までやったんだけどな。

 やっぱり安産祈願は、余計だったのかもな。


 運のないやつだ。


 本当に、運のない。


「俺んちにある参考書、いるか?

ヤスなら使っていいよ」


「必要か、だろ。都会じゃ通じないって、聞いたぞ」


「そんな言い方、疲れるだろ。

それに今は、今だろ。いるか、いらんのか。どっち」


「……いる」


「じゃあ今から俺んち行こうぜ。決まりな」


 ソウは自分の家なのに行こうと言った。

 そこは帰る、だろ。

 あとなにか、なんだかその……。

 ええい、何でもないわ。

 さっさと行って貰ってくればいいんだ。


 連れ立ってウチの寺を出て、除雪の済んだ細い道を縦に並んで歩く。

 青葉山の坂をゆっくりと下っていく。

 今日も大観音(ラスボス)がこの街を静かに見下ろしているが、コイツは本当に見守ってくれているんだろうか。

 ソウのやつが滑る前に、何とか出来なかったのかよ。


 愚痴だと分かっているのに独り言が止まらねえな。

 すると見覚えのある白いワゴンを見つけた。

 稲穂を模したマークを背中に背負って、十字路を曲がっていった。


 ブロロロロ。


 慌てて白い湯気を立ち昇らせるマフラーを追いかけると、どこかの駐車場に入っていくのが見えた。

 駆け出して覗いて見ると、後部座席から荷物を下ろそうとしている人物と目が合った。


「親父さん、ちわ!」


「ただいま、父さん」


「おお、ヤスナリじゃないか。

この前届けた饅頭は、どうだった?」


「ちょっと塩気がありましたね。

そういうまんじゅうがあっても、いいとは思いますが」


「俺はやっぱり甘い方が好きだな」


「塩気か。さすが子供は贅沢な口してるな。

ありがとな。また変化があったら、教えてくれな」


 実はソウの家は和菓子屋だ。

 屋号は、遊苑堂(ゆうえんどう)

 ウチの寺とも付き合いがあるし、格式のある料亭にも卸したりしてる。

 オレが寺の息子であるように、コイツも跡取り息子なんだ。

 まあソウの場合は末っ子で、上に歳の離れたキョウダイがいるから、一人息子のオレとはちょっと違うけどな。


 ソウがまんじゅうが好きなのは昔からだけど、食い飽きねえか?

 ソウセキという名の、血なんだろうか。

 何の話かって?

 本物の漱石は極度の甘党だったらしいぜ。

 まんじゅう茶漬けなんて、とんでもねえ食い方してたとか。

 文豪のやることは、正直よくわかんねえよな。


「あとそこから先は、危ないぞ。気をつけてな」


「ハイ、気をつけます。親父さんまた」


「父さん、また後で」


 親父さんはふつうの道に見えるアスファルトを指差してから、木製番重を両手で抱えて料亭の中へ入って行った。

 雪の多い地域では、透明な氷の膜が張っていたり、溶けた雪がシャーベット状になっていることがある。

 慎重に行かないと、痛い目にあったりするんだぜ。


 ザリッ。グチャッ。


 ザリッ。グチャッ。


「父さんも歳かなあ。甘味と塩気のバランスもわからないようじゃ、先が思いやられるな」


「オレの家で入り浸ってるお前に、言える道理はねえだろ」


 ポコッ。


 ポコッ。


 今のは心の経典だ。

 さすがに木魚バチを持ち歩いていたら、怪しいからな。


 ちなみにソウセキなんて名前なのは、オレが生まれた後に、親父さんが面白がって名付けたからだと聞いている。

 まあ親父さんは、有名なあの一節しか知らなかったらしいけどよ。


「それもまあそうか。ところで外は、思ったより寒いね。

ヤス。やっぱり、寺に帰ろう」


「ああ!? お前が取りに行こうって言い出したんだろうが。

オレはムダな外出はしたくない。

いいから、お前の家に帰るぞ」


 ザリッ。グチャッ。


 ザリッ。グチャッ。


「もしインフルになったら、看病してね」


「アホ! 誰がするか!!」


 ポコッ。


 ポコッ。


 ポコッ。


 心の経文は音声機能がいい。

 伝家の宝刀より、こいつにするべきだろうか。


 吾輩は猫である。

 コイツはそんなことは言い出しやしないが、気まぐれなところは漱石にそっくりだ。

 甘いものに目がないところも。

 オレが持っていないものを、持っているのも。


 後にも先にもきっと。

 コイツだけだ。


「ちぇ、分かったよ。そしたらヤス。

帰ったら靴下かして」


「ああん? 何でだよ」


「たぶん今。おはよう靴下してるから」


「お前、自分の家で取って来いよ!!」


 ポコッ。


 ポコッ。


 ちなみにおはよう靴下は、穴開き靴下のことだ。

 誰が言い出したか由来もよくわかんねえけど、オレとソウはよく使うな。

 だってなんか笑えるだろ。


 ビュウウウ。


 背中から吹き付ける雪国の風は、勢いをそのままに耳から感覚を奪っていく。

 あるはずのものがないように感じられる違和感と喪失感は、後になって鋭い痛みと強い熱を突きつけてくる。

 まるでオレの喉元めがけて飛んでくる、竹刀みたいに。

 ソウがまた何か言っていたけど、イマイチよく聞こえなかった。

仕方なくオレたちは、遊苑堂までの雪溶け道を慎重に急いだ。


 今度は滑らないようにと、強く願って。


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