其之弍 12月27日 肉まんとあんまんと
一人で辿るコンビニからの山道を、月明かりが照らしていた。
雪の溶けた道路が反射で光って濡れていた。
おらほの街の夜に、大観音が発光してるみたいに堂々たる姿で立っていた。
ガサッ。
ガサッ。
ガサッ。
乾いた音を立てるビニール袋は軽いようで、行きはよくても帰りは重く感じられる。
だったらチャリで行けばいいじゃん、と思うだろ。
雪国の冬はな、軒並みチャリは冬眠中なんだ。
青葉山みたいな坂なんぞ下って行ったら、あっという間にガードレールや田んぼにスカイハイだぜ。
もし乗ってるやつがいたら。
そいつは本物のバカか、スリルを楽しむ変態か。
選ばれしレジェンドだな。
ガサッ。
ガサッ。
ガサッ。
タイヤを改造してドリフトしたり。
止まったら転ぶから、滑るのを前提で気合いで押し切るやつもいるな。
北国のエクストリーム・スポーツだぜ。
ははは、オレもやりそうに見えるって?
まあガキの頃はやったけどな。
今のオレがやったらタイトルが『ワイルドスピード・青葉山ー伝説のヤスー』に変わっちまうだろ。
アンタはそれでも、見たいのか?
そうか。ならアンタとニケツでなら、やってもいいぜ。
何倍もきっと、面白くなるぜ。
……なんてな。
ホントにやる訳ねえだろ。
アンタをそんな危ない目に、遭わせられる訳ねえだろ。
「ヤス、おかえり。最新号あったか?」
「あったぞ。おらほのコンビニとオレに感謝しろ」
「なんで? 俺のお金だぞ」
「寒い中、買いに行ったのはオレだろ! まったく、なんでオレが……」
ダウンを雑に脱いで、愛用の半纏を着込む。
コタツに足を入れてから、天板の上に買ってきた物を順に並べた。
週刊誌。スナック菓子。肉まん。
ついでにソウの財布も返してやる。
しかしいつまで使っているんだろうな。
高校生にもなって、マジックテープがついてる財布はやばいだろ。
会計する時に恥ずかしくねえのか、ソウのやつは。
「えろ本とか買わなかったのか? 水臭いなあ。
俺らの仲だべ」
「ヒトの金でえろ本買うほど、図太くはねえよ。
それにイマドキは、ネット一択だろ」
ポコッ。
ポコッ。
ポコッ。
ソウがニヤついた笑顔で言うので、伝家の宝刀をおみまいしてやった。
保温中の電気ポットから湯を急須に注いで、湯呑みに茶を入れてやる。
街中に住んでたら瓢箪揚げを食うとこだけど、ここは山だからな。
仕方ねえな。
肉まんにかぶりつくと、中からじゅわっと肉汁が口の中に広がった。
やっぱり冬のコンビニと言ったら、コレだよな。
さっきの大観音も、毎日見てるとこの肉まんと大差ない気もしてくるな。
ソウはあんまんの方が好きだから、本当はついでに買ってやりたかった。
でも売り切れていてダメだった。
オレが買おうとしてたことは、ソウには言うなよ。
アンタだから教えたんだ。
何だよ、言うなって。
オレとアンタの仲だろ、なあ?
「あちっ。俺思うんだけどさあ。
猫舌用の温度設定、ないのかな。
そういうポットあったら、売れると思うんだけど」
「非効率的だろ、そんなポットは。
大人しく冷めるのを待て。
ところで今日は、帰らなくていいのか?」
「帰ってもいいけど。ヤスは、帰ってほしいの?」
「そんなこと言ってねえだろ。
ただ親父さんとおばさんが、寂しくないかと思っただけだ」
湯呑みを覗き込むと、若草色のお茶から薄く湯気が立ち昇る。
ティーバッグを使う家も多いと思うが、ウチは茶葉から淹れているんだぜ、いいだろ。
おっ、茶柱も立ってきたぜ。
アンタにも見えるだろ。
おらほは、伊達政宗が有名なんだけどよ。
政宗公は茶の湯マニアでな。
そのせいか、茶道が盛んで今でも文化が根付いているんだぜ。
意外だろ。
「言ってきてあるから別に平気だよ。それにほら。
今日は満月だろ。
ヤスの部屋からだと、よく見えるじゃん」
ソウが湯吞みを手にしたまま、窓の外を眺める。
帰り道には気付かなかった、まん丸の黄色い月が浮かんでいた。
欠けている月は、過ぎゆく月日を思い出させるから好きじゃねえな。
でも、丸いのは何となく落ち着くからいいな。
「月餅みたいでうまそうだな」
「そこは月が綺麗ですね。じゃない?」
「ソウ相手に言ってどうする。アホか!」
ポコッ。
ポコッ。
今日も伝家の宝刀をおみまいしてやった。
するとちょうど屋根から雪がドサドサッと、滑り落ちる音がした。
窓ガラスに水滴がつたって、流れていった。
今夜は眠れそうにねえな。
よし、コイツにつきあってもらうか。
「ソウ、なんかゲームでもやろうぜ」
「いいけど、何やるの? 俺はホラー下手だよ」
「そんなことは知ってるよ。だから、面白いんだろ。
バイオとサイレント。どっちがいい?」
ソウがホラーゲーを下手なのは、昔から怖がりだからだ。
だからソウはオレと一緒の時しか、やらないんだぜ。
「雪の村をさ迷うやつと、霧の深い街のやつだっけ?」
「それそれ。ほれ、コントローラーこれな」
「もう、ヤスがやればいいのに。
なんで俺ばっかり……」
文句を言うソウのお腹に手を回すようにして、後ろからコントローラーを支えてやった。
一瞬驚いてこっちを振り返ったが、観念したのか画面に向き直った。
「ボスの倒し方と、進む方向。ヤス、ちゃんとナビしてくれる?」
「オレのサポートで勝てない訳ないだろ!」
サクッ。
サクッ。
サクッ。
六畳間の和室に、静かに雪を踏み締める音が響いていく。
おかしいな。
ちっとも寒くねえな。
なんでだろうな。
不思議に思ったが、画面に集中するとそんなことはすぐ忘れた。
だからオレは思い切りソウをガイドして、熱い雪の夜を過ごした。




