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長い一週間

そして、翌週から私は本当に一人になった。


金曜日が祝日だったということもあり、3日間も休みがあった。


その休みの間、一回もみんなと連絡を取らなかった。


私からLINEすることも、みんながLINEしてくれることもなかった。


別に期待なんてしてないけどね…。私は心のどこかで感じている寂しさに気づかないようにして休日を過ごした。


そして迎えた月曜日。私はいつものように一人で登校した。そして大学に早めに着く。


本当なら、席の場所取りをしながらみんなが講義室に来るのを待つのだが、もうそんなことはしない。


私は最後列の一番左端の席に腰をおろした。


前の列や隣の席に荷物を置いたりなんてしない。する必要がない。


だってもうみんなと一緒に座りたいなんて思えないから。


一緒にいたところで、どうせまたみんなの会話についていけなくなるし、迷惑ばっかりかけてしまう。


もうみんなと居づらくなっちゃったよ。みんなから突き放される前に、私から離れたほうがましだ…。


心臓のあたりがギュウっと痛む。気のせいだよこんなの。痛いなんて思っちゃだめ。不安になっちゃだめ。私は、ひとりで大丈夫なんだ。


家でもひとり。大学でもひとり。そばにいてくれる人なんて、あたしみたいなやつが望んじゃだめ。私には、それを望む資格なんてないんだから…。


そこまで考えて私ははあ、とため息をついた。だめだめ。ひとりでいると、余計なことまで考えちゃう。


それに、朝の講義室は静かだ。だんだん人は集まって来たが、男子やそんなに仲の良くない人ばかりだ。


だから来た人もほとんど話さない。嫌だな、こんなに静かなところ。嫌だな…。


そうだ、音楽を聴こう…あ!笹野さんから教えていただいた曲を聴こうかな。


私はすぐにリュックから携帯をとりだした。


確か曲名が「wreck」と「考えごと」と、「ダリア」だったかな。その曲たちを聴いたらアルバムの曲全部聴いてみよう…。


私はそんなことを思いながらまずは「wreck」を流した。軽快なリズムのギターソロから始まり、そのあとからドラムの音が続く。


へえ、この曲覚えやすいな…私はボリュームを上げて、その曲に聞き入った。


“人は誰しもひとりじゃないという。けどね、やっぱりそう思えない日もあるんだ”


え、何この曲、こんなフレーズから始まるんだ…私は思わず胸を高鳴らせた。


“僕はひとりで外に出る。泣きそうになって空を見上げる。そこには無数の星たちが散らばっていた”


ギターの音が大きくなってサビに入る。私は静かに目を閉じて、無心で「wreck」を聴いた。


“なあ、お前らは僕のことを見てくれるのかい?お前らには僕の声は届くのかい?必死になって叫んでみる。けど、星たちは何も答えない”


“星たちは、ただ何も言わずにキラキラと瞬いていた”


サビが終わり、間奏に入る。初めに聴いた軽快なリズムが私の耳を突いた。


“僕だって気づいてるよ。みんな、ひとりってことはないんだ。誰だって、本当はひとりじゃないのかもしれない”


“けど、じゃあどうしてこんなに寂しくなるの?どうしてこんなに悲しくなるの?胸が痛いよ、苦しいよ”


2回目のサビに入った。


“なあ、お前らには寂しくなるときはあるのかい?お前らには悲しくなるときはあるのかい?僕は声を張り上げて尋ねる。けど、星たちは何も答えない”


“星たちは、ただ何も言わずにキラキラと瞬いていた”


サビが終わって間奏が入る。


星たちは何も答えない、ただ何も言わずに、か…。


“そうか、僕はみんなと違うのか。僕だけが特別なのか。僕ってみんなよりすごいのかも。僕はいい気になって大の字で寝そべる。そしてわははと笑ってみた”


“そして僕の声だけがこだます。僕の声だけが聞こえる。なんだか寂しいよ。嫌になって目を閉じた”


“目を閉じたら真っ暗だ。暗いな、怖いな、寂しいな。僕はひとり、僕はひとり、僕はひとり…”


曲調が変わった。


“いや違う。あんまり暗くないみたい。そんなに怖くなんかないぞ…不思議になって目をあけた”


“そこにはきれいな星空があった。そして、僕は気づいた。星たちは、ずっと僕の上で瞬いていてくれたんだ”


“お前らはずっと僕のことを見てくれてたんだね。僕の傍にいてくれたんだね。僕は手を伸ばしながら話しかけた。けど、星たちは何も答えない”


“星たちは、ただ何も言わずにキラキラと瞬いていた”


“ありがとう。僕はそっとささやいた。星たちは、さっきよりも優しく瞬いて見えた”


曲が終わり、静かにイヤフォンを外した。目からこぼれてくる滴を、そっと指で拭いた。


キーンコーンカーンコーン…チャイムが鳴り、一限目の授業が始まった。


慌てて教科書を取り出す。先生がさっそく今日の授業のレジュメを配り始めた。


ふうっと息をついて、無意識にみんなを目で探す。


探していることに気づいて、私は探すのをやめた。


さてと、今日は一日が長く感じそうだ…。



次の授業は、必修科目だったから、席が決まっていた。よかった。私はほっとして胸を撫で下ろした。


席に着くと、後ろから視線を感じる。横目で見ると、視線の方向には有紀と絢がいた。


表情まで見る間もなく、私はすぐに目を背ける。


今さらもういいよ。休みの間一回も連絡してこなかったくせに、もうその時点であたしのことなんんかどうでもよかったんでしょ。


もう無理してあたしといなくていいから。私は胸の中であの2人にそう話してみた。どうせ聞こえないけど。


講義室の前の入り口から夢美とかおりちゃんが入ってくる。夢美は私に目もくれずにかおりちゃんとおしゃべりしていた。


そうだよね。そう、それでいいんだ。私はふうっと深呼吸した。これでいい、これでいい…。


私はなぜかバクバクしている心臓に手をあてながら、そう自分に言い聞かせた。


そして、やっと金曜日がやってきた。


正直、すごく長かった。一日一日が、すごくしんどくてつまらなかった。


長ったらしい大学が終わると、11時までのバイトが待っている。


笹野さんと顔を合わせられる日もなかったし、相変わらずバイト先でもミスばかりして店長さんに怒られてしまった。


情けなくなって、悔しくて自分に腹が立ちながらやっとバイトを切り抜けられたと思えば、母から嫌味を言われるだけの家に帰宅する。


「帰りが遅いのはママを心配させたいから?」


「なんでそんなにぶっきらぼうなの?鏡見てみなさい?ひどい顔してるわよ。」


「どうでもいいけど洗濯と皿洗いははやいとこ自分で済ませなさい」


腹が立つのに、言い返せないつらさがどんどん溜まっていく。


「ごめんなさい」、「はい」しか言えないことに耐えられなくなって、頭がおかしくなりそうだ。


でも、そんな日々の中でも、星を見ているときだけは心が落ち着いた。


あの曲でもないけど、なんだか心が癒されていくようだった。


そんなわけで、ようやく金曜日の夜を迎えた。家の前で一度深呼吸をしてから、ドアを開けた。


家の中からは、笑い声が聞こえた。ああ、そうか、兄たちが帰って来てるのか…私の気持ちはさらに沈んでいった。


私がリビングへ入っていくと、一瞬笑い声が止まる。こういうのもつらいんだよな…。


「おかえり。」


母が言い捨てるように言う。私も言い捨てるようにただいまと言った。


「おい優梨愛!なんだよお前その態度!」


誠司兄ちゃんから怒鳴られる。相変わらず怖いんだよな、この人に怒鳴られるの。


「優梨愛、ママが毎日ああいう風に言うのはゆりちゃんが心配だからなのよ。優里ちゃんのことを思ってああいう風にいうの。


それに親孝行ならママを安心させてちょうだい。いつも遅くに帰って来て、だからバイトなんてさせたくなかったのよ…。」


ほんとに心配してるんだったらあんな嫌味な言い方しないじゃないの?


あたしがバイトしてる理由、少しは考えてくれたことあるの?


結局あたしが自分のいいように動かないのが気に食わないんじゃないの?


自分の中でどんどん黒い感情が広がっていく。それが嫌になって、ごめんなさい、と言いながら振り切るようにリビングから離れた。


はあ、家にいるのが一番つらいんだよね…私は大きなため息をつきながら情けなく笑った。


そして月曜日になった。


土日は朝からずっと家の外にいたから、兄たちと顔を合わせずに済んだ。


でも、今日は朝から兄たちがそれぞれの県に戻るため、朝から顔を合わせなくちゃいけなかった。


私はいつものようにせっせと大学へ行く準備をする。兄たちも家をでる支度をしている。3人の時間帯が重なるため、洗面所や台所を使うタイミングも被ってしまう。


「おっせえな優梨愛!早くしろよ。」


「ごめん。」


「くっそ、時間ねえ…。」


イライラしながらそう言う誠司兄ちゃんを横目で見ながら、私はそそくさと洗面所を出ようとした。

「おい優梨愛!!いま俺のこと睨んだだろ!?ほんと心狭いなお前。レベル低いな。」


いやそんなことあなたに言われる筋合いなんてないですけど…私は何も言わずに台所でお弁当のおかずを炒め始めた。


「せいじ、こいつがこうなのはいつものことだろ?もうこいつの自由にさせてやろうぜ?」


武兄ちゃんがなだめるようにそう言った。


え、何?あたしはもう諦められてるの?あたしなんてもうどうでもいいの?


「よし、じゃあ最後に一言だけ言わせろ。」


誠司兄ちゃんがずいっとこっちに歩み寄て来て言い放った。


「俺はまだお前のことに関心があるからこんなに怒てるんだ。


でもお前が俺にそんな態度を続けるよだったらな、俺はもうお前と縁を切る!


お前なんかと兄弟だなんて思わないからな!」


ドクン、ドクン…心臓が激しく脈打つ。気にしない気にしない気にしない…私は必死に自分に言い聞かせた。


それでもまだ心臓はバクバクしている。そして、私は自分の手元を見て驚いた。


 ―手が震えてる…力が入らないー


私は水筒を閉めようとしている手に力が入らないことに気づいた。


そして水筒を咄嗟に離し、両手を広げてみる。


 ―震えが止まらないー


怖くなって思わず家を飛び出した。慌てていたのでせっかく作ったお弁当も置いてきてしまった。


カバンもうまくつかめなくて道路に中身をぶちまけてしまった。一気に血の気が引くのを感じた。


 ―きっと朝は冷えるからだよ。手先が冷えて力が入らないだけだってー


私は荒くなっている息と、バクバクしている心臓に気づかないふりをして、ゆっくりと歩き始めた。



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