お嬢様を求めて
「向こうのお屋敷でキレイなお嬢様が君のことを待ってるよ。早くと行くといい」
通りを歩いていたら男に声をかけられた。そのお屋敷は今しがた歩いていた通りのどんつきに建っているのがまだ距離あるここからでも見て認めることができるほど大きく立派であった。
「早く行かなくちゃ!」
「ああ、急いでいるところ悪いけれど。失礼ながら、君、前髪が変になっているよ」
男はそういい残して自分はさっさとお屋敷とは反対の方向へ歩いていった。僕は早くお屋敷に向かうために急ぐ。
しかし、先に男に言われたことが気になる。言われたことというより前髪が気になる。モヤモヤしながら通りを歩いていたら偶然トイレを見つけた。
しめたと思い、そそくさとトイレに向かう。ここで僕は認識の甘さを思い知る。混んでいるのだ、男子トイレのクセに。外からでは分からないが、中では鏡を見ようと男性が列をなしていた。
なんとか前髪を整えて通りに戻る。
「風が出てきたな」
僕はトイレに駆け込んだ。
「なんだか暑くなってきたな。汗が出てきたぞ」
僕はトイレに駆け込んだ。
「くっ、こんなことしてる場合じゃないのに」
そのときだ。通りの方からまだ幼い男の子のはつらつとした声が聞こえてきた。
「僕、お嬢様に会うー!」
僕はあわてて通りに戻り、お屋敷に急いだけれど男の子の足はとても速くて、なにより前髪が気になってしかたがなかったからてれてれと走らざるを得なかった。
お屋敷に着いたときに目に見えたのは、幼い男の子がキレイなお嬢様に汗をふいてもらいながら前髪を撫でられているところだった。