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恵流仙煌。容姿端麗、文武両道、博学多才、品行方正のスーパー中学生。
とまぁ、恥ずかしい文章はこの辺にしておこうか。
恵流仙煌。それが僕の名前だ。友人関係も良好だし、学校で特に不自由は無い。どちらかと言えば不自由なのは…家だ。勉強時間が6時間。通知表に不備は一切ないし、もっと遊ばせてくれてもいいのにと思って僕は交渉をし続けた結果、先日の誕生日プレゼントにスマートフォンを買ってもらったのだ。というわけで現在の日課は、2時間置きに息抜きとしてソシャゲをすること。最近の流行りは「バトル鬼ごっこ」だ。
僕は友人の内の一人、理宮にボイスチャットを繋げた。
「…あー、あー、聞こえる?」
〈聞こえるよ。じゃーやろうか〉
「おっけ。ロビー作るね」
端的に言えば、皆で協力して生き残るゲーム。周囲に続々と湧きまくる鬼を倒すのがこのゲームの醍醐味だ。
ただし、倒せば倒すほどスコアが上がり報酬が良くなる。なんなら味方の妨害も出来るから、如何に足を引っ張りつつスコアを稼いで生き残るかが勝負となる。
「…あれ?」
〈どしたの?〉
「…画面が、真っ暗だ」
見えるのは、反射している自分の顔だけ。
〈え?うわ、僕もだ!〉
「戻れない。ホーム画面にも出来ない」
充電切れ?いや、さっき見たけど90%はあった。このタイミングで壊れるか?普通。まだ1年も使ってないのに?
「これ、どうなって…は!?」
僕が戻るボタンを連打している最中のこと。スマホが、光りだしたのだ。
〈眩しっ!なんだこれ!〉
「僕もわからないよ!どうなって…」
直後、引っ張られた感覚がした。いや、感覚じゃない。これは確実に―――
「スマホが吸い込んできてるッ!」
〈こっちも…だよ…うわァァァァァァ!!〉
「理宮!!」
〈………〉
何も聞こえなくなった…本当に吸い込まれたのか?てか、他人の心配してる場合じゃない!
「僕も…もう…」
この日、僕の人生は狂い始めた。
〜〜〜
「…あれ」
まず初めに目に入ったのは、電球と言うよりも自然光に近い感じの光。続いて、固いコンクリートの触感。
「…どこ、ここ」
全く見覚えの無い景色が、そこら中に広がっている。
「街…の、屋上?」
立ち上がって見渡し、僕は戦慄した。
街の中心と思われる場所に、所謂ランドマーク的なものが建っている。
「バトル鬼ごっこの…市街地ステージ?」
そう、中心部でそびえ立つタワー。バトル鬼ごっこのステージと、完璧に一致していたのだ。
「スマホに吸い込まれて…で、今市街地ステージの中?」
夢ならとっとと覚めてほしい。僕は理宮とゲームをしていた最中なんだぞ?
「…ははっ、飛び降りれば分かる。夢だってねっ!」
助走をつけて、僕が柵から飛び降りようとした、その時だった。
ポケットに入っていた何かが、振動した。スマホのバイブレーションのように。
「夢の中で電話?なんなんだよ…」
ポケットに手を突っ込むと、中からは僕のスマホ。非通知だった。
「まぁ、いいでしょ。どうせ夢夢。もしもし?」
僕は何のためらいもなく、応答した。
〈…マッチング、完了〉
「は?」
〈これより、バトル鬼ごっこを開始いたします〉
訳の分からないことをのたまい、電話の声は淡々と述べる。
〈ルール説明をいたします。今空いた穴に手を入れて下さい〉
電話の声が言うと同時に、肩くらいの高さに穴が空いた。それも空中に、だ。
「どんなテクノロジー?」
ノータイムで手を突っ込むと、中に何かがあった。
〈その穴にはワイヤレスイヤホンが入っています。数分後、この空間に存在する音はそのイヤホンでしか受信ができなくなりますので、決して無くさないようにして下さい〉
音が無くなる?夢でもそんなことあるわけない。ましてや、現実なんかじゃとても…。
〈そのイヤホンにはマイクが内蔵されており、プレイヤー全員と常時通信が繋がっています。ただし一定距離に近づかなければ聞こえず、また自然に伝わる声と極限まで同じ仕様にしてあるため、話し声が全て漏れるということもありません〉
…要するに、僕達はこのイヤホンさえあれば普通に会話できるってこと?なんだ、やっぱり夢じゃん。そんなご都合システムなんて――
〈このゲームは現実です。体力は手元の端末に表示されており、0になった瞬間、死が確定します〉
…え?嘘でしょ?
〈ゲームの仕様上、皆さんの身体は普段よりも頑丈になっていますが、鬼の攻撃によってはしっかり死ぬので、気をつけてください〉
頑丈?ていうか、鬼?さっきも言ってたけど、じゃあやっぱこの世界って…
〈皆さんがこの世界から脱出する方法は一つ。スコアを一定以上稼ぎ、それと引き換えに記憶を消して脱出すること。もう一つはーーー〉
ああもう、ノイズのタイミングが最悪すぎる。
〈5ーーにーーます〉
断片的に聴き取れた、恐ろしい文言。音からして多分、単位は分のはず。
「つったって、準備するものなんて何も無いよ?」
バトル鬼ごっこなら、キャラ毎に固有の武器があった。でも今回、そんなものはどこにもない。
「…待てよ?」
本来ならマッチング完了後、プレイヤーには30秒の猶予が与えられる。ポジションを探すなりなんなりで経過した後、鬼が出現し始めるのだ。
「猶予は30秒、マーカーは10秒時点で出現し始める。てことは、同様の比に落とし込んだ場合、100秒時点でマーカーが出てくるのか?」
マーカーとは、鬼の出現ポイントを示した赤い印である。強い鬼ほどマーカーのサイズは大きくなるが、鬼のサイズはマーカーと一切関係がな
い。種類もわからないが、少なくとも警戒と対策を練るには十分なシステムだった。
「流石に、夢で「現実です」とか言われるわけないもんな…そもそも、ゲームしてて急に寝ることなんて無いし」
プレイしていた身からすれば、あんな化け物を相手に人間が戦えるわけがない。血液に波を刻む呼吸法も、刀からエフェクトが出るような技も、普通の人間は持ち合わせてないのだ。
そうこう考えているうちに100秒が経過。マーカーがあちこちに出現し始めた。
「えーと、ここに中級が一体、真下に下級が…7体、上級1体に中級3体。うわ、配置マジで終わってる」
下級は、たまにウザいのもいるが基本は雑魚。中級は、そこそこやっていても足を掬われる事がある。上級は、相手によっては余裕で死ぬ。本来ならその上がいるが、まだ確認できないし、確認すればいよいよ脱出できなくなりそうだから、このゲームには居ないことを祈ろう。
「…僕なら大丈夫」
言い聞かせていると、イヤホンからカウントダウンが聞こえ始めた。
〈5…4…3…2…1…〉
緊張のせいで躍動する心臓の鼓動を抑えつけながら、僕は息を荒くする。
〈START〉
その合図を皮切りに、僕が今から味わう地獄は始まってしまった。言ってしまえばそう、最悪のスタートシグナルというわけだ。




