拾. 陰の守護者
元軍の撃退という国難克服の偉業は、六代の予想通り、北条氏に極度の畏怖と依存心を生み出した。北条執権は、六代の力を公にすれば、朝廷や他の武士団の動揺を招くと同時に、六代自身が新たな権力者となることを恐れた。
六代は、この心理を巧みに突き、北条氏へ「最も重要で、最も人目につかない地位」を要求した。
六代が北条氏に要求したのは、元軍を打ち払った力が、平家の血筋と、異形の者たちによるものであることを、一切公表しないこと。これは「神風」として、日本の神々による加護であったと、流布すること。
六代および平家の残党は表に出るのを望まない。鎌倉幕府の公式な機構には組み込まれず、「朝廷と幕府の双方に属さない、日ノ本を異形の脅威から守るための秘密組織」の長となること。その名も「潮騒の影」。
闇における活動の拠点および、必要な資金を提供させる。
北条執権は、六代という理解不能な脅威を常に監視下に置きつつ、表向きの安定を保つため、この要求をすべて呑んだ。これにより、六代は、公の権力構造の外側から、日本全土に対する絶大な影響力と行動の自由を手に入れたのであった。
六代の地位は、単なる残党の頭領から、「国家の裏の守護者」へと変貌した。
六代の復讐は、源氏の「血筋」を滅ぼし、北条の「権威」を貶めることで、ほぼ完成に近づいた。平家一門が受けた「屈辱」を晴らすために北条氏が「神風」の力を過信し、奢り高ぶるよう、幻惑の波動を継続して送り続けた。
北条氏の実力者たちが、少しでも自分たちに反抗的な武士や公家を、「異国の脅威に通じる裏切り者」という名目で粛清するよう、無意識に誘導した。これにより、北条氏に対する全国の武士たちの不満は、着実に蓄積されていった。
「異形の脅威への備え」を大義名分として、北条氏に莫大な軍事支出と土木事業を強要し、幕府の財政を意図的に疲弊させた。
六代は、秘密裏に朝廷内部の南朝勢力と連携を保ちながら、北条氏の暴政の情報を意図的に流布していった。
「北条は、もはや国を守る者ではない。彼らは、日本の『神威』を私物化し、武士の世の秩序を乱している」
そして、数十年後。北条氏の独裁に対する武士たちの不満が頂点に達したとき、六代が裏で支えていた勢力を背景に足利尊氏など、各地の有力武士が蜂起した。「倒幕の戦い」であった。
六代は、自ら手を下すことなく、北条氏が過去の暴政と、幻惑の波動によって増幅された独裁の末、自滅するのを確信していた。
「これで終わりだ。我らは、歴史の裏側で、源氏、北条、そしてこの国の運命を操った」
六代は、北条氏が滅亡した報せを聞いたとき、初めて安堵の息を漏らした。平家一門の復讐は、単なる武力による奪還ではなく、「異能の力」を用いた、歴史の根本からの「書き換え」という形で、ついに達成されたのであった。




