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わざわざ泊まったこともない、地元の仰々しいホテルの宴会場、だだっ広くて、とにかく明るくて、人々はみんな浮足立った装いをして、縁佳が行くって言うので、高校の学年全体の同窓会に参加したけど、別に仲良かった人とは今でも交流があるし、同窓会に行かないと関わらないような浅い友達が何人もいるほど、私は顔が広くないので、縁佳がどっかに行ってしまうと、すっかり孤立していた。まっ、美味しい料理が食べられるんだから、来て良かったなぁーって、あっさり満足していた。
「久しぶりだねー、島袋鏡花ちゃん」
同窓会じゃないと話せないような同級生なんて居たっけ?と疑問に思いつつも、その声には聞き覚えというか、懐かしさがあって少し驚いた。振り返ると、刑部がにこにこしながらこっちに近付いてきていた。
「あっ、どうも……」
「どうしたの?そんなに怖がらなくてもいいじゃんー。もう時効ってことで」
「いや、本質的に人見知りなので……」
私が刑部の、目は見られないので鼻辺りを凝視していると、刑部も対抗するかのように、私の頭のあらゆる箇所を観察してきて、お互いに間合いを探り合う謎の時間が生まれた。
「ここで会ったのも、天が定めた巡り合わせということで、ちょっと話しませんか?」
私だって、こういう時に大人な対応が取れるよう成長したんで、特に抵抗することなく会場の端の席まで付いていった。
「何か可笑しいことでも?」
喧嘩したいわけじゃないけど、やけににちゃにちゃしていたので、つい直球を投げてしまった。一方、動作がガチガチに固まっている私とは対照的に、刑部は頬杖を突いて、呑気に核心に迫ってきた。
「よっすーとは上手くやれてる?」
「えっ、はぁっ!?ななっなんでそれを、あなたが知ってるんですかっ!」
「逆ギレもいいところね。お揃いのイヤリングなんて着けて、それとなくアピールしてるじゃん」
「これはぁーその、縁佳が着けろって言ったのが悪いのっ」
片方を交換して、完全なお揃いにしようとしたのも縁佳なんだからっ。
「まあ、その感じだと問題なさそうね」
「問題は全部私が片付けるので」
「同棲とかしてるの?」
「大学が京都と東京で離れてるから、それは社会人になってからかな」
「そう。んんー……、よっすーのどこが好きなの?」
その質問には咄嗟に答えられなかった。刑部の変にまっすぐな視線に気圧されたわけではなく、縁佳の中に好きと嫌いの境界線を作ったことが無かったから。でもまあ、見切り発車で軽薄な言葉を、思い付いた順に言い募るよりは良かったのかもしれない。
「言い淀む気持ち、分かるよ」
「違う、私は、縁佳って空っぽだから、自分の色に一から染め上げられるから、それだけじゃないけど、あなたはどうなの?私と同じく、縁佳に心を搔き乱された被害者」
「私?というか、私がよっすーのことが好きだったの、知ってるんだ。……ま、明らかに恋敵に向けるような視線だったか」
「あなたが縁佳を無視し始めた時、そういう噂も流れてたから。でもそれしか知らない。何だったの?あれは」
「簡単な話だよ。私がよっすーに告白して振られた、ただそれだけ」
「私だってその洗礼は食らったけど。刑部さんの時は、縁佳じゃなくてそっちから離れようとした。どうして身を引いたの、往生際悪く足掻こうって気にはならなかったの?」
「私は十分に足掻いたよ。中学生の時からずっと好きで、でも愚直に言っても聞き入れてくれるはずないから、色々迂遠に婉曲を重ねて、まず第一に、どうしたらよっすーがコミュニティーに受け入れられるだろうなぁーって考えて行動して、よっすーの望む距離感を保ち続けて、だけど、どうやってもいつになっても全然報われなくてさ。その苦しさを紛らわしたかったのか、いつしか無駄だと思うようになってきたんだよね。よっすーのために時間を使うぐらいなら、絶対に叶わないことが確定している夢を追い掛けるぐらいなら、将来のために勉強したり、今しかできない事をめいっぱい楽しんだりしたい。そう思うようになって、だから、あのクリスマスの日に、告白なんて生ぬるいものじゃなくて、最後通牒を突き付けた。けじめを付けるために、よっすーと周りの人たちとの関係を断った」
「縁佳のことを追い掛けても、全てを失うことなんて無い。もし最終的に報われなかったとしても、私は悔いのない高校生活を送れたと自負できるから」
私が啖呵を切ると、刑部は遠い目をしながら口先だけで笑みを浮かべて見せた。
「ははは、そう……なのかもね。よっすー以外の良い人に巡り合えるって信じてたけど、誰も彼もよっすーは越えられたように思えなくて、負けたのは私のほうなんだろうね」
「もしかして、まだ未練的なやつでもあるの?」
「そうだよ、未練だよ。はぁ、どこが愛しいとか、困った時に力になってくれるとか、そんなものは無くて、好きな人の好きな部分を一つとして挙げられなくて、でも恋焦がれてしまう。私はあなたと違って、魅力も偽りの善意も何にもない縁佳を見て好きになった人だからね。しかも初恋。沼だよ、絶対に抜け出せない。この先何があっても、死ぬまでこのずるい感情をずるずると引きずるんだ」
刑部だってとっくに手を抜かず足掻いていて、そして本気で思案した結果がこれなのであり、さすがの私も言葉を噤むしかなかった。
「長々と語ったけど、まあ、自分では一番丸く収められた気でいるよ。よっすーがその場しのぎでも皆と上手くやれるよう、承認欲求モンスターにしたのは私で、その辺の責任は取らなきゃって思ってたからね。別の理解者が現れてから手を引いたんだから、責任は果たしたと言えるでしょ。んんーそうだねー、末永くお幸せに?」
「そっそれで良いんですか、本当に良いんですか」
「私ができるのは、自分の幸せではなくよっすーの幸せを願うことだけだから。陰ながら応援させてもらうねー」
刑部はそう言いながら、縁佳の気配から逃げるように立ち上がった。
「せっかくなので、連絡先でも交換しましょう」
「え、なんで?」
「いや、えっと、だって、これも何かの縁だから……?」
「成人式で会うぐらいが丁度いいんじゃないの」
「わ、私はっ、そう思わないっていうか、でもやっぱり、縁佳はともかく、他のみんなとの関係を断つ必要はないじゃないですか!」
私にとってはありふれた、ただの見切り発車の暴走列車だった。だけど、こうしてすかしたように笑ってくれるから、味を占めている自分もいた。
「あれー、しまちゃん、なかなか珍しい人と話してるじゃないかー」
「なんか話しかけられた」
「ほーん。久々だね、お釈迦べさん?……どうした?」
「鏡花ちゃんと私は似た者同士だと、共感と嫉妬をしたこともあったけど、本当はほんの少しだけ差異があって、その差が運命を左右したんだろうね……と。久しぶり、モロックマ」




