第532話 大魔導士アシャフ
タツヒトの指示を受たシャムとプルーナの二人は、遠い間合いでアシャフと対峙していた。
「アシャフ…… シャムは一つ聞きたい事があるであります」
「ほぅ。なんだ、言ってみろ」
「--この広間には、下位機能単位と名乗る機械人形が案内してくれたであります。あの個体も、シャムと同じ顔をしていたであります……
シャムは生まれてから、シャムと同じ顔をした人沢山会ってきたであります。シャムは、シャム達は一体何者なのでありますか……!?
レシュトゥ様も、ちゃんとは教えてくれなかったであります……」
不安げに問うシャムに、アシャフは暫し沈黙してから首を横に振った。
「--悪いが、それは言えない事になっている。だが、貴様も薄々気づいているであろう事は言っても良いか……
レシュトゥ、シャム、俺やカサンドラ達、下位機能単位…… 同じ顔を持つ俺たちは全て、ある人物の複製だ。その方法や目的は、少しずつ違うがな……」
「複製…… やっぱり、そうでありますか……」
「シャムちゃん……」
気遣わしげに声を掛けたプルーナに、シャムが伏せていた顔を上げる。
「プルーナ、大丈夫であります……! シャムはもう、自分が何者かを定義しているであります。
シャムはタツヒトのお妃さんで、プルーナ達の仲間であります! それで十分であります!」
プルーナはシャムの言葉に大きく頷くと、アシャフの方へ向き直った。
「アシャフ学長。僕からも質問があります。先ほど島から僕らを狙った熱線、そして樹環国で光の大樹を焼き払った天からの火…… 両方とも、学長が放ったものですよね?」
プルーナの問いに、アシャフは頬を歪めた。
「その通りだ。創造神が望む世界にとっての障害…… 俺はそれを、あんな風に何度も排除してきた。大昔からな。
今回は諸事情で絡め手が必要になったので、ニプラトのガキが貴様らの排除に当たったがな。全く、盛大に失敗してくれたものだ……」
「何度も、大昔から…… で、では貴方は、もしかして本物の大魔導士アシャフなんですか……!?」
プルーナの問いに、シャムが首を傾げる。
「プルーナ。本物って…… どういう事でありますか?」
「えっと…… アシャフ学長が兼任している魔導士協の会長職って、協会の開祖である大魔導士アシャフの名前を代々襲名することになってるんだよ。でも、今の話を聞くと……」
プルーナの視線に、アシャフが笑みを深めた。
「そうだ。協会を立ち上げた初代から今に至るまで、歴代の魔導士協会長は全て俺だ。その方が色々と都合が良かったのでな。
今代は魔道大学の学長まで兼任する羽目になったが…… それもこれも、教員共や学生共が怠けていたせいだ。全くもって忌々しい……!」
一転して吐き捨てるように呟くアシャフに、二人は顔を見合わせてしまった。アシャフの顔の上半分は仮面で隠れているが、不機嫌さが滲み出ていた。
「ふぅ…… しかしその点、貴様ら達三人は近年稀に見る優秀な学生だった。しかも、卒業後も随分と腕を上げたようだな。
特にタツヒトだ。まさかあの若さで俺の紅炎を逸らして見せるとは…… 賞賛に値する。
シャム、プルーナ。貴様らも精進を怠っていない様子。本当に、殺すには実に惜しい……」
ズッ……
「「……!」」
話は終わりだとばかりに殺気を強めたアシャフに、二人が身構える。
「ま、待つであります! シャムはまだ、この戦闘の意義を理解できていないであります! 本当に、対話は不可能なのでありますか……!?」
「不可能だ。 --だがもし…… もしタツヒト達があのカサンドラに勝ったとしたら、俺も考えを改めよう」
「カサンドラさんに……? 彼女は、一体何者なんですか……!?」
プルーナの問いに、アシャフは暫し考えてから答えた。
「ふむ、そうだな…… 一言で言えば、人類最強の女だ。こと戦闘において、あの女より強い者はこの星に存在しない。無論、人の世界においては、だがな」
「……! そんな強敵を、タツヒト達だけに相手させる訳には行かないであります……! プルーナ!」
シャムが魔素観測用のゴーグルを装着しながら叫ぶ。
「うん……! 『地よ!』」
それを受けてプルーナが生成したのは、限界まで硬度、強度、重量を高めた漆黒の矢だった。
シャムはそれを受け取ると、武具を強化する強装を掛けた弓に番えた。
ギギギッ……!
異様な強度となった弦を、瞬間的に極限まで身体強化を強める剛身を使って無理やり引き切る。
「アシャフ…… ごめんであります!」
パァンッ!
手元から離れる瞬間、シャムは武具を遠隔強化する鋼弾を矢に施した。
一瞬で音速を超えた矢が、プルーナの地魔法によって更に加速され、アシャフに向かって飛翔する。
彼女達の緊密な連携によって放たれるによるこの絶技は、条件がそろえば紫宝級の魔物さえ一撃で葬る威力を持つ。
--ボヒュッ!
しかしその一撃必殺たる矢は、シャム達とアシャフの中間のあたりで呆気なく消失してしまった。
アシャフが放った超高温、超高速の火魔法が、一瞬で矢を蒸発させたのだ。
「え…… そ、そんな!?」
目を見開くシャムに、アシャフは肩を竦める。
「いい技だ。しかし、俺に届かせるには少し工夫が足りんな」
余裕の態度を見せるアシャフに、二人は絆の円環を起動させた。
キィン……
(プ、プルーナ…… どうしたらいいでありますか!? シャム達の必殺技があんなにあっさり……!)
(焦らないで。僕も奥の手を使うよ……! シャムちゃんは、学長に悟られないように撃ち続けて!)
(わ、分かったであります!)
「わ…… わぁぁぁぁっ!」
ボヒュッ、ボヒュヒュッ!
シャムがマシンガンのような速度で矢を連射するも、先ほど同様に全てが着弾前に蒸発させられてしまう。
「おい、工夫しろと言っただろう? なんだこの雑な攻撃は」
アシャフが不機嫌そうに文句を言う傍ら、プルーナの魔法が完成した。
(学長、お覚悟を……! 地竜潜槍!)
--ジャッ!
彼女が放ったのは、かつての強敵、地竜将軍ムルヴァディカが使っていた技だ。
この魔法では、始めに地下深くの土砂をゆっくりと支配下に置き、一気に地表まで上昇させる。その土砂が極限の強度をもつ石筍に変化し、相手を真下から刺し貫くのだ。
相手からはその発動が察知しづらく、回避も困難なため、奇襲性と殺傷能力が極めて高い。だが……
「う、嘘…… 魔法型に反応できる速度じゃないはずなのに……!」
プルーナが眼前の光景に呻く。
アシャフの真下から出現した石筍は、彼女が足元へかざした手によってビタリと停止していたのだ。
「プルーナ! アシャフは、石筍が突き出る前から動いていたであります……! アシャフ、見えているでありますね……!?」
シャムの指摘に、アシャフがおもむろに仮面を取る。
現れたのはやはりシャムと同じ顔だった。ただし、その額には赤い宝玉のようなものが埋め込まれていた。
「そ、それは…… フラーシュやレシュトゥ様の……!」
「そう。始祖妖精族が生まれ持つ、魔力視を可能とする生体器官だ。俺のこれは移植したものだがな。
シャム。貴様は魔力視の機能を外付けする方法を選んだようだが、こういう方法もあると言う事だ。一つ賢くなったな?」
「ぐぬぬ……!」
シャムが悔しげに呻く。確かに魔力視が可能であれば、魔法発動をより高精度に、より早く察知する事ができる。
しかし、それだけでは説明できないことも起きていた。プルーナが震える手で自身が生成した石筍を指差す。
「で、ですが……! それは魔力視とは関係ありません! 火属性の学長が、なぜ僕の地魔法に干渉できるんですか!?」
「ふむ、当然の疑問だろう。しかし、俺がいつ、火属性しか扱えないと言ったんだ?」
アシャフが両手を広げる。すると、彼女の前に、火球、旋風、水球、土塊が順々に生み出された。
魔導具を使っている様子もないその光景に、プルーナが目を剥く。
「そ、そんな…… どんなに優秀な魔導士だって、得意属性は一つのはずなのに……!」
「普通はそうだな。だが貴様らの目の前にいるのは、魔導の祖にして常にその先端を行く者。大魔導士アシャフだ。今まで、俺がいくつそんな『常識』を更新してきたと思う?」
「「……!」」
「ふふっ…… しかし本当に腕を上げたものだ。気が変わった。カサンドラが決着をつけるまでの間、俺が少し授業をつけてやろう」
強烈な紫色の放射光を放ち始めたアシャフを前に、二人の頬に冷や汗が伝う。
「シャムちゃん。タツヒトさん達の援護、できそうに無いね……」
「で、ありますね…… 二人を信じて、シャム達はアシャフに集中するであります……!」
お読み頂きありがとうございました。
よければ是非「ブックマーク」をお願い致します!
画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けますと大変励みになりますm(_ _)m
【昼と夜に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




