第531話 人形使い二プラト
二プラトが叫びながら両手を広げた。
すると、僕らのいる円形の広間の壁という壁に穴が出現し、そこから大量の魔物が溢れ出した。
その数、数百体。紫宝級こそ居ないものの、緑鋼級らしき個体がちらほらいるし、二プラトの近くを固めている数体は青鏡級のようだ。
何より厄介なのは、出現した魔物達の体が、金属鎧のような装甲に覆われている事だ。
「こいつら、もしかして禁書庫の奥にいた機械化魔物か……!? こんなに大量に……!」
「人形共、そいつらを殺せ! おい、ぼさっとするな。お前達も行け!」
苛立たしげに叫ぶ二プラトに、カサンドラさん達もやれやれといった感じで動き始めた。
「うふふ、わかりましたよ。二プラトに命令されてしまっては逆らえませんからね」
「ふん…… あまり喚くな。耳障りだ」
「……」
大量の魔物が僕らを取り囲むように左右に展開し、その中央に陣取ったカサンドラさんがゆっくりと剣を抜き放つ。二プラト、アシャフ学長、ペトリア猊下はその背後に控えた。
そして彼女達からは、震えが来るような殺気と、強烈な威圧感が発されていた。
本当に、やる気なんだ…… 二プラトはまだしも、カサンドラさんも、ペトリア猊下も、アシャフ学長も、僕らを殺す気だ……!
なぜ、どうして……! 僕はあの人達の事を、強くて優しい姉さんだとか、慈愛に満ちた祖母だとか、厳しい師匠だとか…… そんな、尊敬できる親しい人達だと感じていた。
彼女達は、天涯孤独なシャムの事も家族のように扱ってくれていたのに……!
怒りや混乱、悲しみの感情がぐちゃぐちゃになり、最早訳が分からない。みんなの表情や気配からも、強い動揺が伝わってくる。
--でもこのまま、訳の分からないまま殺されるわけにはいかない…… 僕らは絶対に生き延びて、みんなの待つ城に帰らなきゃいけないんだ……!
「みんな! あれこれ考えるのは、ここを乗り切ってからにしましょう! 変則的な防御陣形を取ります!
二プラトが左右に展開した魔物達は、キアニィさんとゼルさんで止めて下さい!
アシャフ学長は、シャムとプルーナさんで抑えて下さい!
ロスニアさんは猊下に目を光らせつつ適宜回復を!
カサンドラさんは…… 僕とヴァイオレット様で、倒します!」
「「……! 応!!」」
***
タツヒトの号令の直後。ゼルとキアニィはすぐに分かれ、左右の魔物の群れへと肉薄した。
「ふっ!」
「ゴボッ……!」
右に向かったキアニィが、最前列にいたゴリラ型の魔物に槍を突き込むような前蹴りを放った。
蹴りは正確に金属装甲の繋ぎ目を突き破り、その奥にあった心臓を破壊した。そこへすぐに、他の魔物達が襲いかかった。
「しっ!」
しかし、彼女はすぐに魔物の体を蹴って後ろへ飛ぶと、数十本の投げナイフをばら撒くように投擲した。
「「ギャッ……!?」」
ナイフは魔物達の眼球や口腔内に正確に命中し、そのまま脳や延髄を破壊した。
この間数秒。たったそれだけの間に、右側の前列にいた数十体の魔物が地に伏した。
一方、左に向かったゼルも、最前列の魔物達の間を疾駆しながら、凄まじい速度で双剣を振るっていた。
「うにゃにゃにゃにゃっ!」
彼女が得意とする身体強化の技、軽躯は、肉体や装備の重量を軽くする事ができる。
それを巧みに使えば、軽量化した剣と肉体を超高速で機動させ、斬撃の瞬間に重量を戻すと言う事が可能となる。
そこへ、金属装甲の隙間を狙う技量が加われば……
「「--ギャァァァァッ!?」」
彼女が通り過ぎた直後、数十体の魔物が細切れになって崩れ落ちた。
「く、くそっ……! この役立たずデク人形共が!」
開始数秒で戦力の二割程を潰され、二プラトが苛立たしげに手指を振るう。
すると後列に居た魔物達が、死骸をどかしながら前列へと進み出てくる。
その間、キアニィとゼルは自分たちが屠った魔物の死骸を観察していた。
死骸の断面から除く骨格は金属質で、まろび出た内臓には得体の知れない機械が埋め込まれている。
「こいつら、やっぱり中身も禁書庫の奴と同じだにゃ! 切れにゃーことはにゃーけど、相変わらずめちゃくちゃかてーにゃ……!」
「ええ、そのようですわぁ。それと残念ながら、私達の敵が創造神と言いうのは本当のようですわねぇ……!」
二人の言葉に、二プラトが魔物を操る手を止めた。
「その通りだ…… 僕らは創造神様の手足として、平和のためにずっとこの世界の人間達を管理してきた……! そしてその障害となる存在は、手段を選ばず排除してきた!
お前達がいなくなれば、この先も世界は平和なんだ……! だから…… だから大人しく殺されろ!」
「む、無茶苦茶を言いますねのね、この方は……! 相手の命を要求するのでしたら、せめてちゃんとした理由くらい聞かせてくれませんこと? なぜわたくし達がその障害になるんですのよ」
キアニィの言葉に、二プラトが一瞬口を噤む。
「--これ以上は、説明しない……! とにかく、タツヒトも、タツヒトの妃であるお前達も、息子のアレクシスも、全員殺さなきゃいけないんだ……!」
二プラトのあんまりな言い分に、二人は思わず顔を見合わせてしまった。
「にゃあ。さっきタツヒトも言ってたにゃけど、どーしてウチらを直接襲わずに、戦争にゃんか起こしたんだにゃ?
平和を守るどころか、おみゃーらが乱してるにゃ。むじゅんしてるにゃ」
その台詞に、キアニィは驚いた表情でゼルを見た。彼女は時折こうして鋭い事を言うことがある。
「チッ、さっき言っただろう……! 僕らだってあんな手段は取りたくなかった! けど、お前達を直接害したら神獣達が--」
苛立たしげに捲し立てていた二プラトが、ハッとしてその言葉を止めた。
「神獣達……? どうしてここでアラク様達が出てくるんですの?」
「んー? そういや、アラク様って創造神様と知り合いだって言ってにゃかったか?」
「--喋りすぎた」
二プラトは黙り込むと、再び魔物を操り始めた。しかし、紫宝級に至ったゼルとキアニィの相手は荷が重かった。魔物達はどんどん数を減らしていった。
「くそっ…… くそっ、くそっ! 早く、早く殺さないといけないのに……!」
顔を歪めながら悪態を吐く二プラト。その姿を見て、ゼルとキアニィは絆の円環を発動させた。
キィン……
(ゼル…… この二プラト、どう思いまして? とてもヴェラドを操っていた黒幕とは思えないのですけれど……)
(だにゃぁ。にゃんつーか、駄々を捏ねてるだけのガキに見えるにゃ。クソガキだにゃ)
(お口が悪いですわねぇ。賭け事で負けが込んだ貴方も、時々あんな感じになってますわよ?)
(にゃっ!? そ、それを言われると弱いにゃ…… でも、ウチらの知らにゃい事をまだ隠してる感じだにゃ)
(ですわよねぇ…… 二プラトは自分ではなく、配下のお人形が強い類のようですし、カサンドラ達への人質になるかも知れませんわぁ。
もう少し魔物を減らしたら、いつもの作戦であのお子様を生け取りにしてしましょう)
(おぉ、あれかにゃ。わかったにゃ! とっちめて全部喋らせてやるにゃ!)
二人は無言の会話を締めくくると頷き合った。するとそこで再び広間の壁が開き、大量の魔物が補充された。
折角半数以下まで減らした魔物の群れは、戦闘開始事と同じ数まで回復してしまった。
「あ、あら。お替わりがあったんですのねぇ…… ゼル。どうやら持久戦のようでしてよ?」
「うにゃぁ…… ウチの苦手分野だにゃ。ま、どっちが先にバテるか勝負だにゃ!」
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