ただいま、愛しのエルドリア!7
「えっ? うん、それはたぶん大丈夫だと思う。おぼっちゃまやメイド長に、できるだけ休むように言われてるから。アンも働きすぎだって言われてたし」
私とアンが一緒に休めるか、と聞いたアガタに、私はそう答えました。
多分問題はないでしょう。私たちが一日ぐらいいなくても仕事が回る体制が、もうしっかりできているようですし。
そう、うちの班のちんまい二人、クロエとサラが、私のいない間に滅茶苦茶育っちゃってて、大人顔負けの凄い仕事ぶりなのでございます。
良いことなんだけど……正直、ちょっと寂しいっ!
「休んでも暇で何していいのかわからないから、こうして働かせてもらってるだけなの。だから休みはいつでも取れるわ。アンも、合わせて一日ぐらいなら休めると思う」
「そう、よかった。実は、ジョシュアが全員の休みを合わせて欲しいって言ってるのよ」
「ジョシュアが? なんで?」
「それがね。あんたの帰還を祝って、みんなで海に遊びに行こうってことなんだけど……」
そこで一旦言葉を区切ると、やがてアガタは深刻そうな顔で続けたのでした。
「ついでに、あんたがいない間に作った発明品を、お披露目したいんですって」
「……」
その言葉に、気まずい沈黙が私たちの間に流れました。
なぜかというと、私たちはジョシュアの新作お披露目によく呼ばれていたのですが……それには、結構な割合で失敗作が含まれていたからなのです。
前なんて、「風に頼らず進む船を作ったぞ!」って、自転車を漕いでオールを動かし、前に進む小舟を作ったのです、が。
なんと、それは人が乗った時の重量を計算しておらず、数メートル進んだだけで、あっという間に池の底へと沈んでしまったのでした。
他にも、新しい発明がドカンと爆発して大騒ぎになったり、装置が勢いよく燃え出したり。
私が半端な前世の知識を与えてしまったせいで、ジョシュアはまあまあ危険な研究もするようになり、そのせいで派手に失敗を繰り返していたのでした。
「……大丈夫かしら。今度は、王宮まで破片が飛んでいかないといいけど」
「そうね……。前みたいに、窓を突き破ったりしたらまずいわ。派手に煙が上がって、火事だ敵襲だって大騒ぎになるのも避けたいわね……」
と、暗い表情でささやき合う私たち。
脳内に浮かぶのは、慌てた衛兵の皆様が集まってきたり、メイド長が死神のような表情でこちらにかっとんで来たりした、過去の思い出。
お怒りの皆様に対する説明を、ジョシュアに任せると余計大ごとになるので、そんな時は私たちが代わりに頭を下げたものです。
……まあ、ジョシュアのためなら、頭ぐらいいくらでも下げますが。若干、気が重いのは致し方なし。
とりあえず事前に届け出は出して、誰か兵士の方にも立ち会ってもらうべきよね、なんてヒソヒソと対策を話し合う私たち。
ですがそこで、ふと、あいかわらず直立不動で立っているアリエルを見て、私はある事を思いついたのでした。
「ねえ、アリエル。あなた、私が休みの日はどうするつもりなの?」
「もちろん、お休みの日も護衛させていただく所存です。けっして野放しにするな、と宰相閣下にきつく申し付けられておりますので」
……野放しって、私をペットの犬か何かと勘違いしてません?
リードにつないでおかないと、走ってどこかに行ってしまうと思ってるのでしょうか。
「そう、じゃあちょうどいいわ。アリエルも一緒に遊びに行きましょう。ジョシュアにも紹介したいし。そのついでに、発明品の見届けもお願い」
「……それはかまいませんが、遊ぶつもりはありません。私はあくまで護衛ですので」
と、あくまで強情なアリエル。
まあ今はそれでいいでしょう。
「ああ、それと。アガタ、良ければ、出かけたついでに私の実家に泊まりにいかない? お父様が新しい家を買ったとかで、是非遊びに来なさいって言われてるの」
「えっ? それはいいけど……大勢で押し掛けて大丈夫?」
「大丈夫よ、なんだか結構広い家らしいから。どうせだから、みんなでお泊り会といきましょっ」
「お泊り会かあ、いいわねっ。わっ、なんだか楽しみになってきたぁ!」
なんて、きゃいきゃいと盛り上がる私たち。
ああ、これですこれ。こうしてみんなと盛り上がれる日を、ずっと待ち望んでいたのです。
となると、持っていくお弁当も特別なものを用意しないとっ。
ああ、楽しみすぎるっ!




