第二十七話 絶望と希望の狭間で
エミが倒れた直後、俺は腕の力を振り絞って衝撃波を放ち、セレストはエミに対して回復魔法を唱え、メルマールは狙撃銃を構えてガルナドクの頭を狙ってトリガーを引いた。その瞬間、ガルナドクは左腕を前方に伸ばし、メッキのように輝く黒色の球体に包まれ、衝撃波や銃弾では球体に傷をつけることができず、広間の壁に穴を開けることしかできなかった。セレストはガルナドクに既に支配されており、魔法を唱えようと右腕をエミに向かって伸ばしたとき、床から砂のような黒色の無数の粒が湧き出し、数秒でセレストの両足両手を包み、さらには口に大量の粒を押し込められてしまった。セレストは魔法を唱えることはもちろん、歩行や話すことも封じられてしまった、案山子のように突っ立っているだけの状態になってしまった。残りは俺とメルマールだけだ。
球体の内側からの圧力で球体を縦に真っ二つにして割ったガルナドクは再び俺達の前に姿を現した。ガルナドクは笑いながら中身が殻になった球体を右手で触ると球体は粉々に砕け散り、無数の粒に変化に変化した。
「おいおい、実験台がもう2人しかいないのか。とても残念だな」
「ふざけるな!貴様のせいで犠牲になった国民を返してもらうぞ!」
俺は無我夢中で走り出してガルナドクへ近づいた。メルマールが「やめて!死なないで!」と泣き叫んでいたが、それを無視しながらガルナドクの体を斜めに斬り裂き、同時に腕の筋肉が切れるほど力を振り絞って衝撃波を発生させた。広間の窓ガラスや支柱に大きなひびが入るほど巨大な空気の塊がガルナドクを襲った。
しかしガルナドクにダメージを与えることができなかった。ガルナドクは一切動かず、大笑いしながら左手で虹色に輝く剣を握っていた。
「私の魔力は無限大だ、君の渾身の攻撃も軽い切り傷程度しか感じられないよ。本当に残念だよ、私を楽しませることができる人間はいないのか」
「まだだ、これからだ!絶対に貴様を潰してやる、極悪人のガルナドク!」
俺はさらに魂の力を借り、虹色の光が広間全体を照らすほど剣に全ての力を込めた。そして足を思いっきり蹴り、再び衝撃波を発生させた。今度は天井の壁の一部が崩れるほど巨大な風圧に包まれた。
だがガルナドクを倒すことができなかった。ガルナドクは1歩も動いていない状態で俺を見下すように笑みを浮かべながら見つめていた。
「これが君の限界か。がっかりだよ。もう君で遊ぶのは飽きたから、さっさと倒れて」
ガルナドクは俺の腹に右手を当て、直径30センチメートルの球体を腹が抉られるような圧力で放った。俺は痛みに堪えられず、剛速球の球体によって壁まで吹き飛ばされた。壁に座っている俺は腹が押し潰れそうな圧力を放っている球体を両手で退かそうとするが、大人2人分以上の重さがある球体を持ち上げられず、何も動けず何も話せず、苦しみと共にメルマールを命運を見つめることしができなかった。
メルマールは恐怖に支配され、「助けて!」と泣きながら構えていた狙撃中を落としてしまった。ガルナドクは俺を見つめながらメルマールの腹に右手を触れた。
「今度は彼女がどうなるか、楽しみにしていてね」
メルマールを救い出したいと体を持ち上げるが、重さに逆らえなかった俺はメルマールが無事であることを祈ることしかできなかった。
ガルナドクは右手から巨大な黒色の針を発生させ、メルマールの腹を突き刺した。メルマールは広間全体に広がるほど悲鳴を上げながら痛がっており、俺は「やめろ!」と叫びたかったが声を発することができなかった。そしてメルマールは針から溢れ出した無数の黒い粒によって全身を覆われ、何も動けず何も話せず地面に倒れてしまった。残りは俺だけだ。
俺は完全に負けたと思った。もう対抗する手段はない、ただガルナドクに倒されるだけだ。俺は死を覚悟して目を閉じた。広間には仲間の声は聞こえず、ガルナドクの足音と笑い声しか聞こえなかった。
だが俺の魂の声が希望を与えてくれた。魂の声はフローレンスの声ではなく、幼い少年のような声だった。俺は声を発することはできないが、心の声と会話することができる。
「エルディア、アリアとリルとクラーラを救ってくれてありがとう。僕が君の前に生きていたエルディアの魂だよ」
「何故ここにいる?ゼルガンドによって殺されたはずだろう?」
「そうだよ、3人を逃したときに僕だけ殺されてた。でも僕の魂はラデオアやガルナドクに奇跡的に魂を奪い取られず、ここにずっと住み続けていたんだ」
「もしかして俺の心の声はお前なのか?」
「そう、僕が初日の獣狩りから今に至るまで、ずっと君のことを見続けていたんだ。アリアのために必死に戦う、正義感溢れる君の戦いを毎日見続けていたよ」
「お前が俺のために力を貸してくれたんだな。力を使いすぎて申し訳ない」
「全然いいよ、仲間のためなら力を限界まで貸してあげるよ」
「ありがとう。でも危機的な状況なのに気楽に俺に話しかける?俺はもうすぐガルナドクに殺される運命だ」
「僕はもう2度とアリアを泣かせないと覚悟を決めたんだ、だから僕は君を殺させないように来たんだ。そして君は大きなチャンスを生み出してくれたから来たんだ」
「大きなチャンス?」
「天井に穴を開けてくれたよね。目を開けてみて」
目を開けると、衝撃波の風圧によって開いた天井の穴から虹色の無数の粒が俺に向かって降ってきた。ガルナドクは虹色の粒を認識できていないのか、俺の顔だけを見つめてゆっくり歩きながら迫っていた。
「この粒は何だ?」
「ガルナドクによって生贄になった魂の破片だよ。広間の上で魔導士が無理矢理捕まえた人間の魂を生贄を捧げて、ガルナドクの魔力に還元されていたんだよ。魔法で兵士を生成や君への攻撃は生贄によって作られたんだ。この魂の破片は生贄になった魂の一部が君に託したいと思って集まってきてくれたんだよ」
「託したい?」
「ガルナドクの恨みを晴らすために、エルディアに力を託したいんだ」
ガルナドクへの復讐の思いが詰まった魂の破片は俺の体を包み込んだ。柔らかい羽毛に包まれている感触によって傷が癒え、力が体の芯から溢れ出すような勢いだった。服の中にしまっていたアリアとリルが作ってくれた薬草が虹色に光り輝いていた。
「エルディア、僕も僕の仲間も同じ気持ちだ。ガルナドクを倒してほしい」
「ああ、分かった。だからお前の力を全て寄越せ!」
「もちろんだ、自由に使っていいよ」
俺は心に存在するフローレンスにも問いかけた。
「フローレンス、力を貸してもらっていいか?」
「隊長の役目は兵士を守ること!隊長の私の力を存分に使いなさい!」
「ありがとう、遠慮なく使わせてもらう」
俺は両手で俺の腹を押しつぶしている球体を持ち上げると、今度はリンゴの重さと同じくらい軽く感じた。球体を横に投げると、ガルナドクは目を丸くして驚いた。
「なぜ持ち上げられるのか?」
「理由は簡単だ、お前の弱点が全部分かった」
俺は横に落としていた剣を握り、すぐに立ち上がりながらジャンプして衝撃波を放った。衝撃波はガルナドクではなく天井に向かって飛んでいた。ガルナドクはすぐに衝撃波に向けて黒い球体を生成しようとするが、俺は壁を蹴りながら空中でガルナドクの頭上に向けて衝撃波を放った。ガルナドクは天井へ飛行する衝撃波を破壊することだけに意識が向いており、先程俺が放った衝撃波に対しては防御できなかった。
ガルナドクは地面に叩きつけられながら壁に吹き飛ばされ、天井には衝撃波が激突した。床が大地震が発生したかのように揺れている城の支柱や天井が崩壊し始め、頭上からガルナドクによって捕らえられていた実験体の人間やガルナドクに雇われていた魔導士、手足を拘束されていたエレアノールが落ちてくる様子を眺めながら、俺とガルナドクは瓦礫の下敷きになった。
俺が立ち上がると周辺は血の海と瓦礫の山、そして青ざめた表情の血まみれのガルナドクが立っていた。俺はガルナドクに対して剣を構えると、ガルナドクは怯えた高い声で、
「やめてくれ!殺さないでくれ!心を入れ替えるから許してくれ!」
と必死に懇願していたが、俺は叫びながらガルナドクに衝撃波を放った。
「貴様の実験のために罪のない人間を何人生贄にしたか?貴様のせいでどれだけ世界に影響を与えたか?今更になって命乞いはふざけるな!貴様は決して許されない存在だ!」
ガルナドクは地面に穴が開くほどの風圧で叩きつけられて手足が動かなくなった。死の恐怖に怯えている無様なガルナドクに駆け寄り、「頼む、やめてくれ!」と叫んでいるガルナドクを無視して剣を腹に突き刺した。これでガルナドクとの戦いが終結した。
しかしガルナドクが生成した黒い鎧の兵士が城の周辺に大量に残っていた。ガルナドクに集まっていた大勢の兵士が地面に倒れており、将軍やギルド長、魔道学校の教師が絶望を味わっているような表情をしながら兵士に指示していた。
俺は瓦礫の山に取り残されている魔導士を引っ張り出し、
「黒い鎧の兵士を生成しているのはお前か?即刻中止しろ!」
と胸倉を掴んで叫ぶが、ガルナドクに雇われた魔導士はいずれも怯えた口調で、
「ガルナドクが勝手に生成しました。私達には止める方法がありませんし、倒す方法も知りません」
と声を揃えて返答するばかりだった。心の声の言う通り、魔導士はガルナドクの魔力を蓄えるために働いていただけだった。
2000人程の黒い鎧の大軍勢が瓦礫の山を取り囲み、俺に狙いを定めて剣や銃を構えていた。この状況下で黒い鎧と戦える人物は俺しかしない。瓦礫の山に埋もれている仲間やエレアノールを一刻も早く救い出すために、俺は再び剣を握り始めた。すると上空から大量の槍が降り出し、黒い鎧の兵士達を貫いた。地面に足が着地すると槍を構えている女性が俺に振り向いた。女性は優しそうな静かな声で、
「ガルナドクを生み出してしまったのは私の責任でもあります。エルディアさんや全世界の魂に償えませんが、私なりに責任を取りたいです。エルディア、何でもいいから私に指示してください」
俺はこの女性を知っていた、穴に落ちて死んだはずであるライラであった。ライラの服装は黒色の鎧から白色の軽装の動きやすい戦闘服に変わっており、髪や槍の色も黒色から白色に変わっていた。俺はライラが生きていた理由が気になるが、戦闘に集中してライラに命令した。
「ライラ、お前が俺を裏切らない保証があるなら、一刻も早く黒色の鎧の兵士を潰してくれ」
「分かりました。全身全霊を懸けて臨みます」
ライラは槍を振り払うと黒い鎧の兵士を吹き飛ばし、黒色の粒に粉々になった。
「エルディアさん、今のうちに仲間を連れて逃げてください。私が道を作ります」
俺はすぐに瓦礫の山をかき分け、血まみれの状態のエミ、セレスト、メルマール、エレアノールを救出した。エミ、セレスト、メルマールからは黒い針や粒が消えていた。しかし1回で4人を安全な場所まで運び込めない。その時、ライラは俺達を白い球体に包み込んだ。
「エルディアさん、私にはこれしかできませんが、この世界を頼みますね」
「ライラ、どういうことだ?」
「エルディアさんの仲間が待っている場所まで送ります」
「1人で戦うのか?危険すぎる!」
「いいえ、これが私の役割です。世界の運命をエルディアさんに託します」
白い球体は戦地から離れながら飛び始め、ライラを見つめることしかできなかった。ライラは体に銃弾が撃ち込まれても攻撃をやめず、衝撃波を何度も発生させた。ライラの服が血に染まっても、ライラは苦しそうな表情をしながら敵を衝撃波で敵を地面に叩きつけながら、上空から槍を発生させる魔法を発動させて敵の体を貫き、1人で2000人を相手に必死に戦っていた。俺にはライラの無事を祈ることしかできず、球体は戦地から離れた。
数十分後、俺と傷ついた4人はアリア、リル、クラーラ、フローレンスが帰りを待っているテントに到着し、白い球体が縦に割れた。その瞬間、戦地から将軍やギルド長、魔道学校の教師の歓声が上がった。




