第十八話 迫りくる崩壊への音(下)
「エルディアさん、助けに来たよ!」
あの炎の球を放ったのはアリアだった。セレストとは遠く及ばないが、彼女のおかげで敵に大きなダメージを与えることができた。アリアは大きく手を振っていた。
「エルディアさん、私達を置いておかないでよ!私達は仲間なんだから!」
「うん、仲間です」
「ええ、エルディアのために私達も全力で支援します」
「最前線はエルディア一人では危険だから、私も戦うよ」
4人は笑顔で俺を呼んでくれた。何も頼んでいないのに俺のために来てくれた、これが仲間というものなのか、と感慨に耽っていたが今はそういう場合じゃない。
エミは槍の柄で敵を押し倒しながら俺の目の前まで駆け寄った。
「エルディア、無茶するなよ。危険になったら私に頼っていいから」
「はい、ありがとうございます」
エミは軽く俺の肩を叩き、敵陣に向かって駆けていった。槍を大きく振り回しながら敵の武器を振り落とし、無防備な敵に向かって素早く腹を突き刺した。俺はエミに向かってくる敵を大きく切り裂き、エミは俺を守り、俺はエミを守りながら敵を切り裂いていった。
3人は後方でセレストの指示に従いながら戦った。セレストは敵に指を指しながら落ち着いて指揮を執った。
「最前線で戦っている2人の疲労を最小限にするために、『第1陣の敵を倒す』ことよりも『第2陣の敵を倒す』ことを優先して戦ってください。メルマールさんの狙撃用の銃では20メートル遠くの敵にダメージを与えられるはずです。リルさんとアリアさんは矢を魔法でコントロールしながら、後方の敵を集中的に狙ってください。私も最大限サポートします」
メルマールは左目を瞑りながら集中して敵に狙いを合わせ銃弾を放ち、リルはアリアの魔法による矢のコントールをしてもらいながら弓矢を放った。セレストは両手を敵に向けて伸ばし、
「雷の王よ、悪き者に裁きを与えよ、ゴッド・ライトニング・ブレイク」と呪文を唱え、雲から轟音が響き渡るほどの巨大な雷を発生させ、敵を一掃した。しかし、敵は増え続けた。体力や魔力が減り、俺とセレストは「フローレンスはまだか!」と呟き、八つ当たりをしながら戦っていた。
しかし敵も攻撃性を増してきた。兵士は剣を後方で戦っているアリアに向けて剣を投げた。ガルナドクの魔法で作られた人間は普通の人間よりも運動性が高く、速度を落とさずにアリアの頭に向かって銃弾のように飛んできた。アリアは避けられず、俺とエミは「アリア!」と叫び、リルとメルマールとセレストは攻撃中のため咄嗟にアリアの防御に移行できなかった。アリア、死なないでくれ!と天に祈ったとき、何者かが剣で剣を振り落とした。青色の制服のフローレンスだった!その隣に疲れ果てたクラーラも付いてきた。
「セレストさん、フローレンスさんはセレストさんしか操れません!メイドでも無理です!」と怒りながら胸を掴み、同情や慰めてほしいと懇願してきた。今はそういう場合ではないが、フローレンスの今までの行動から察した。フローレンスはセレストに笑みを浮かべながら、「遅くなってごめん」と軽く謝ったが、セレストは冷静さを何が何でも保つように拳を握りながら「ゴッド・ライトニング・ブレイク」をもう1発放った。
「青色!早く敵を一掃しろ!」
「了解しました、セレスト上官!」
セレストはフローレンスに殴ることを躊躇し、必死に我慢した。なぜフローレンスはセレストを怒らせるのが上手いのだろうか、フローレンスに友達がいない理由も明白に分かってしまった。しかし戦闘能力は大隊隊長を任されるほどの実力だった。
フローレンスが俺とエミがいる最前線に駆け寄ると、「危ないから後ろに下がって」と注意した。そして彼女が大きく剣を横に振ると、台風のように強烈な風と共に衝撃波を生み出した。ラデオアとの戦いで味わった衝撃波に似ているようだった。衝撃波は敵の鎧や武器を粉々にし、無防備な兵士を地響きが響き渡るほどの圧力で地面に叩きつけた。俺達の苦労が一瞬にして消え去り、俺とエミは慌てて目を擦るが、夢ではなく事実だった、砂が大波のように舞い上がっていた。フローレンスは敵の第2陣を見ると、
「雑魚達、地獄にようこそ!」とセレストとじゃれ合うフローレンスではなく、猛獣を狙うハンターの目をした凶暴なフローレンスが剣を構えていた。彼女が小さく剣を振ると、5メートルも離れている敵に小さな衝撃波を与え、兵士にハンマーで叩きつけるような圧力を与えて地面に倒れさせた。そして何度も簡単に衝撃波を重ねて攻撃し、敵を血の海にさせた。彼女はラデオア以上の実力だ、仲間なのに俺の足が震えていた。今後は『フローレンス』に文句を言うときはセレストを通して言うことにしよう、と怯えながら考えた。
30分後、敵の加勢は収まり、街に平和が戻った。感謝を伝える住民が俺達を囲むがフローレンスは顔を赤め、恥ずかしがりながら「早く城に戻るわよ」とセレストや俺の服を掴んだ。あの光景を見たらフローレンスに逆らえそうにないので、しぶしぶ彼女の命令に従った。
その後、大量の傷を負った俺はアリア達に再び別れを告げ、セレストとクラーラと一緒に病室に戻った。フローレンスはクラーラの希望によりアリア達に任せることになった。クラーラに包帯や消毒液で治療を受けてもらいながらセレストに質問した。
「なぜフローレンスは衝撃波が使える?なぜラデオアよりも強力な衝撃波が使える?」
「結論から言います、彼女はゼルガンドの実験台です」
「どういう意味だ?」
「彼女は違法な魔法で作られました。先程襲ってきた兵士も違法な魔法で作られています。ゼルガンドはいらなくなった魂と魔法を調合して人間を作っているらしいです。そして彼女が第1号です」
「だがさっきの兵士よりも段違いに強すぎる、それはなぜだ?」
「量産化を目標に彼女を作るときにあたり、ゼルガンドの魔導士は魂がいくつ必要か考え、余分に魂を調合したそうです。その量も先程の兵士の倍以上を投入したそうです。これにより彼女が出来上がりましたが、魔導士たちは彼女の攻撃を防げず、今も捜索中だそうです」
「捜索中?それなら追手が来るはずだが、しかもなぜ入隊できた?」
「私が保護しました。数年前に全ての魔道学校の優秀な生徒が政府に招集され、彼女を捕まえるよう命令を受けましたが、私はその命令を破り、今後も破るつもりです。なぜなら私以外の魔導士が死んだからです。そのくらい脅威の存在であり、政府に差し出しても彼女が暴走すれば国は簡単に滅ぶでしょう。だから私は彼女を保護し、彼女の攻撃に制限を掛けました。先程の衝撃波の攻撃は彼女の10パーセントの体力しか使ってませんから」
「10パーセントでラデオア並みの攻撃かよ!」
「ええ、彼女を抑えるのは命懸けでした。防御魔法を最大限に展開しながら彼女のリミッターを抑える魔法を唱えないといけないので、少しでも油断すれば即死の状況でした。確か3時間かけて彼女の能力を抑えられたと思います、その時の私は目が真っ赤になるほど疲労していたと思います。その後は彼女の存在がばれないように私の家に住まわせ、私好みの顔や体に魔法で変化させました。実は人体のパーツを変化させる魔法は美容業界が潰れるため違法とされていますが、彼女のために違法行為をしていると罪悪感を抱きながら必死に魔法をかけていました。そして私が首席で卒業すると私は魔道兵として軍に入隊しますが、同時期に彼女を将軍に主席の特権で推薦し、統制能力は青色の中で最も低いですが能力を認められて軍に所属しました。彼女に統制能力がないおかげで、私とフローレンスの2人で行動するようにと将軍から命令されていますが、彼女が暴走しないように配慮していただいて将軍には感謝しています」
「こんなことがあってフローレンスは強力な能力が使えるのか」
「ですから、友達がいないフローレンスのために、友達になってくださいね!」
「はい......、自信はないですが頑張ります」
これから俺はフローレンスとどうなってしまうのか、友達になれるだろうか?俺はクラーラに「そろそろ寝る時間ですよ」と促され、病室のベットに仰向けになり、目をゆっくりと閉じた。