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ウサ耳生活  作者: heavygear
7/19

人は変わる生き物だ

ちょっとずつ強くなるんじゃよ

え?

もうすでに強い?

気のせいじゃ




 時は流れる。

 ラフー生活54日目、今日は猪が食いたい。


 泣いて、漏らして、寝込んでと黒歴史を積み上げながらも俺はこの大森林で生き残っていた。

 幸運な事にファンタジー世界特有のモンスターさん達に出会う事なく過ごしている。

 今後どうなるかは解らないが、日々精一杯悔いのないよう生きよう。

 戦神ダレイトスよ、今日も一日祟らない様願います。


「にゃおおおぉぉぉ~~んっ!!」


 戦斧片手に今日も元気に叫ぶ俺であった。




 人は変わる生き物だ。

 どっかの偉い人がそう言った。

 地球での記憶が歯抜け状態なので、誰が言ったかは本気で知らない。

 でも、良い言葉だ。

 泣いてばかりじゃ生き残れないからなっ!


 てな訳で、あっという間に二月近くが過ぎた。

 大自然を前にトライ&エラーを繰り返し、必死に過ごしました。

 えぇ、よく生き残れたものです。

 流石小さな勇者ラフーのボディだ。

 七転八倒しまくっても、ギリギリ生き残れるZE!

 後、忌まわしき祟り神ダレイトスがくれた冒険手引書のおかげだね!

 これがなかったら、きっと三日目辺りで死んでたね、きっと。

 まあ、兎に角頑張ったよ。

 現代日本と違って、簡単にサバイバル本やキャンプ用品が手に入る訳じゃないから、足りない道具や食料の確保は大変でした。


 石を割って、尖らせ、磨いて石包丁を作ったり。

 木を伐り、薪の予備やスノコを作ったり。

 シャイニング・レーザーとライトボールを周辺に撃ちまくって、トイレや獣避けの堀を作ったり。

 蔦を集めて、縄を編んだり、ザルを作ったり。

 失禁しながら動物を狩ったり。

 血の匂いに気分を悪くさせながら、獲物を捌いたり。

 剥ぎ取った毛皮をなめしたり。


 ……っと、兎に角色々頑張った。


 拠点の物置部屋も大分暮らし易い部屋になったね。

 湿気対策にスノコを敷き、その上に毛皮を敷いたので、夜寝る時が少し快適になったよ。

 石の床に直接寝るとジメジメしてキツイんだ。

 釘があれば、テーブルとかベッドとか少しはマシな物が作れると思うんだけど、手持ちに使えそうな金物が少ないからねぇ。

 スノコや玄関の戸なんて、木の板を縄で固定した粗末なもんだよ。

 調理用器具もほとんどないしさ。

 銀の食器セット?

 あれは、普通に銀製の食器セットであって、ナイフもあるけど食事用だ。

 生肉捌いたりするものじゃないよ。

 斧だと調理し難いので、石包丁を作ったんだ。

 銀の大皿は鏡代わりにも使えるんだけどね。

 まあ、これはどうでもいいか。

 後は木を削って、オタマや箸も作ったよ。

 適当な石材を拾って竈も作ったね。

 廃墟から使えそうな焼き物の鍋や瓶もいくつか拾えたので、調理用器具はまあ揃ったって事で。

 問題は俺に料理スキルがあまりない事なんだよなぁ。

 基本、煮るか焼くだからね。


 冒険手引書のおかげで、植物の恩恵も受ける事が出来た。


 水気の多い場所に自生するハンノキ。

 煎じるとうがい薬になるハンノキの葉や樹液。

 水で濡れたハンノキの葉や粘つく樹液は、虫除けやノミ除けに使える。

 さらにコイツの樹液をお湯に溶かしたものは、皮のなめしに使えたりと超万能。

 ノミには酷い目にあう事も多々あって、この木には本当毎日お世話になっているよ。


 キマダラゴケもそうだ。

 布に包んでから水に漬けて揉むと、白い油分が染み出て石鹸代わりに使える。

 香りもほとんどないし、あんまり泡立たないけどね。

 身体を清潔に保つのは大事。


 癒し担当ヤマリンゴとハーブ類。

 サバイバル初期は、ほぼ主食だった。

 コイツは兎に角無限鞄に詰め込んで保存しているよ。

 無限鞄は入れたものの時間を止めているようで、下手な冷蔵庫以上に便利。

 ハーブ類も無限鞄に詰め込みまくったね。

 時期が過ぎたのか、最近ではほとんど取れなくなった。


 オオツブブナ。

 ドングリっぽい実が生る木。

 冬用の保存食として俺は最近拾い集めている。

 コイツが生っているって事は冬が近付いている証拠だろう。

 硬い殻を剥いて、水にさらして灰汁抜きし、瓶に詰めて保存する。

 結構面倒くさいんだけど、冬に備えて保存だ。


 キノコ類。

 ヤバイ。

 炊事場跡に自生していたマッシュルーム以外は手を出せない。

 廃墟とその周辺で採れるヤツは毒キノコ多過ぎ。

 食べて腹痛は可愛いレベル。

 見分けも難しいし、ものによっては素手で触っただけで酷くかぶれる種もあって、素人には無理。


 最後に珍しい植物。

 塩分を実に蓄えるニガシオダマ。

 見た目は緑色の小さな瓜。

 生で齧ると、ヨモギとピーマンの苦味に塩辛さを加えた不思議な植物だ。

 火を通すと苦味が抜けて甘くなるが、やっぱり塩辛くて普通に食べれない。

 だから、調味料代わりに少量使うようにしているよ。

 独特の青臭さと苦味が残るけど、塩気のない食生活は辛いから我慢だね。

 ニガシオダマを見つけたのは、ラッキーだったよ。

 コイツは廃墟の壁に囲まれた一角にしか生っていなかった。

 手引書に寄ると、内陸部で育てられる反面、塩害を起こす作物らしい。

 きっと、この施設に昔住んでいた方達が塩を取る為、壁で囲って育てていたんだろうね。


 動物と昆虫さんにもお世話になりました。

 良い意味と悪い意味でな!


 昆虫食は当たり外れがあるし、偶に毒性の強い食べられる種類に似たヤツに引っかかるんだよ。

 サバイバル生活最初の2週間は、コイツらとの死闘さ。

 大半俺が負けて悶絶腹痛生活である。

 スグ・ナオールがなければ何度死んだ事か。

 もう昆虫食はしたくない。

 怖すぎる。

 まだ、リスクを犯して普通の狩りをした方がマシだ。

 素人でも比較的楽に捕まえる事が出来るのは魅力なんだが……。


 まあ、涼しくなり始めてからは見かける数が減少してきたので、動物を狩る方にシフトしたんだけどね。


 ノミとシラミ、蚊とか嫌い。

 ただでさえストレス溜まり易い環境なのに、コイツらときたら痒みで俺をさらにイジメやがる。

 ノミなんかは尻尾や首筋の毛に入り込むんで、本当憎たらしいったらありゃしない。

 今はハンノキさんのおかげで大分楽になったけど、始めの頃は寝れない程痒い日が幾日かあったからなぁ。


 ゴキブリも見た。

 日本のご家庭で見かけられるような平べったいヤツじゃなくて、洋画の裏路地に出没するような胴が丸くて太ったヤツ。

 大きいのになると、手の平サイズも居た。

 間近で遭遇した時は、凄い怖かったよ。

 ショックで一度オシッコ漏らしたね。

 手引書には食用可とあったけど、怖くて食べてません。

 不気味さを考えるとクモの方が百倍マシで食える。

 偶に似た様な毒蜘蛛に引っかかって死に掛けるけどなっ!


 猪さんと鹿さん美味しいです。

 樹上からライトボールを1~2発当てれば倒せるから、見つけさえすればなんとか狩れます。


 狼さんは毛皮を主に頂きます。

 肉はあんまり旨くないし、コイツら群れで動くから、こっちの方が危険なんだよ。

 しかも、体が大きくて、鋭い牙と爪を標準装備。

 ドングリ集めの最中に一度襲われて、大怪我させられただけでなく、恐怖で大きい方まで漏らしたよ。

 飛行能力とスグ・ナオールがなければ冗談抜きで、逆に餌にされたね。


 植物採集も含め、食料調達は命がけです。


 色々と経験させられました。

 大自然ってヤツは、本で読むのと大違いの厳しい世界ですね。

 綺麗な夜空を眺めて感動したりとか、やってる余裕なんてありません。


 しかし、制限付きとはいえ空が飛べて飛び道具があるのは、生き抜く事に有利だと心底実感したね。

 狩りの時程、この能力に随分助けられたよ。

 森に住む猪さんと鹿さんにも食料面で助けられました。

 兎さんは見かけたけど狩ってません。

 美味しそうだとは思うんだけど、ウサ耳装備の俺にあの子達を狩るなんて出来ませんでした。

 猪さんと鹿さん狩れるから、切羽詰るまで放置しておきます。

 それに、手引書によるとビスタ族って自分に近しい獣の肉食べないらしいんで。

 狼食べたけどセーフだよね?

 あぁ、カオスなラフーボディが悩ましい。

 この分だと、兎、猫、山羊、犬、狐は食べちゃダメなんだろうなぁ。

 鳥系はOKだろうけど、あいつ等下手するとライトボール一発で消し飛んじゃうから、可食部ほとんど手に入らないんだよ。

 捕獲用の罠なんて作った事ないし、例え作れてもどう仕掛けていいかも解らない。

 投石は論外。

 戦斧も右に同じ。

 弓矢も作れないし、鳥類はお手上げです。


 但し、ワタリガラスと山猫、手前らは俺の天敵だ。

 くたばりやがれ。

 狩りと採集を散々妨害しやがって。

 許さん。


 血抜きしてる最中とか、ワタリガラスが群れで俺を獲物ごと啄ばみに来たりとか。

 捌いた肉を保存食用に乾燥させていると、ちょっと目を放した隙にワタリガラスと山猫がヒョイッと掻っ攫っていたりとか。


 次に出遭ったら、絶対ライトボールを当ててやる。

 食い物の恨みは恐ろしいんだぞ。

 それと、耳を啄ばまれたり、肩や腕を引っ掻かれた事は忘れないからなぁっ!!

 凄い痛いし、凄い怖かったんだぞぉっ!

 あぁ、思い出すだけで涙が出てくる。

 グスンッ。


 しかし、幼女ボディになった所為か、どうにも涙もろくなってしまった。

 故郷が恋しい。

 小汚い四畳半アパート暮らししか思い出せないけどなっ!

 TVやゲーム機、パソコンが恋しいよぉ~っ。

 白い米、醤油に味噌、パスタにうどん、レトルトカレーにカップラーメン~っ!

 ビールに焼酎、ウィスキー。

 あぁ、故郷の味が恋しい。

 ついでに人恋しい。

 孤独ってこんなにも辛いんだね。


 いかん、また涙ががが……。



 

「……」


 背の高い木々を影にして、出来るだけ物音を発てず移動する。

 自然に溶け込むよう、気配を薄くし、それでいて周囲の様子をしっかり探る。

 狩りや採集に集中している時が、無防備になりやすいからだ。

 移動も徒歩ではなく、尻尾飛行中心で行う。

 廃墟を飲み込む森林は、巨木が乱立する所為で歩き難い。

 太い根が地表のアチコチを好き放題伸びているので、ドングリや苔等を採集する以外は出来るだけ飛行移動に頼っている。

 苔生した天然のアスレチックコートだよ、ここは。

 獣が隠れる物陰も多いから、徒歩での移動は労力に合わないし、危険も多いのだ。

 頭上を覆う枝葉にも注意が必要だ。

 鳥が休んでいる場合もあるし、凶暴な山猫が枝で寝ている時があるからね。

 可愛いリスとかも居るけど、今は癒しよりも食料優先です。

 爬虫類はあまり見掛けていない。

 トカゲは苔を餌にしているようで、よく見掛けたよ。

 焼いてオヤツにしました。

 う~ん、野生児。

 蛇は一度も見ていない。

 毒蛇と大蛇さんには怖いんで遭いたくないです。


 さて、狩りに集中しますか。

 オオツブブナの木が多く生っている場所へと、スーッと移動。

 下側から見て俺の姿が隠せそうな枝に着地。


「……」


 頭上にある耳をピコピコ動かして、周囲の物音を探る。

 ウサ耳ソナーだ。

 いや、潜水艦のソナー程優秀じゃないけど、普通の人間だった頃よりも感知力は上。

 顔の方向をあまり変えずに、前方や左右の物音を探れるから、ウサ耳もそう悪いものではない。


「右?」


 フガフガと咀嚼する小さな音を探知。

 おそらく地面に落ちたブナの実を食べている猪であろう。

 幹に張り付くように移動し、物音が聞こえた方角を確認する。


「ビンゴ」


 猪を複数発見。

 数は3。

 大きい個体1と小さい個体2。

 母親に連れられた子供2頭といったところか。

 小さい個体といってもウリ坊のような縞模様はない。

 親離れ前だろう。


 さて、どうするか?


 出来るだけメスは狩らない方が良いと思うので、母親は見逃そう。

 残りは子供のうちのどちらかだが……。


「……ダメきゃ」


 違う猪を探そう。

 相手は複数居るから、ライトボールで倒したとしても、肉の確保に地上に降りる必要があり、母親との戦闘が予感される。

 諦めて、別の個体を探した方が良いだろう。

 俺はそう判断して、そっと離れた。


 段々ハンターっぽくなってきたなぁ。

 勇者の使命はどこ行ったである。

 言い訳するなら、環境に適応する期間なんです、かな?


 はたして、自分が勇者として大陸の危機を救えるのか解らない。

 しかし、小さな勇者ラフーとして能力を与えられた以上、何時かはこの問題にぶち当たるだろう。

 やっていけるか?

 今は無理だ。

 はっきり言って戦う事自体怖い。

 狼やワタリガラス、それに山猫相手で苦戦する俺だ。

 手引書に記載されていた数々のモンスター相手に戦える自信は欠片もない。

 高火力のシャイニング・レーザーが使えたとしても、だ。

 だが、俺を小さな勇者ラフーとしてこの地に送り込んだ相手は神。

 それも戦いを司る戦神である。

 きっと、そう遠くない未来に強大な何かと戦う運命が定められているに違いない。

 運命が何かは解らない。

 ただ、運命に絶望したまま死ぬのを待つだけは回避しようと思う。

 俺は抗う事に決めた。

 今は己を鍛え、活かしきれていない自身の能力を十全に使いこなせるようにするべきである。

 どこまでやれるかは解らないが、小さな勇者ラフーとして俺は戦う――いや、生き残る。

 負けたままでいたくない。

 絶対、生き残ってやる。


 そう考えるとモニター内で戦っていたラフーは、本当に勇者だったんだなと思った。

 自分より身体の大きい敵を相手に一歩も引かずに前に進み続けたのだから。

 例えゲーム内の作られた存在であっても、俺はラフーを尊敬せずにはいられない。


 何時か俺も、今の姿に恥じない存在になれるだろうか?

 いや、なるのだ。

 ラフーに。


 小さな勇者ラフーに俺はなるっ!


 そう強く意識し、俺は狩りへと戻った。




 ……。




 三日程廃墟周辺をうろついて得られた成果は狼二頭でした。

 もう少し遠出しないと厳しいのか、あの三頭以外の猪は見かけなかったよ。

 代わりに狼を十頭前後発見したので、彼らの頭上から強襲して、二頭確保した。

 数は力だと良く解る結果だった。

 回収するために、牽制としてライトボールを撃ちまくったんだけど、あいつ等近くにある木を利用して三角飛びで宙に浮いてる俺に攻撃してくるんだ。

 おかげで、脚に沢山傷を付けられたし、一張羅のズボンは裾がズタズタになってしまった。

 噛みつき攻撃だけはギリギリ回避したよ。

 身体の大きい狼に噛み付かれたら、絶対地上に引き摺り下ろされるからね。

 それに、やっぱり戦うのは怖いです。

 勇者への道のりは遠いなぁ。


 ラフー生活56日目の夜、狼のお肉はちょっとしょっぱかったです。

 グスンッ。




 ……。




 廃墟周辺の探索範囲を徐々に広げていたラフー生活69日目の事。

 相変わらず他者との接触はないが、恐れていた事がとうとう起きた。


「……雪」


 朝、白い小さな粒が舞い降りた。

 1つ2つ、3つとゆらりゆらりと空から降ってくる。

 

 冬の到来。

 人里の捜索よりも重要な問題がやって来た。

 毛皮や食料、薪の確保等だ。


 はたして俺は生き残れるのであろうか……?



戦えーっ

戦うんじゃラフーッ!

相手は冬じゃよ

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