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ウサ耳生活  作者: heavygear
8/19

今回は短め




 ラフー生活75日目、雪が本格的に降り始める。

 どれだけ降り積もるのか、どのくらいの期間冬が続くのかは不明。

 不安だが、兎に角生き残る為全力を尽くすしかない。


 廃墟からさっさと移動すればよかったんじゃないの?


 ……と、そう考える人もいるだろう。

 俺も始めはそう考えていた。

 すぐさま移動するのではなく、自分に与えられた能力を把握してからと付け加えるが。


 3キロ前後の戦斧を片手で振る腕力。

 飛行能力。

 ショット能力である、ライトボールとシャイニングレーザー。

 魔法は3つ。

 状態異常も癒す回復魔法スグ・ナオール。

 ライトボールを着弾点で爆発させるハーレツ。

 ライトボールを自身の周囲に周回移動させて盾代わりにするタマワール。


 今挙げた6つの特殊な能力以外となるとこうなる。


 頭上で動いて良く聞こえるウサ耳。

 薄暗い森でもハッキリ見える山羊っぽい瞳。

 多少寒くても平気な天然毛皮。

 現代人より少々丈夫な内蔵。

 抱くとフワフワして気持ちいい尻尾。

 お漏らししやすい根性無しの膀胱。


 ……ぐらいだろう。

 それに道具類。


 錆びず、折れず、曲がらないよく斬れる戦斧。

 ワタリガラスと山猫の所為で傷だらけになってしまった頑丈な黒い兜。

 丈夫な皮の腹帯。

 魔法の傷薬が2本。

 荷物が沢山入る魔法の鞄。

 冒険手引書。

 裁縫道具。

 ハンカチと手拭い。

 銀の食器セット。

 効果がよく解らない魔法の水差し。


 ……だ。

 後は、現地で得た道具類。


 石の包丁が大小6つ。

 蔦で作ったロープが10メートル少々。

 拾った土鍋2つ。

 水瓶8つ。

 木へらとおたま。

 箸と菜箸。

 少し湿気った大量の薪。

 拾った壷に詰めたお手製ヤマリンゴジャム。

 大量のミント。

 お手製籠に詰めた大量のニガシオダマ。

 大量の青臭い燻製肉。

 毛皮で作った毛布。

 猪と鹿の毛皮で作ったフード付きコート。


 ……ぐらいか。


 上記の装備がある程度揃った頃、俺は廃墟から出て、森林を抜け出そうとした。

 したが、ある理由から途中で止める事になる。


 それは何故か?


 以前説明したと思うが、廃墟を飲み込まんとする大森林が原因だ。

 目視で30メートルクラスのシラカバが乱立し、20メートルクラスの黒いハンノキやオオツブブナ、天然の迷路やドームを作る奇妙な群生を行うヤマリンゴの木達が、俺の行く手を阻むのである。

 俺の飛行能力による上昇限界高度は約15メートル。

 緑に覆われた白黒茶色な幹が、行く手を遮るのだった。

 晴れた日に一度、30メートルクラスのシラカバに取り付き、木登りしてみたが、視界に入るは360度の緑。

 ついでに、日差しを受け森林から立ち昇る白い靄である。

 太陽の動きである程度の方角は解るが、どの方向に進めば人里に辿り着けるか皆目見当がつかない。


 これでは多少の物資があったとしてもいずれ窮する可能性が高いのだ。


 だからこそ、冒険手引書をしっかりと読み、トライ&エラーを繰り返したのである。

 ただ、サバイバル生活に慣れだした頃に冬が到来するとは思ってもみなかった。

 と、まあそんな感じ。


 そういう訳で、廃墟の脱出から冬籠もり対策へシフトチェンジしたのだった。




 ラフー生活91日目、念のため作っておいた毛皮のコートを着る。


 雪の降る量が増え、木々を白く化粧し初めだすと、森の実りは粗方消え去ってしまった。

 吹雪く程の豪雪は今の所ないので、俺は森に入ってはせっせと食料確保に努める。

 採れるものは食用可能な野草と野ネズミぐらい。

 採れないよりマシなので、美味しくいただく。

 燃料に関しては、ライトボールと斧の合わせ技で木の伐採が出来るのでなんとかなっている。


 日に日に温度は下がり、吐く息は白くなった。

 拠点内にこもっても、肌寒く感じ、毛布かコートが必要になり始める。

 今居る土地が豪雪地帯であった場合、更に何かしらの防寒対策が必要になるだろう。


 ここでも、優秀な冒険手引書がここでも役に立つ……なんて事なかった。


 気候や環境については基礎的な対応しか載っていなかったのである。

 厳しい環境に対しては、現地の人に協力を求めるよう記されていただけだ。

 手引書に頼り過ぎはよくないという事か。

 いや、この世界での一般的な知識が記載されているだけでも充分だろう。

 特にサバイバルは十二分に活用させていただいているのだ。

 これ以上のないもの強請りはよくないね。




 ラフー生活107日目、拠点に引き籠もる。


 吹雪く事はあまりないが、この土地の冬は雨か雪の二択な天候で参った。

 雪が止み晴れたと思ったら雨が降る。

 晴れの日は極端に減った。

 そして、シャーベット状のみぞれが降る日はかなり危険だ。

 尻尾にみぞれが大量にまとわりつき、俺の身体を冷やすだけでなく、飛行能力まで奪う。

 雨か雪なら簡単に振り払えるが、半分凍ったみぞれはヤバイ。

 モフモフとした長い毛に覆われた部分なので、結構気付き難いのだ。

 気が付いたら尻尾の表面がパリパリに凍っていたりするのである。

 雪の積もった枝もヤバイ。

 時折、重みに耐え切れず雪の塊を落とす事があるからだ。

 飛行中に雪の塊なんかが頭上にドサッときたら、下手をしなくても墜落したかもしれない。

 もう怖くて迂闊に外出出来ません。


 で、食料と燃料が大量にあるので引き籠もる事にした。

 こうなると、暇潰しに冒険手引書を読むぐらいしか娯楽がないのが辛い。




 ラフー生活131日目、引き籠もり継続。


 シンシンと雪が降る日が続く。

 外出はほとんどしない。

 偶に外に出ても、屋根の雪かきをするか、雪が積もった堀にシャイニングレーザーを撃ち込んで蒸発させるぐらいだ。

 ペットなり家畜なりがいれば孤独が癒せたであろうが、ないので凄く寂しい。

 会話する相手もいない為、このままでは言葉を失いそうである。

 そこで俺は勉強をする事に決めた。

 教材は何度も読み返した冒険手引書である。


 声を出して何度も朗読し、滑舌のトレーニングも同時に行う。

 小枝をペンにして地面に積もった雪のキャンパスに手引書の内容を書き写しては消すを繰り返す。

 この2つを重点的に行った。

 結果、スグ・ナオールが5回のうち1回は発動するようになった。

 しかし、『ナ』は『ニャ』になる事が多いのは変わらない。

 練習あるのみである。


「にゃのはにゃ畑、にゃにょ花畑、菜にょひゃにゃばらけ、にゃのはにゃ畑……」


 と、『菜の花』が上手く発音出来ない。

 うははっ、にゃんだこれーっである。


 他にも色々やってみた。

 毎日、斧を素振りしたり、石壁に張り付いて懸垂っぽい運動したり等した。

 晴れた日は拠点周辺でジョギングもした。

 体力を付ける為だ。

 ただ、あまり負荷が掛かり過ぎる運動は避けた。

 身体が子供だから無理は禁物だからね。


 瞑想とかして、霊素のコントロール強化も行ってみた。

 教本として、冒険手引書を頼ってみたのだが、結果は思わしくない。

 ライトボールやスグ・ナオール等のおかげで切っ掛けは掴めているし、焦らずやろう。

 まあ、素人が数ヶ月程度でどうなるもんでないし、気長にやる事にした。


 裁縫に関しては成長なし。

 コートを一着作った時点で、糸が残り少なくなり、練習自体出来ないからだ。

 狼達によってボロボロにされたズボンは、今では半ズボンである。

 破れた裾は、布巾や予備の当て布になった。

 糸がもうちょっと欲しいなぁ。


 後は外敵関連だが。


 シャイニングレーザーで倒した巨木や堀のおかげで、拠点に危険な獣達は入って来ない。

 ワタリガラスはどこかに渡ったのか、ここ最近姿はおろか泣き声も聞かない。

 山猫もこちらに顔を出さない。

 概ね平和だ。

 一度狼達が拠点に近付いて来た事があったが、ライトボールを撃ちまくって牽制したら二度と近付いて来ないようになった。

 それでも付近に居るのだろう、夜に彼らの遠吠えが聞こえる。

 油断は出来ない。


 ……しかし、孤独だ。


 こればかりはどうしようもない。

 早く春が来ないかな。

 寂しくてどうにかなりそうだ。


 未だ腹立たしさが残るが、暇潰しとして、戦神ダレイトスの祭壇周辺を掃除しておく。

 運動にもなるし、綺麗にされて怒る神様も居ないだろう。

 贅沢は言わないので、これ以上苦難をお与えなさらぬよう願うのみだ。




 ラフー生活231日目、雪の降る量が確実に減った。


 雪より小雨が多くなり、晴れる日も増えている。

 春が近付いているのだろうか?

 溜め込んでおいた食料と燃料も残り3割を切った。

 燃料は木を伐ればなんとか補充出来るが、食料は狩りか採集に赴く必要がある。

 

「勇気ありぇ。

 希望ありぇ。

 全ての命に闘いあり。

 鍛えよ。

 戦神ダレイトスの加護が汝を救わん。

 無限の長さ持ちゅ槍にて、困難を貫きゃん。

 讃えよ。

 戦神ダレイトスを」


 まるで神官みたいなセリフだ。

 これは冒険手引書に記載されている言葉。

 余程信仰して欲しいのか謎だが、ラフー生活150日目を過ぎた辺りから、俺はこれを唱え続けている。

 別に改宗した訳じゃない。

 祟られないよう唱えているだけだ。


 それに、人と出遭った時の事を考えると、戦神を讃えておくのは有効だと思う。

 他人に怪しまれないよう、こちらの世界の神様を信仰していた方が、交渉も楽だろうからだ。

 俺の持ち物に戦神の紋章が付いているから、という理由もある。

 盗品だと因縁付けられて奪われては堪らないからね。


 まあ、他人に合う機会がこの先あればだが……。




 唱えた後、軽く身体を動かしてから、俺は廃墟周辺を中心に採集に向った。


 何か採れるといいけど。


 しばらく、周辺をうろついていると、ウサ耳が小鳥の鳴き声を拾う。

 姿は見えない。

 でも、楽しそうな響きがある。




 ドサッと枝葉に積もった雪が下に落ちる音を何度も拾う。

 まだ森に入らない方が良いだろう。




 雪のように白い兎が森を駆ける姿を発見。

 地面に積もった雪の隙間から緑色の姿が小さな顔を覗かせてもいた。




「……っ、うっ、うぐぅ」


 吐く息はあまり白くない。

 空気はまだ冷えているけれど、降り注ぐ日の光は暖かくなったと感じた。

 頬に暖かいものが流れる。


「っ……春だ……はりゅ……だぁ~」





 そして、長い長い冬が明け、春が来た。




オカン「アタイの神力は53億やな」

タタリ「何を突然?」

オカン「春やで。全力全開で、大地を潤すでえ」

タタリ「ほほう……むっ」

オカン「どないしたん?」

タタリ「私を讃える声が聞こえたような気が……」

オカン「気のせいやな。クソして寝とき」

タタリ「む。……そうよな。ふむ、どこかで戦争でもおきないか」

オカン「あんたに仕事ないほうが世ん中平和や」

タタリ「そ、そうか……(ショボ~ン)」

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