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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
98/375

 閑話 酒精の樹


 閑話第三弾

 オマケです。



---ジーク・エルメライ 視点---


 宴が始まって数分…… 何やら大変な事になってきた。

 サクラがくだを巻き始めた。


「なぁぁにが無礼講だよぉ~、神那クンって何時でも何処でも無礼千万じゃん! 私の事も敬えよぉ~、後輩になっちゃった憐れな先輩を敬えよぉ~」


 様子がおかしい、と、言うよりも以前の調子に戻っている気がする。

 大変革(レヴオル・シオン)以降、常に気を張っていたサクラがリラックスしているようだ。カミナとルカとの合流で肩の荷でも下りたのだろう。

 しかし……


「先輩は後輩を可愛がれよぉ~、後輩は先輩を敬えよぉ~」

「君は私の事をお笑い担当か何かだと思ってるだろぉ? どうせ私はギルド最弱ですよぉ……」


 どう見ても酔っ払いだ、未成年だらけと言う事で酒は自分用の物しか用意していない。コレは一体どういう事だ?

 可能性があるとすればこの樹か?

 そう言えば500年前に『酒精の樹』というモノの噂を聞いた事がある。もしかしてコレがそうなのだろうか?


『トゥエルヴには奇妙なモノがあるのぅ』

「む? アルテナはこの現象に心当たりでもあるのか?」

『うむ、この樹はトレントの一種だ』


 トレントとは樹の魔物の総称だ。

 見た目は樹そのものだが、厳密には植物では無く、根を張り地より養分を得る事は無い。食虫植物の様に生き物を捕食して養分にするのだ。

 樹に擬態し獲物を待つ為、限りなく植物に近い生態をしているが、本来は定期的に動き回るのだ。


「俺の記憶だと、この樹は500年以上昔からこの地にあるハズだが?」

『そうだろう、このトレントは殆んど化石に近い。恐らくは数千年前からこの地に留まり根付いて居たのだろう…… 完全に植物化しておる』

「危険は無いのか?」

『うむ、この状態のトレントは「セイクリッド・トレント」と呼ばれ、既に魔物では無い。生き物を捕食する事は無く、代わりに個体によって特殊な能力を秘めておるのじゃ』

「特殊な能力?」

『恐らくこの樹は人の欲望や願望を肥大化しているのだろう』


 見ると今度は白の様子がおかしい。


「ふみゅぅ……」


 カミナに甘えまくっている…… なるほど、欲望や願望の肥大化か……

 さっきのサクラは敬われたいという気持ちが妙な形で溢れ出たモノか。そして白は心の底からカミナに甘えたかったワケだ。



「マスターは何故私にお仕置きを下さらないのですか?」


 今度はミカヅキの歪んだ欲望が溢れ出した。

 少々間違っている気がするがこちらとしては有り難い、ミカヅキが真に望んでいるのが俺の命を奪い呪いを受け継ぐ事からカミナの寵愛を受ける事に変わった事が……

 他人の命を奪い呪いを受ける事が目標の人生など悲しすぎる。そもそも不死の呪いを持つ俺は死ぬことが無い、つまりミカヅキの望みは永遠に叶わない。

 今の状態がまともかどうかは分からないが、少なくとも以前よりは幸せになれるだろう。



「ですのでカミナ様を絶対に満足させて見せますワ」


 ミラもミカヅキと同様だな。

 母親への復讐よりカミナを選んだのだ。

 一体アイツの何がここまで女たちを引き付けるのか? 男性機能を失って久しい自分には計り知れない世界だ。

 しかしミラの場合、いずれ必ず母親である第6魔王との決着はつけなければならない。

 今こうしている瞬間にも、第6魔王の為に世界は被害を被っている。


 願わくばカミナがミラの生きる理由にならん事を……


「カミナ様ぁ♪」


 ムニョン


 どうやら余計な心配だったらしい。

 ミラはしっかり母親の血を引いている…… 確信した。



「む~~~、神那ぁ」


 この異常現象はルカにも及ぶのか…… 魔王には精神的な攻撃は効かないと思っていたんだが…… ただ単に周囲の空気に流されてるだけかもしれないな。


「ずっと一緒に居よう…… 死ぬまで一緒に居よう…… 死ぬときは一緒だよ…… ってやつ」

「神那は私より先に死んじゃいけない…… だから神那の事は私が全力で守る……」


 何とも危なっかしい魔王だな……

 もしカミナが居なかったらどうなっていた事か…… ルカは魔王としてはあまりにも精神的に弱いようだ。

 二人が常に一緒に神隠しに遭うのは運命だな。この二人は離れ離れになってはいけない。


「だから神那ぁ、私の事も幸せにしてぇ~、みんなに優しくするなら私にもしてぇ~」


 随分と理想的なハーレムを形成している…… ルカは昔から自分に自信が無い様だったが、魔王になっても変わっていないらしい、ここ数日で魔王に対する概念が激変した。

 魔王とは恐怖と憎しみの対象でしかないと思っていたが、それはあくまでも魔王個人の話だったのか…… ならば勇者とは何のために存在するのだろう? 勇者システムは一体誰が生み出したのだ?


 若い頃は魔王を憎んでいたが、カミナとルカを見ていると、誰かにそう思うよう仕組まれていたと思えてくる……



「おにーちゃん死ねばいいのに」


 カミナの妹、イブキの言葉だ。

 禁域王のハーレム特性も血の繋がった妹には効果が無いらしい。


---

--

-


「コレが我がギルドメンバーの本音と言う事か?」

『どうかのぅ? この桜の大木はヒトの心の欲望や願望を肥大化するようじゃからのぅ、拡大解釈とも言える』

「何故俺とアルテナは影響を受けなかったのだ?」

『我は器物じゃからな、それに酒を嗜む者には最初から効果が無かったのだろう』


「だとすると一つ分からない…… カミナには特に変化が見られなかった、普段から飲酒しているのか?」

『そうでは無い、あの女共に囲まれている状況こそが我の真なる主の欲望と願望が具現化したモノだったのだ。故に精神的に踊らされることも無く、この状況に酔いしれていたのだ』


 なるほど…… 正しく禁域王だ。この男はその二つ名に相応しく、いずれ自分の欲望のままに一大ハーレムを築き上げる事だろう。

 世界中の男から嫌われる魔王になるかもな……

 無謀にも魔王に挑む輩が現れなければいいが…… 何せ魔王カミナに挑むと言う事は、同時に魔王ルカを敵に回すと言う事…… それどころか白にミカヅキにミラ…… 最強ギルドのメンバー半数が敵になる。


 うむ、俺も気を付けよう。例え不老不死の呪いを持っていても、巨人族(ジャイアント)のように生き埋めにでもされたら精神が持たん。


『おぉ! 今気付いたんだが、我の真なる主は永遠に若いメンズではないか! やはり我の目に狂いは無かったな!』


 本当に魔王すら手を出せない一大勢力が出来あがるかも知れないな、いや…… 既に出来始めている……

 せめてカミナが世界征服とか考え出さないよう注意深く見守っていくとしよう。まぁ、心配しなくてもそんな面倒な事を考えたりはしないだろう……


 あの男の目的はあくまでハーレムなのだから……




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