第95話 ウィンリーのお出掛け
D.E.M. 恒例の息抜き、春のお花見からおよそ一週間。
ようやくホープの使用権が来た。ホープはうちの子なのに使うのに申請が必要とかあり得ない。早いトコロ海路が復旧してくれないと、何時まで経っても自由に使う事が出来ない。全く迷惑な話だ。
そんな訳で琉架と二人で空の旅を満喫する。ウィンリーから与えられた『欲望磁石』に従い空を飛ぶ事6時間、ようやく目的地スカイキングダムへ到着する。
結構時間が掛かった、かなり遠くまで来た。
下には一面の大海原、ぶっちゃけココが何処か分からないが問題無い。ホープには帰巣本能がある、指示するだけで放っておいてもガイアまで連れてってくれる自動操縦機能付きなのだ、とても便利な生き物だ。
スカイキングダムへ入城すると有翼族の民がもの珍しそうにホープを眺めている。こんな巨大なドラゴンが突然やって来ても恐れたりはしないのだろうか?
そう言えばスカイキングダムでは何匹かドラゴンを飼っているって話だったな。忘れてたがその内の一匹が要塞龍だったんだ…… たしかクラン・クランとか言ったか? 1000メートルサイズだったハズだ…… そんなのを見慣れていればホープくらいで驚くはずないよな、5分の1しかないんだから。
一人の有翼族がこちらへ飛んでくる、兵士では無い。なんか大臣っぽい恰好をしている。
「ようこそお出で下さいました。魔王様のご友人の方々、どうぞこちらへ……」
主賓の様に丁重に扱われる…… 先日の失礼な兵士の対応とは雲泥の差だ。
ホープを雲の城の最下層部分のくぼみへ着陸させる。
「ルカァ~♪ カミナァ~♪」
相変わらず可愛いウィンリーが現れた、まさかの魔王様直々のお出迎えだ。
「おぉ~♪ コレが要塞龍ホープかぁ! 近くで見るのは初めてじゃ! 大きいのぉ!」
「いや、ウィンリーはもっと大きい要塞龍を飼ってるんだろ?」
「おぉ! カミナよう知っておるのぅ。だがクラン・クランはいっつも寝てばっかで滅多に飛ばんのじゃ、最近メタボ気味で困っておる、少しは運動した方が良いのじゃが……」
メタボって…… 最近、奴隷のように働かされてるウチのホープとはえらい違いだな、ちょっと甘やかしすぎかも知れんな。
「ウィンリーちゃんはホープを前にも見た事があるの?」
「うむ、500年ほど前だったかな? スカイキングダムの近くを飛んでいるのを見た。アレはきっと勇者が乗っていたんだろう、どうやらココに余がいる事は知らなかったらしい、そのまま素通りしてしまった」
500年前の勇者もアホ勇者だったのだろうか? いや、ホープを手に入れられただけ49代目BAKA勇者よりも遥かに優秀だ! それに仕方ない面もある、勇者の情報収集は手当たり次第に町中の人に話し掛けるモノ、そこらの一般市民がスカイキングダムの情報を持ってるハズ無いからな。
その後、例の縦方向ジェット気流に乗りウェンリーの部屋へ行く。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「キャハハハハハハ♪」
二人の女魔王に抱き着かれた、琉架はいいとしてウィンリー…… お前、慣れてるだろ? いやいいんだけどね?
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「ルカァ~? 大丈夫か?」
「うん…… ありがと、大丈夫だよ…… 前の時よりは心構えができてたから……」
テーブルに突っ伏しながら答える琉架、顔色が悪いが以前よりは余裕があるらしい。
心構えができてても怖いモノは怖いよな、まぁ慣れるしかないな。
以前と同じウィンリーの私室、ホワイトボードが用意されている、教える気満々だ。実に頼もしい!
「さて…… 第5魔王“風巫女”ウィンリー・ウィンリー・エアリアルが後輩魔王の為に叡智を授けてやろうぞ! その対価として後で一緒に遊ぶことを要求する!」
もう! 可愛いなこの子は! 後でおにーちゃんがたっぷり遊んであげるからね。
…………
なんか幼女にイタズラするみたいに聞こえるな…… エロい意味じゃないからな!
心の中で自分自身に言い訳をしている間に、ウィンリーはオモチャみたいな眼鏡を装着、差し棒を取り出した…… 何となく既視感が…… スパルタウィンリーが誕生していた。
「さぁ! 何でも聞くがイイ!」
そのオママゴトのような格好に一抹の不安を感じる…… まずは軽くジャブを、様子見から始める。
「それじゃまずは…… 『限界突破』について教えて欲しい。俺たちはコイツの使い方を未だに知らない」
「ふむ、限界突破か…… 感覚的な事だから口で説明するのは難しいのじゃが…… 仮に覚えてもあまり使わん方が良いぞ?」
「その理由は?」
「限界突破には使用制限がある、いや、回数制限というべきかのぉ。
使う度に魔王の力の本質を失ってゆくのじゃ」
魔王の力の本質…… つまり『ミスト』を消費すると言う事か、それはつまり……
「限界突破を使い続ければ、いずれ魔王の力は失われるという事か?」
「いや、恐らくそこまでは使えんじゃろう。確かに使い続ければ元の人間に近づいていくだろうが、その際、身体にかかる負担は大変なモノになるじゃろう。何せ限界を突破するワケじゃからな」
なるほど納得だ、魔王の力が薄まった人間に限界突破は耐えられないか……
「それに魔王の力が弱まれば、他の魔王に狙われるかも知れんぞ? 魔王の力の回復には長い時間を要する、それならば他の魔王を倒し、魔王の力を奪った方が手っ取り早い。
使い方はレクチャーしてみるが、極力使わん方が良いと思うぞ?」
つまり限界突破とは『ミスト』を燃料代わりに消費し、無理矢理 魔王という生き物の性能を引き上げるモノなのか。当然その使用にはリスクを伴う……
更にもう一つ悪い情報が…… 『ミスト』って自然回復するのか…… 魔王としては有り難い機能だが、人に戻るには都合の悪い機能だ。
しかし驚いた、幼女魔王様はビックリするほど丁寧に限界突破のデメリットを教えてくれた。正直俺は「フハハー!そんな事は知らん!」で終わってしまう危険性を考えていたが、全然そんな事は無かった。
まぁ、以前にも限界突破のメリットについては丁寧に教えてくれたからな、アレのおかげで致命的な状況にならずに済んだんだ。
どうやら俺はこの子の事を見くびり過ぎてたみたいだ。見た目に騙されてはいけない! どんなに愛らしくてもこの子は第5魔王なのだから!
「フハハハハー! どうじゃ? 余の叡智は役に立ちそうか?」
「あぁ、さすがウィンリーだ、先輩魔王様は偉大だ」ナデナデ
ありがとう代わりにウィンリーの頭を撫でてあげる…… 教えを乞う人間の態度じゃないが……
「ふへへへへ~♪」
嬉しそうにしてるから良いか。
「それじゃ次の質問だ。使途作成方法について教えて欲しい」
「む? 使途とな? カミナは使途を作るつもりなのか?」
「いや、取り敢えずその予定は無い。ただ知識として知っておきたいんだ」
「そうか、使途はあまり多く作らん方が良い、理由は限界突破と同じじゃ。
多く作れば魔王の力は失われていくのじゃ」
そこは俺の仮説通りだな、作れば作るほど『ミスト』は失われていく。
「作れる数と、込める魔王の力に制限ってあるのかな?」
「さあのぉ、余は使途を作った事が無いからそれは分からん」
「え? ウィンリーちゃんは使途を作った事ないの?」
「うむ、使途とは魔王の力の量に応じて服従度が決まるらしいのじゃ。自らの力を分け与えるのなら大事な者に託したい、しかし多くの力を授ければ余に絶対服従になる、何となくそれが嫌なのじゃ。
ほんのちょっぴり与えればいいのかもしれんが、思いの強さによって量が決まるらしいからやはり無理じゃ。
恐らくこの先も余が使途を作る事は無いじゃろう」
あらイヤだ、この子純粋すぎる! なんでこんな純真無垢な子が魔王やってるんだろう?
しかしそうか…… 自分の意思で『ミスト』の量をコントロールすることは出来ないのか…… モルモット作戦は使えそうにないな。
「作り方は力を込めた血を与えるだけでいいらしい、ただし相手が力を受け入れる事が条件じゃ。更に血を受ける側が弱い生き物だと力に耐えられず死んでしまう。魔王の力とは生命力を強化できる劇毒薬なのじゃ」
完全にモルモット作戦は破綻した…… 使途を作るのにも制限はあるのか…… しかし思いとは随分アバウトなサジ加減だな、ウィンリーも作った事が無いとなると試さなければ分からんぞ?
向こうへ帰ったら師匠のお茶に血を混ぜて飲ませてみようかな? もし絶対服従しなければ謀反を起こされて俺が殺されるが……
使途作成は保留だな、いつか使途にしたいと思えるクソ生意気な美少女が現れた時に「屈服させたい」という思いを込めて試してみよう…… 早く現れないかな?
「ただ…… 制限を無視した使途の作り方もあるみたいじゃ。残念ながら方法は不明じゃがな」
「制限を無視した使途?」
「うむ、1200年前の戦乱の時、「宝石の使途」というモノを見た。どうやって作ったのか全く分からん」
宝石…… 生き物ですらないのか……
「ちなみに魔族の作り方はもっと単純だ。魔王の力から発せられた魔力を受け、耐えた者にその魔力の一部が宿って生き物として変質する…… それが魔族じゃ。
魔族作成には魔王の力を消費する必要は無いが、使途と違い服従心はほぼ無い。従って力で押さえつける必要がある、また強化される力も僅かなモノじゃ。
しかし簡単に大量に作る事が出来るから恐怖政治で軍隊に仕立て上げるには都合がイイじゃろう。
それと数の多さゆえに、稀に突然変異が起こるらしい、魔族でありながら使途並みに強化されるケースが、そうした場合使途に昇格させてる魔王も居るみたいだ」
「はぁ~~~、なるほど…… それって俺達が普通に魔術を使ってヒトに当てた場合、そいつが魔族になってしまうのか?」
「いんや、カミナは魔術を使う時、自分の魔力を使うじゃろぅ? 魔族を作る魔力とは魔王の力から直接抽出した魔力に限られる。
マリア=ルージュなんかは常時、その魔力を垂れ流しているらしい。この使い方はハッキリ言って無駄じゃ、疲れる」
つまり心臓だけから直接魔力を取り出す感じか…… 確かに疲れそうだ…… それを常に行っている第3魔王はバケモノだな。コレも馴れか……
「ウィンリーちゃんスゴイ、物知り~♪」ナデナデ
「フハハハハ~♪ 凄かろぅ? 凄かろぅ?」
「うんうん、スゴーイ!」ナデナデ
マジで大した博識ぶりだ、全然すごく見えないところがウィンリーの凄いトコロだな。
「それじゃウィンリー、もう一つだけ……」
「うむ、何じゃ? 言うてみぃ?」
いよいよ本題だ、果たしてどうか?
「俺の推測では魔王にはゲート発生能力があるハズなんだ、それの使い方…… 分かる?」
「ゲート?」
あ…… ダメだこれは……
「ゲートというと…… アッチの世界とコッチの世界を結ぶ門の事か?」
「あぁ、魔王レイドにはその能力があったハズなんだ…… それと魔王リリスにも」
「レイドとリリス? ふ~む…… リリスは後から覚えたモノだろうが…… むむぅ……」
ウィンリーが雲で出来た天井を見上げて唸っている、恐らく2400年分の叡智メモリーから検索を掛けているのだろう。てか、後から覚える事が出来るモノなのか?
「うむ! 分からん!!」
あぁ…… やっぱり……
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「スマンのじゃぁ~~~! 偉そうなことを言っておいて、余はダメダメ魔王じゃ!」
そんなに自分を卑下しないでくれ! 何かコッチがいたたまれない気分になってくる!
「そ……そんな事ないよ! ウィンリーちゃんは私達が知らなかったことをいっぱい教えてくれたんだから! そんなに落ち込まないで? ねっ?」
「うぅ~~~…… ルカァ!」
ウィンリーが琉架に縋り付き泣いている…… いや、マジでこっちは助けてもらった立場だから文句なんか一切ないんだ。
しかしウィンリーでも知らないとなると、後は自力で探るしかないか…… 一度クレムリンに行ってみるか、何かヒントがあるかも知れないし…… 望みは薄いが……
「うぅ…グスッ…… 余は二人の力になれなかったが…カミナの知りたい答えを出せる者を知っておる…… グスッ……」
「え?」
なん……だと!? マジかよ! さすがウィンリー! 見た目と中身は子供そのものだけど、知識量は2400年生きた魔王だ!
「余が案内しよう…… 今ならば行けるはずじゃ」
「そ……それは一体?」
「うむ、第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリー の元へ!」
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第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリー
耳長族出身の女魔王。
古代エルフの廃都「キング・クリムゾン」に居を置き、近づく者は問答無用で攻撃する…… 非常に攻撃的な引きこもりだ。
ちょっと外に出て来なさいとか言おうものなら、扉に向かってあらゆる物を投げつけて威嚇する。
運動不足で戦闘力は低く、母親には高圧的に当たるくせに、厳格な父親にはとことん弱い。にも拘らず、ネット環境を取り上げられると烈火のごとく怒り狂い挙句暴走、家族が寝静まった後、一家惨殺の凶行に出る真性の屑!
それが第7魔王アーリィ=フォレストだ!
いや…… コレはただのイメージだ。少なくとも両親と住んでるワケ無いから、ここまでの屑ではないハズだ! ……と思いたい。
以前アルテナが言っていた、会いに行けるのは魔王くらいなモノだと……
なるほど、確かに今なら会いに行けそうだ。何せこっちは魔王三人。いきなりゲームコントローラーを投げつけられたりはしないだろう。
しかし魔王が三人集まっていようとも、「キング・クリムゾン」に至るには多くの困難が待ち構えているだろう!
「…………」
てか、いきなり最大の難関だ。
アイドル魔王ウィンリーの専属マネージャー フューリー・エリアムさんという、巨大な壁が立ちはだかる!
あの氷点下の眼差しで睨まれては勝てる気がしない……
魔王になって早や1年…… 勝てないと思った相手は初めてだ。
「フューリーよ! 余は二人とお出かけしてくるのじゃ!」
ウィンリーが無策の特攻をかける、早まるな! この世には越えられない壁というモノが存在してだな……
「ハァ…… 仕方ないですね」
え? 今なんて?
「ムフフ~! 実は今! 余はオフなのじゃ!」
オフ…… また魔王に相応しく無い言葉を…… しかしオフ、つまりアイドル業はお休みってことだ。要するにウィンリーのプライベートな時間だ、さすがのマネージャーもその時間にまでは干渉してこないのか。
「しかし魔王さま、来週にはステージがあります。その前日までにお戻り頂け無かった場合は理解っておりますね?」
「う……うむ、理解っておるぞ!」
「もし約束を破られた場合…… 今後100年、お休みナシです!」
厳しい!? ブラックなんてレベルじゃねーぞ!! コレはもはや奴隷契約だ!
ウィンリーのオフの為にも、自由の為にも、何があっても時間までにお家へ帰してあげよう!
「では行くぞ! 目指すは大森林じゃ!」
ウィンリーは分かっているのだろうか? 100年間休み無しって、感情を持たない機械ですら音を上げる程の時間だぞ? それとも2400年生きる魔王にとって100年位大した事ないのだろうか? 俺なら絶対に御免こうむるね。
「前から一度、ホープに乗ってみたかったのじゃ♪」
「そっかぁ。あ、それじゃ今度ウィンリーちゃんのクラン・クランにも乗せてね?」
「ううむ…… 乗せてあげたいのは山々じゃが、あやつ最近 人を乗せて飛ぶことを拒否しやるんじゃ、自分が要塞龍だという事を忘れとるんかのぅ? 困ったもんじゃ。
おぉ! そうじゃ! アーリィ=フォレストの所でついでにクラン・クランの性格を矯正する方法を教えてもらおう!」
ウィンリーのテンションが高い、お出掛けにはしゃいでいる幼女にしか見えない…… 今自分が奴隷に身を落とす瀬戸際に立っていることが分からないのか?
こんなだからフューリーさんが必要以上に心配するんだろうな。
「カミナ様……」
「ん? なんですかフューリーさん」
フューリーさんが琉架とウィンリーに聞こえないように語りかけてきた。
「ウィンリー様の事をよろしくお願いします。向かう先が大森林である以上、多かれ少なかれ戦争に関わる事になるのは致し方ないのですが…… スカイキングダムが戦争に巻き込まれることの無い様、気を払って頂きたいのです」
「ウィンリー個人はイイの?」
「もちろん良くはありません……が、ウィンリー様はお強いですから。むしろ第5魔王 最大の弱点はこのスカイキングダムなのです。
もし有翼族の民が戦争に巻き込まれたらウィンリー様は深く心を痛められるでしょう……
そうならない様、注意して欲しいのです。なにせウィンリー様は……その…… 騙されやすい方ですから」
フューリーさんはさぞ苦労されているのだろう、そしてウィンリーの事を大事に思っている。
ちょっとだけサドっ気があるようだが……
「分かりました、頼まれましょう」
「それから……」
「ん?」
「アイドル生命にかかわるスキャンダルはお控えください。カメラマンはどこに潜んでいるか分からないので……」
信用されてるのか、されてないのか……
まぁ、俺には前科があるからな……
ほっぺにチューでも立派なスキャンダルだ。
気を付けよう。




