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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第96話 キング・クリムゾン


 ホープに乗りスカイキングダムを飛び立つ。

 数時間は空の旅が続く…… ふと下を見ると来た時は一面の海だったのに、今は大地が広がっている。

 スカイキングダムの移動速度はかなり速い、俺たちがお勉強している間にどこかの大陸の上に来てしまったのだろうか?

 しかし眼下に広がる大陸に違和感を覚える…… 何か…… 近いのだ。

 まさか第4領域じゃないだろうな? ジークから絶対に立ち入るなと言われていた危険地帯…… あ、村がある。ミカヅキの話では荒地ばかりの不毛の地って話だったが、普通に豊かな土地に見える。


「なぁ、ウィンリー。ココが何処か分かるか?」

「ん? あぁ、下に見えるのは第1領域じゃ。浮遊大陸『ギルディアス・エデン・フライビ』じゃ」


 な……に? 第1領域? それはつまり『最強の魔王』である第1魔王の支配領域って事か?

 え~と…… 大丈夫だろうか? 勇者の乗り物として名高い要塞龍・ホープに乗っていて……


「気にせんでもいいぞ、この浮遊大陸も第1魔王も1200年前からずっと眠りについておる。マリア=ルージュが『雨』を降らせても無視しとるくらいじゃからな」


 それを聞いて少しだけ安心した、しかし不安要素もある…… 1200年前というワードがどうにも引っ掛かる。

 1200年前…… つまり第一次魔王大戦だ。そして今は現在進行形の大変革(レヴオル・シオン)と第二次魔王大戦だ。

 嫌な予感がビンビンする。そろそろ寝た子が起きてもいい頃だ。

 出来るだけ速やかにこの浮遊大陸を出るべきだな…… てか、この浮遊大陸 広っ!? 地平線に山脈に川に湖…… 端が見えない……

 浮遊大陸アリアも相当広かったが、その比じゃ無い! かつてはこんなモノが世界の空を彷徨っていたとは…… 地上に住む者にとっては迷惑この上ないな。この浮遊大陸の影に入ったら一体何日間暗闇に閉ざされるのだろう? 止まってくれてて良かった。


 そう言えばデクス世界では第1魔王の事を最強の他に「停滞の魔王」とか呼んでたな。


「世界には浮遊大陸と呼ばれるモノが三つある。しかし、実際に大陸のサイズがあるのはココだけじゃ。

 第2領域ラグナロク、第3領域アリア、それらも元々はココ、『ギルディアス・エデン・フライビ』の一部だったのじゃ」


 ウィンリー先生がまた博識っぷりを披露してくれる、そうだったのか…… てか、マジで大陸サイズがあるのか? スケールがデカすぎる……


「まぁここには用は無い、とっとと行くかのぉ」


 異議無し! こんな所にいたらいつトラブルに巻き込まれる事か。魔王が三人もいるんだ、厄介事の方から近づいて来るに決まってる。ならば目視できるトラブルフラグは回避すべきだ。

 最短距離で第1領域を抜ける、大森林へ行くには遠回りになるが、こっちの方が絶対安全だ。



---



 更に飛ぶこと3時間……

 ふたたび陸地が見えてくる、日が落ちかけているので見辛いが所々見える街並みは…… どうやら第12領域らしい。


「この分だとガイアの上を通る事になりそうじゃのぅ? なりそうじゃのぅ?」


 ウィンリーがソワソワしてる、何が言いたいのか簡単に分かる。


「ちょっと寄ってくか? 第7魔王の所へ行くのならミラからアルテナを借りていきたいし」

「やったぁ~~~! ガイア見物じゃぁ~~~!」


 ホープの使用期限があるからあまりゆっくりはしていけないが、少しくらいならいいか。

 魔王様初めてのガイアだな。




 ホープは未だに人里近くには降りてくれないので、首都の上空から目立たない場所へ飛び降りる。すでに薄暗いからできる荒業だ、さすがに真昼間には出来ないな。


「おぉ~~~! ここが人族(ヒウマ)の都、ガイアかぁ~~~! 色んな種族が歩いておるのぅ!」


 ウィンリーのテンションが非常に高い、今にもワンコの様に駆け出しそうだ。小っちゃくて可愛い魔王様が誘拐でもされたら大変だ…… と、いうわけで、肩車でもしてあげよう。


「おぉ~! 久しぶりじゃ~カミナの肩車! 相変わらず至上の乗り心地じゃ♪」


 ウィンリーは相変わらず軽い、至上の乗せ心地でもあるな。

 そう言えば琉架にも肩車をしてあげるって話があったな、すっかり忘れてた…… 俺としたことが……! いつか必ずしてあげよう! 琉架のフトモモに挟まれるとか、きっと極上の乗せ心地だろう!


 夕方のマーケットはヒトで溢れている。

 ウィンリーにしてみれば、多種多様な種族が一つの場所に集まっている光景が珍しいのだろう。鼻息が荒い。


「あ……あれ? カミナ様! ルカ様!」

「おや?」


 ミラがいた。買い物かごを下げて若奥様のような出で立ちだ。当然俺の嫁という設定で……

 しかしミラ一人か? ここにも誘拐されそうな美少女がいる、ガイアにいる男がみんな俺の様な紳士とは限らない…… まぁ、ミラの実力なら人攫い如き軽く蹴散らせるだろうが。


「どうされたのですか? 戻られるのは明日の夜と伺っていましたが?」

「あ~、ちょっと特別な図書館へ行くことになってな、その道すがら寄ったんだ。そうだミラ、アルテナは?」

「アルテナ様は私の部屋で陰干し中です」


 神器でも陰干しってするんだ…… まぁ、本だしな……


「あの…… カミナ様? そちらの女の子は…… えっと…… まさか」

「あぁ、うん…… そのまさかだ」


 緋色眼(ヴァーミリオン)を見たミラが瞬時に答えを導き出す。

 そして……


「フハハハハー! よくぞ見破ったな! 我こそが第5ま……むぐぅっ!?」


 慌ててウィンリーの口を塞ぐ。


「ウィンリー、ちょっと我慢してくれ。さすがにココで大声で名乗りを上げるのはマズイ!」

「むぅ……」


 こんな幼女が魔王を名乗ってもだれも本気にしないだろうけど、さすがにココは人が多すぎる。まして今は戦争中だ。敵では無いにしろ魔王はマズイ。



---



 現在D.E.M. 談話室にはメンバー全員が集まっている。

 みんながこちらを見ているが、俺を見ている訳ではない。正確には俺の肩に座っている幼女を見ている。

 先輩と伊吹の視線が何かを訴えてる…… アレはきっと性犯罪者を見る目だ。俺のことを一体何だと思ってるんだ? あ、性犯罪者だと思ってやがるのか。


「のぅのぅ、カミナよ、もう良いか?」


 ウィンリーはソワソワしてる、さっき名乗りを不完全燃焼で止められたからかな? ここなら外に漏れることもない。


「おぅ、それでは元気よくどうぞ!」

「はぁぁ♪ うん! フハハハハーーー!! 我こそが 第5魔王“風巫女”ウィンリー・ウィンリー・エアリアルじゃ! みんなよろしくお願いしますですのじゃ!!」


 ウィンリーの妙ちくりんな言い回しの名乗りが終わる…… 全員言葉を失ってる。

 真っ先に再起動したのは我が不肖の妹だった。


「か…か…可愛ィィィい!!」


 瞬時に俺の背後に回るとウィンリーを奪い去った。凄まじい早業だ…… さすが俺の妹…… 可愛いモノを見るとペロペロしたくなるトコロ、血は争えないな。


「うわぁーーー♪ この子軽ーい! 羽根で出来てるみたい! ハァハァ、可愛いよぅ! おにーちゃん、この子なんとかウチの子に出来ないかな?」


 お前のお義姉さんにならしてあげられるかも知れないがな…… もちろん口には出さないが。


「おにーちゃんとな?」

「あぁ、その子は俺の妹の霧島伊吹だ」

「おぉ! カミナの妹か!? それなら余の妹も同然じゃ!」


「ん? ヨのイモウト?」


 ウィンリーさん、その話はNGです。スキャンダルになるからやめて。

 周りから追及される前に話題を反らす。


「ざっと紹介すると、この子が獣人族(ビスト)・狐族の如月白だ」

「狐族? おお! 白弧か! ウワサには聞いたことがあるが初めて見たぞ! 小っちゃくて可愛いのぅ!」


 念のため言っておくが、白よりウィンリーの方が小さい……

 それより白弧ってのはやはり魔王の間でも噂になってたのか…… ウチで保護できてよかった。


「…… 小っちゃい……」


 白が恐る恐るといった感じでウィンリーの頭を撫でてる…… 初めて触れ合う動物みたいだ。

 一方撫でられてる魔王様は気持ちよさそうに目を閉じてる…… 本当に子犬っぽい。


「こっちのメイドさんが鬼族(オーガ)のミカヅキ」

「ミカヅキと申します、ウィンリー様、以後お見知りおきを……」

「おぉ、よろしくお願いしますですじゃ。鬼族(オーガ)が第4領域以外にいるのは珍しいのぅ」


 ミカヅキは丁寧な対応をしているが、僅かに警戒しているようだ。さり気なく俺と琉架のそばに寄り、何が起こっても即座に対応できるよう備えている。

 たとえ見た目が幼女でも、相手は立派な魔王だ。その対応は正しい。

 しかしすぐに気付く事になるだろう、この子は純正の幼女だ。警戒するだけ無駄だと言う事に……


「それで彼女がミラ・オリヴィエ、もう分かってるかもしれないが種族は……」

「ふむ、人魚族(マーメイド)じゃのぅ、なんか見ているとミューズの奴を思い出すのぅ……」

「えっと…… それ…… お母様です……」

「ん? オカーサマ?」

「私は第6魔王ミューズ・ミュースの娘です。もし以前に母が迷惑を掛けていたらゴメンナサイです」


 気持ちは分かるがミラが謝る事は無いぞ? 母親の罪を娘が背負う事は無い。


「なんと!? あのアバズレの娘か!? 信じられんほど礼儀正しい娘ではないか! 親に似なくて良かったのぅ!」


 誰だ!幼女にそんな言葉教えたの! 第6魔王を知る人物の評価はとにかくヒドイな。

 一方ミラは、幼女魔王の母親への評価の低さでまた大幅にライフを減らしている…… 苦労が絶えないな、気の毒に……


「そんでそこの筋肉の塊がジーク・エルメライ」

「おい、カミナよ…… もう少しマシな紹介の仕方は無いのか?」

「じーく・えるめらい? 何かどっかで聞いた名前じゃの…… はて?」


 ジークを知ってる? まぁ500年も生きる不能界の生ける伝説だからな、どこかでウワサでも耳にしたのかも知れない。


「一応、賢王とか呼ばれる有名人だからな」

「賢王? オーレンジュジュとかいう奴か?」

「残念ながらソレには数えられてない、それからそのジークの影からこちらを窺っているのが学院の先輩だった佐倉桜」

「おぉ! 余と同じセンパイか!」


 サクラ先輩は肉壁の向こうからこちらを窺っている、俺達が紹介したのは第5魔王…… 警戒して当然だ。むしろアレが普通の反応と言える。

 しかし伊吹に抱きかかえられ、白に頭を撫でられてる姿を見れば、いつまでも警戒しているのが馬鹿らしくなるだろ?



---



「えぇーーー! もう行っちゃうの? 一緒にお風呂に入って一緒に寝たいんだけど、泊まってきなよぉ!」


 夕食後、伊吹が駄々をこねる。

 時間は夜の10時、大森林との往復を考えるとそろそろ出ないと厳しい。向こうにどれくらい留まるのかも分からないし……

 てか、伊吹は相手が魔王様だと言う事を完全に忘れてる、幼女としてしか見ていない。

 さっきからウィンリーを膝に乗せたり、肩に乗せたり、抱っこしたり…… 堪能しまくってる。きっと白に避けられているストレスを発散しているのだろう。ウィンリーは他人とのスキンシップが大好きだからな、打って付けの人材だ。


「カミナ様、アルテナ様です」

「お! ありがとミラ」


 ミラがアルテナを持ってきた。


『うん? 第5魔王……か? 何でこんな所に居る? 夢か?』


 どうやら寝ぼけているらしい。


「おぉ! 神代偽典(エネ・アルテナ)か! 見るのは初めてじゃ! さすがはルカとカミナのギルドじゃ! 驚かされる事だらけじゃ!」

『むおっ!? 本物か!? 噂に聞く第5魔王…… 本当に幼女じゃの』


「アルテナ、お目覚めのトコロ直ぐで悪いが、これから第7魔王の所まで行く、ナビを頼めるか?」

『アーリィ=フォレストの所へか? ふむ…… 面倒な事にならないとイイんだが……』


 面倒? 確かに引きこもりを訪ねると面倒な事になりそうだが……

 別に家から出ろと説得に行くわけじゃない、どちらかと言うと近所に引っ越してきたから挨拶に行く感じに近い、あわよくば仲良くなって色々教えてもらおうと目論んでるが……


『ま、魔王が三人もいれば問題無いだろう』


 やっぱりそっち系の面倒事か……


「うぅ…… ウィンリーちゃんまた遊びに来てね?」

「おぉ! 来る来る! 余は再び舞い戻ってくるぞ!」

「あ~ん♪ この尊大な喋り方も可愛いぃー!」


 うちの妹とは随分仲良くなったようだ、おにーちゃんチョット嫉妬しちゃいそうだよ。


「マスター、十分にお気お付けください。ウィンリー様に悪意のカケラもないのは確信しましたが、第7魔王がどういった人物か不明です」

「あぁ、分かってる。注意するよ」


 そう、相手は魔王。皆が皆ウィンリーみたいじゃないのは知っている。如何に魔王の紹介でも警戒だけはしておくべきだな。



---



 擬似飛行魔術で浮き上がった所を、上空でホープに拾ってもらい空の旅を再開。


『このペースなら明日の明け方には到着するだろう。主殿は寝ておれ』


 それは有難い、お言葉に甘えようと思ったら琉架とウィンリーは既に寄り添って寝ている。超混ざりたい…… しかし有翼族(ウィンディア)のパパラッチが望遠レンズで狙っていたら困るので断念! パパラッチ死ね!!


 しかし第7魔王か…… 耳長族(エルフ)出身の女魔王…… 耳長族(エルフ)といえば美形揃い…… うん、絶対美人だ! オラワクワクすっぞ!

 ただ一つ、気がかりなのは引きこもりという事実。1000年単位の引きこもりはさぞかし運動不足だろう。

 如何に線の細い種族でも1000年もロクに動かず食っちゃ寝してれば自ずと贅肉は溜まっていくだろう。その結果生まれる者は即ち……


 ……デブである。


 別に魔王アーリィ=フォレストがデブでも俺は何一つ困らないのだが、何となくガッカリだ。アルテナに聞けば1200年前の容姿は分かるが、ここは一つお楽しみって事で希望を胸に眠りにつこう……


 どうか美人でありますように……


---

--

-


『起きよ、主殿。そろそろ見えてくるころだぞ? 小娘魔王たちも起きんか!』


 誰かに頬っぺたをツンツンされて目が覚める。

 目を開けると目の前にはアルテナ、今のツンツンはアルテナの全力パンチだったのか…… 萌えるじゃねーか、ポイント高いよアルテナさん。


『ほれ、見えてきたぞ』


 アルテナに促され外をのぞく……


 まだ薄暗い森の中に小さな都市が見える。

 その都市の大部分は森に飲み込まれているが、中心に聳え立つ朱色の塔は美しい姿を保っている。


『懐かしいな…… 全く変わっておらん……』


 そうか…… アレが古代エルフの廃都……


『アレが「キング・クリムゾン」だ』




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