第1話 小さな違和感
目が覚めると、まず天井の木目が目に入った。
前世の安物アパートの白い壁とは違う。
黒い梁が走る、古くて温かみのある天井だ。
「……ああ、こっちの世界か」
呟いても、返事はない。当然だ。
転生してから、もう十年以上が経っている。
最初の頃は毎日のように混乱していたが、今ではこの体も、この村の空気も、当たり前のように受け入れている。
俺の名前はレイン・オルティス。
辺境の村ミストウッドで、
そこそこ裕福な農家の次男として暮らしている。
窓の外から、鶏の声と、遠くで誰かが水を汲む音が聞こえた。
朝の村はいつも静かで、忙しいはずなのに、どこか緩やかだ。
布団から出て、顔を洗いに行く。
井戸の冷たい水が、眠気を少し飛ばしてくれた。
そのときだった。
ふと、胸の奥がざわついた。
何かが、ほんの少しだけ「傾いている」気がした。
手を止めて、周囲を見渡す。
特別なものは何もない。ただの朝の光景だ。
なのに、なぜか
「今日は少しだけ、いいことがありそうだ」と思った。
根拠はない。
ただ、感覚がそう告げている。
「気のせいか」
自分にそう言い聞かせて、家の中に戻る。
母がすでに台所に立っていて、朝食の準備をしていた。
「おはよう、レイン。今日は天気がいいみたいよ」
「ああ」
短い返事を返して、席に着く。
パンとスープ。いつもの朝だ。
ただ、パンを口に運んだ瞬間、なぜか「今日は焼きたてだ」と分かった。
母は特に何も言っていない。
なのに、確信があった。
小さな違和感。
それを、俺はまだ「運」だとは思っていなかった。




