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銀のドラゴン 外伝  作者: Aju
第2章 ガライ
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3 ー旅路ー


 殺し屋時代に稼いだ金は、すべて没収されていた。代わりに、出所時に当面の生活費の入ったカードと住むところをあてがわれた。

 生活保護申請の仕方も教えられたが、それはしなかった。

「自分で働いてみたいと思いますから。」

 何もかも『白』にお膳立てされて生きるのは、あまりにも自分が惨めに思えた。


 しかし、世間は甘くはない。

 『蛇』の使えなくなったガライに、就ける仕事はほとんど無かった。それでなくてもこのかおだ。


 ガライは前髪を伸ばしてケロイドを隠し(隠しきれないが)、いつもパーカーを着てフードを被っている。

 それがいよいよ怪しい雰囲気を作り出し、短期の日雇い仕事のようなものでさえ、よほどの人手不足がなければ弾かれた。


 そういうガライに対して、貧困ビジネスに手を出しているような連中が近づいてくることがあったが、それらに引っかかるほどガライは阿呆ではない。

 そういうダークな場所がどういう構造になっているかは、殺し屋時代に十分見てきているから、近づかないように慎重に避けていた。


 ガライは自分で人を殺したことがない。——熱湯をかけた母親以外は。

 常に『蛇』を使っていたから、暴力的なシーンで役に立つ「体術」というものを持っていなかった。

 だから、妖力を失った今、不用意に暴力が支配する世界に近づくことは危険だと分かっている。


 それでも欲深なヤツが、ガライを公共の福祉資金を吸い上げる道具にしようと、しつこく言い寄ってくる場合があった。

 そんな時、ガライは1つだけの目でそいつを見る。


 ただ見るだけだ。

 こいつ、殺してやろうか——。と、腹の中で考えながら・・・。


 長年の殺し屋稼業は、ガライの目の奥に底冷えするような殺気を作り上げた。

 それが、深海から巨大なサメが浮き上がってくるように、ガライの目の表面に浮かび出てくる。

 相手はそれだけで、臓腑が抜けるような恐怖を浮かべて後じさり、そのまま離れていった。

 それだけが、今のガライの「財産」だった——。


 自然、気味悪がられるから、余計に仕事の機会が減ってゆく。

(オレは、何をしているんだろう? 何がしたいんだろう・・・)

とガライは思う。

 答えは見つからなかった。


 もし今、妖力が戻ってまた『蛇』が使えるようになったら・・・・。 再び殺し屋稼業を始めるだろうか——?


 否———。


 あれは——、世界を変えられる、という希望があったからこそ続けられた。

 完全な敗北を喫した今、暴力世界に生きる連中の言いなりになって、人を殺して金を得る?

 そんな仕事がやりたいとは思えなかった。


 オレは、何がしたいんだろう?


 ふと、「シューコに会いたい」という言葉が、ガライの中に浮かんだ。

 ガライは無意識に、顔に苦笑いを浮かべた。

 あの出来すぎた「弟子」は、とっくに先に黄泉の国に旅立ってしまっているじゃないか。

 会うためには、自分も黄泉に行かねばならぬ——。しかし、自殺などしようとは思えない。

 ガライは死ぬのが怖かった。


 自分が死ぬのが怖いくせに、何十人も殺してきたんだな・・・オレは・・・。


 どうにもできない自嘲が、胃の腑から食道を通って口の中に上がってきて、その苦さを鼻腔にまで広げた。

 ガライは駅の階段の隅に座り込んで、両手で顔を覆った。


 本なんか読まなきゃよかった・・・。


 そしたら・・・・、いや、そうだろうか・・・?

 愚かしいままでいた方が良かったのか?

 愚かしいままだった方が、幸福だったか———?


 何がしたいのかが、わからない・・・。

 何を望んでいるのかが、わからない・・・・。


 シューコに会いたい・・・・。

 ・・・・・・

 あいつの、微表情をもう一度見たい・・・。


 あいつは・・・、オレにとって、本当にただの「弟子」だったのか——?



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