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銀のドラゴン 外伝  作者: Aju
第2章 ガライ
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2 ー旅路ー


 1ヶ月ほどすると『個室』の鍵が開けられ、施設内なら自由に出歩いていいようになった。

 そこには30人ほどの元『黒』が収容されていたようで、先に『個室』の鍵を開けられた者たちは、すでに顔見知りになって話し込んだりしているようだった。

 そういう中に、施設の職員も混じって談笑したりしている。

 もともと『黒』側の人間は、人付き合いが苦手なヤツが多い。施設の職員が中に入るのは、社会復帰のための「訓練」の意味もあるのかもしれなかった。


 そんな中でも、ガライは格別に独りだった。

 その風貌も影響しているだろう。元『黒』でさえ、いや、むしろそちらの方がガライを避ける傾向にあった。

 施設の職員は何くれと話しかけてはくるが、その微表情にはあからさまに「恐れ」と「気味悪さ」が現れていた。

 そんなことには、ガライは慣れっこである。


 時おり、ひそひそ話がガライの耳にも聞こえてきた。

「あれが、有名な隻眼か・・・。ハンター下条が探していたという・・・。」

「・・・よく生き残ってたな。」


 ガライを担当していたカウンセラーは、他にも7人を担当していたようで、それらの「受け持ち」に会うために、この頃には1週間に1度、施設を訪れていた。

 1時間ほどのグループセラピーの後、1人1人と話をするために3時間くらい施設に居てから帰ってゆく。

 カウンセラーは白石という名前で、どこかの大学の心理学の教授らしかった。


「白石センセイよ——。」

と、ある時ガライは自分から話しかけた。

「あんたは、オレの顔を怖がらないな。」

「職業がら、ですかね。」

「それだけかよ?」

 少し間を置いてから、ガライは続けた。

「オレは微表情が読める。——あんたの顔には『恐れ』も『気味悪さ』もない。」

「職業がらでしょう。私はいろんな人と会う。私も少しは読めるんですよ、——微表情。」


「オレは・・・」

とガライはまた別のことを言った。

「何十人も殺してきた殺し屋だぜ?」

 白石の微表情に変化が現れた。

「私だって他人ひとのことは言えません。私も『白の魔導士』として、あの戦いに参加していたんですよ。そこで・・・・」

 白石の顔が大きく曇った。

「たぶん、4〜5人は殺した・・・。その後の新村魔導師の治癒魔法があるので、本当に死んでしまったのが何人か——は、はっきりは分からないんですが・・・。」

「戦いなんだから・・・。仕方ないだろう?」

 だが、ガライのそんな言葉では、白石の微表情に現れた「後悔」が顔全体に広がるのを止めることはできなかった。


「まだ10代くらいの少年でした。闘志と殺意をみなぎらせた眼で、襲いかかってきました。・・・でも、私のつるぎが彼の武器をことごとく打ち砕いた時、その眼に現れたのは・・・「恐怖」と、・・・「哀願」でした。

その眼は、今、まさに剣を振り下ろそうとしている私に! 「救済」を求めてきたのです。——溺れかかった幼な子みたいに・・・。

止められたはずでした・・・。私は・・・剣を・・・・。」

 白石は、顔を覆った。

「夢に、見るんですよ・・・。」


 しばらくの沈黙があった。

「繊細なんだな、センセイ・・・。いや・・・、違うか・・・。オレは蛇を使うから、殺す相手の目をマトモに見たことがないだけだ——。

オレが卑怯なクソ野郎ってだけだ。センセイの方が真っ当なんだよ——。」

 そう言ってからガライは、口を歪めて自虐的な笑いを浮かべた。

「これじゃあ、アベコベだな——。センセイ。」


 白石はしばらく顔を手で覆ってうつむいていたが、やがて、ふうっ、と大きく息をついて顔を上げた。

「たしかに、アベコベですね。」と弱々しく笑う。

「ただ・・・、少しばかりの救いは、あの『ドラゴンの誓約』ですね・・・。」

「?」

「聞いてないんですか? あの『声』を——。」




 その後も少しずつ、ガライは白石が紹介してくれる本を読んだ。ガライは30を過ぎたこの歳まで、こんなに「勉強」したことはなかった。


 少しずつ、ガライの心の襞が細やかになっていくのが自分でもわかった。


 それは、喜びでもあり、苦しみでもあった。


 被害者であるより、加害者であることの方がどれほど辛いか———。

 歳月は、水滴が岩を穿つようにして、ガライにその真理を刻み込んでいった。




 ガライは結局、2年間その施設で更生教育を受けた。

 出所を控えたある日、白石先生は、ガライを自分の研究室の助手にならないかと誘ってくれた。

 ガライの風貌では就職口も容易に見つかるまい、と心配してのことだった。

「ウチならば、その外見自体が良い教材になりますよ。」

 白石先生は、歯に衣を着せぬことで、むしろガライに余計な気遣いをさせまいとしたようだった。

 ガライもそのことは分かっていたが、この申し出は丁寧に断った。

「オレは、人にモノを教えるような人間じゃないですから——。」



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