3.悪魔令嬢は、嫉妬する
読んでくださった方ありがとうございます
私は何もなかったかのように自習室へ戻った
扉を開ければ二人がまだ勉強をしている
「アザミーナ様お帰りなさい」
「遅かったな」
それだけ言うと二人ともまた教科書に目を落としている
ここにも居場所がないと私は先に自習室を出た
悲しみの気晴らしのために、薬を合成するための魔法陣の刺しゅうをすることにした
この前切られてしまった時から思っていたが、予備はいくつかあってもいいと思う
ただ、それ陣は秘伝なので失くすことはできない
「クローバのばか」
誰にということもなくこぼした言葉は、部屋の中にむなしく響く
返事をしてくれる人がいないいというものはなかなか心に来るものがある
今までは、バカなんて言えばベロニカが、はしたないと注意したと思う
黙々と刺繍をしているうちにいつの間にか日が暮れていた
「クローバのばか」
もう一回言ってみるが、もちろん誰も答えない
私は、眠りについたのだった
鮮やかな色の空間に女の子が二人、向き合って立っている
方や、太陽のように輝く金の髪
もう一方は、星のない夜のような黒髪
『あなたは、本当にクローバ様のことを愛しているのね』
顔の見えない相手に、刺しゅうをされたハンカチを渡す
『これは、でも』
悔しさを噛み殺しながら、自慢げに微笑む
『クロッカス家秘伝の魔法陣ですのよ。私には無理だけれど、あなたなら彼を救えるでしょう?』
私は嫉妬でねじ切れそうな心を抑え込む
『私は、あの人のことが好きだったの、愛していた。だから、あなたのことが憎くて、忌々しくて、大嫌いで、仕方なかった。だから早く、私があなたを毒殺してしまう前に…… 』
『アザミーナ様…… 私絶対に救って見せますから! 』
私は、駆けていく金色の背中を見送る
心の中は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた
『愛してくれているといった言葉が嘘でも嬉しかった。できれば、私があなたを救いたかった、でも、その役目は私のものじゃあ…… ないみたいね』
瞳を閉じた私は、目を覚ました
いつの間にか朝になっていたようだ
今まで見ていたものは夢だったらしい
それにしてもいやな夢、たぶん、ゲームの場面の一つだった
あの後、ネモフィラちゃんはクローバ様を救い、悪役令嬢とヒロインは和解する
ここが、ゲームの世界でないとわかったとはいえ、こういう夢を見ると嫌なものだ
昨日の光景を見た後ではなおさら
「クローバのばか。愛してるという言葉が嘘だったら嬉しくないわ。本当だとしても、ほかの女にも言ってる量産できる言葉だったらもっと嬉しくない」
言葉に出すと、すんなりと胸の中に落ちた
私は、ナーシサスに嫉妬していたのだ
自分からじゃ抱き着けないから、うらやましく思った
そしてその羨ましさは、彼への執着から
このままでは、彼を縛ることとなる
この心から、離れなければ、自立しなければならない
「本当に、思い込みが激しい性格だわ。第一、ナーシサスは従妹なんだから振り払えるわけがないじゃない。私だってローレルに抱き着かれても振り払わないわ」
自分の気持ちに向き合ったら冷静になることができた
もう一回、聞きに行こうと部屋の扉を開ける
不思議ともやもやした気持ちは吹き飛んでいた
明日は午前8時に次話投稿します




