間話 イチイとローレルの勉強会
読んでくださった方ありがとうございます
ローレルとイチイの話
「イチイ、今日も勉強見て」
イチイは駆け寄ってきた小さなローレルを見下ろした
腕にはその顔よりも大きな本を抱えており、表紙には豪華な刺繍がしてある
「分かった。おいで」
植物園の中のテーブルに本を置いて椅子進めるとローレルはすぐに座って目をキラキラさせて見てくる
アザミーナに教えたときもこのように目を輝かせていたものだ
彼女は今貴族の誰もが通う学園に入学してしまい、薬草園はいつもより静かだ
「イチイ、どうしたの?」
「何でもないぞ」
「姉さまのこと考えてたの」
じっと見上げてくるローレルにイチイは頭を掻いた
見透かされるというのは少しばかり恥ずかしい
そう思ったがどうやら違ったらしく、ローレルが考えたことを言ったらしい
「姉さまお友達と遊んでいるところ見なかったけどだいじょうぶかな」
アザミーナは、昔誘拐されたことがある
本人はもう忘れているかもしれないが、周りの子供たちは死亡していたが彼女だけは生き残っていた
イチイが見つけ出した時、彼女は倒れ伏した子供たちの中でたった一人立っていた
あの恐怖と悲しさは思い出したくないものだ
あと少し遅ければ、アザミーナもその子供の一人になっていたかもしれない
それからというもの、クロッカス夫妻は表には出さないが、かなり過保護になった
アザミーナに対してだけでなく、ローレルにもだ
そんな両親の心がわかるのか二人ともわがままを言わない子供である
「アザミーナ様なら、大丈夫だ」
「どうして?僕心配なんだ、こうしている間にも姉さま苦しんでいるんじゃないかって」
「優しいからだ。自分を復讐の対象にしようとしている人間でさえ、見捨てきれずに救おうとしてしまう。救えると思っている傲慢な人だからな」
ローレルはきょとんとした顔をして若葉色の目を瞬かせた
「僕、姉さまを守れる立派なとうしゅになる」
「それは楽しみだ。アザミーナ様もきっと喜ぶ」
イチイのほうを見て少し微笑むと、また真剣に本へと向かい合った
まだ、しゃべり方は拙く幼いがその姿は次期当主と呼ばれるにふさわしいだろう
「ローレルさま、お菓子でございます。休憩の間に食べてください」
「ありがとうベロニカ」
「いえ、お嬢様のお好きであった木苺のパイですよ」
ふんわりと甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる
アザミーナは口いっぱいほおばってイチイは汚れた口を拭ってやった
ローレルは上品に食べているものの少しこぼしている
とってやれば少し不満そうな顔をする
幼子なりの子ども扱いしないででほしいという意思表示だろう
小さな主と植物園の管理者の一日はこうして過ぎていくのだった
ありがとうございました
切りがいいのでこれで二章終わりにします
次から第三章入ります




