第32項 From To Friend
「面倒だわ。私、こういう仕事得意じゃないのよね……」
「なに言ってるっスか。話し合って決めたことっスよ? 今更やりたくないとかずるいっスよ~」
書類の山を前に頬杖をついてため息を吐くリリィ。書斎机にさらに、紙の山を積むキャミィ。
「と、いっても次の領主が着任するまでの代理だけどもね。その人に丸投げしちゃおうかしら」
「いつ決まるか分からないのに?」
リリィはむぅ、と不機嫌そうな顔をしてから山の頂上を一枚取って目を通し始める。
アーデルが亡くなり、地を治める人がいなくなったため、リリィが領主代理として一連の公務をこなすことになったのだ。
まだ、被害は終息してはいないが、海流も戻り海運を再開することができた。
商人ギルド蒼天の帆――ミーナの注力も大きい。
錯乱の呪符で多くの犠牲を払ったものの、なんとか住民たちも復興に向けて尽力している。
「さっさと終わらせて酒場に戻るっスよ。今日はアレの日なんスから」
「そうね。さっさと終わらせてそっちの準備もしなきゃね。はぁ、猫の手も借りたいわ――ね?」
今まで見たこともないいい顔でキャミィを見つめる。
「うわぁ、地雷踏んだっス……」
蛇に睨まれた猫。キャミィは言わなきゃよかった。なんて思いながらリリィとともに書類を処理し始めた。
「ゼクスさん、飲みすぎじゃないですかぁ?」
バーカウンターに突っ伏して眠りこけているゼクスに声をかけるルフィナ。飲み散らかしたボトルやつまみがあたりに散乱している。事件が終息してから毎日のようにこのザマ。
「お父さん、どうする?」
隣でグラスを拭いてる父デギンズに声をかける。
「ん? ああ、大丈夫だ。援軍を読んである心配すんな」
片眉を上げると、淡々とそう答える。問題などさぞ元からなかったように。
頭にハテナを浮かべるとデギンズが言っていた事がすぐにわかることになる。
バンッ、と乱暴に開けられた扉。
「ゼクスッ!!」
甲高い声とともに乱入してきたアイリ。白銀の髪を揺らしながらドスドスと気持ちよさそうに眠りふけっているゼクスの顔を見る――と、額に血管が浮き上がる。
「デギンズさん、椅子、ちょっと乱暴にするわよ?」
「いいですよ。ああ、ボトルが割れないようにしていただければ」
「分かったわ」
と、デギンズの了承を取ると同時にゼクスが座っているラウンドチェアの根元を思いっきり蹴り抜く。
支えを失ったゼクスの身体は一瞬宙に浮き、尻から崩れ落ちる。
「イッテェェッ!!」
床に激しく後頭部を打ち付け、悶絶。頭を両手で抱えて転げまわる。
「おはよう、ゼクス。気持ちいお目覚めでしょ?」
腰に手を当てて仁王立ち。汚物を見るような目で見下していた。
「ゲッ、アイリなんでここに!?」
「なんでもどうしてもないわよ。連日入り浸ってるって聞いて飛んできたのよ、この、ドべ」
ゼクスの耳を馬鹿力で引っ張りながら宿屋の外に放り投げる。
「ったく、乱暴だな」
倒れているゼクスに紙切れを見せる。
書かれているのは――リスト?
「これが回収するリスト。人手が足りないんだから、手伝いなさい」
ほぼ領主の仕事で出ずっぱりになっているリリィに代わり、アイリが酒場を仕切っていた。
「ほら、馬鹿弟子仕事なさい」
「へいへい、」
と頭をかきむしりながら立ち上がりアイリの後をついていく。
鍛冶屋、道具屋、ギルド等を周り注文していたらしい品を回収し、ゼクスが荷物持ちとなる。
一通り、回収し終えると酒場に戻る。
「あれ、空いてる。閉めて来たはずなんだけど」
ドアを開けると、カウンターにリリィとバルガス。キャミィが給仕の格好をして待っていた。
「あれ、早かったね。お仕事終わったの?」
「ん? ええ、今日はもうおしまいよ。それよりもこっちが大切だからね」
リリィが腕を組み、カウンター越しでいつものとおり振舞ってみせた。
「おう、そこの呑んだくれも久しぶりだな」
バルガスがカウンターですでに酒を飲み始めていた。
「ああ? お前、人のこと言えんのかよ」
悪態をつきながら隣に座るゼクス。
「あんたみたいに仕事もろくにしないで遊んでるわけじゃないわよ。私の仕事を手伝ってもらってるのよ」
ゼクスは「へぇ」と短く返した。
スラムの子供を養うために手伝っているのだろうが、アイリはそれを知っていてバルガスを誘ったのが想像に固くない。
「リリィさん、俺にもなんかくれ」
「はぁ? あんたまだ飲むつもり?」
「いいじゃねえか。仕事したんだしよぉ」
ゼクスがぶつくさと言い始めると、ドアベルが鳴る。
ミーナとラルフの二人が何やら話し合いながら入って来た。
「おう、了解。じゃあ、倉庫に送っとくぜ」
と、ラルフがミーナの支持をメモしている。
ラルフも今回の事件で被害を被ったのだが、統括を担っていてロクスティがいなくなったことで、その仕事の一部を任されたのだ。
「ゼクス、また呑んだくれてるみたいね。こっちの耳に入ってきてるわよ。ギルド連盟で今アンタの話題が尽きないわ――」
「お、まじか。どんな噂だ? ディネールを救った英雄とかか?」
「アホみたいに酒むろくでなし元騎士だって」
「そうだぜ。お前みたいのが騎士の名を落としてんだ。自覚しろ」
と、後ろから巨体を揺らしてスアドが入ってくる。さらに後ろには騎士団の連中がゾロゾロ、と。
「役者は揃ったみたいね」
リリィが満足げにそうつぶやくと、それぞれテーブルにつき始める。
アイリが回収してきた品を開けると――武具や薬といったものではなく、酒、食料、嗜好品などの品々だった。
「えっ、これって……」
一人おいてけぼりにゼクスが傍観する。
「安定してきたから、みんなで祝おうって話。あんたほどんど来てないから知らないのも当然よね。まったく」
アイリが呆れながらにも、ゼクスにタバコを渡す。
「あんた、最近吸ってなかったでしょ。ほら」
「お、おう……」
紙巻きたばこを一本取り出し、火をつける。
しばらく吸ってなかったから、肺が拒絶反応を起こす。
「やめ時かな……」
「そうね。体に良くないからね」
ハハッ、と笑ってみせる。
「じゃあ、早速始めましょう――」
リリィの音頭とともに、盃を掲げた一同。
誰もいなくなったディネール城。
庭園の片隅に小さな墓石が置かれていた。
誰の目にも止まることがない、でも、そこからの眺めは街を一望できるその場所に。
――街を愛した男、ここに眠る。
とだけ刻まれた。小さな墓石が。
このお話で、一度ゼクスの物語は一旦、終わりです。
今まで読んでくださった方ありがとうございました。
この場をお借りしてお礼を言わせていただきます。
さて、先ほど『一旦』と申し上げたのには理由があります。
今回のディネールでの騒動は『一部』とさせていただきます。
そうです、二部を作成しています。
2019/1を目処に再スタートを切れれば、と思っています。
そしてこのお話も、少しずつ改正・改変していきます。
それでは半年以上、ご購読してくださった方、そして一話でも読んでくださったあなたに感謝の言葉を
ありがとうございました!!
次回までお楽しみにノシ




