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第28項 ゼロ

 意気揚々と正門を開け領主邸に入っていくゼクス。

「それで、これはどういうこと?」

 やる気に満ちたゼクスに水を差すように、二人の間の影に視線を落とす。

 かっこよく決まったことに気をよくしていたからかアイリが声をかけるまで気がつかなかった。

 「うぉっ!?」とギャグのような飛び跳ね方をしたゼクスの元にサラがジト目で見上げていた。

「いつから……?」

 どうやらずっと後ろについていたらしい。

「えっと……行きたいのか?」

 恐る恐る聞いてみる。サラへの接し方がイマイチ分からないゼクス。反応を確かめながら徐々に距離を詰める作戦だ。

「まだ子供よ? 危険だわ」

「勝手に殺されるのは許さない。ゼクスを殺すのは私」

 淡々とそう言葉を紡ぎだした。

「おし、じゃあ決まりだ。約束通り守られろよ?」

 サラはぷい、とそっぽを向きながら「言われなくれも」と言い捨てた。

 二人の奇妙な会話を傍から見ていたアイリ。

「いきさつはよくわからないけど、変に好かれてるみたいね……?」

 軽蔑するような目でゼクスをみつめる。心なしか若干引いているようにも、うん、絶対にひいてる。

「お前が何を思ってるかしらんが、多分それは誤解だ」

「いえ、別にそういったプレイが好きなんだろうなー、とか、少女趣味なんだろうなー、気を付けないとなー、とか思ってないわよ?」

「なんだよそれ」

 と、これ以上変な誤解を招かぬようにサラとシエラの過去と、ゼクスが彼女を引き取ったいきさつを簡単にだが説明した。

 アイリは「へぇ、この子が……」と珍しそうにサラを改めて見つめ直した。

「お母さんを殺した元凶の結末を見届ける権利は私にはある。本当なら私が殺したいんだけど、今はゼクスに守られなくちゃだから仕方なく、一緒についていくことにしてあげる」

 

「でも、サラ戦えるの? 結構激しい戦闘になると思うよ」

 アイリの発言にムッと顔を歪める。サラは龍石を手にすると、背中から翼が生え腰からも尻尾が現れる。まだ小さいが頭から角が2本生えてもいた。

 母親譲りの灰の髪とあどけない顔つきからでも、まだ幼い容姿だが将来を希望できる姿だった。

「お姉ちゃん。試してもいいんだよ?」

 ニヤリ、と犬歯をむき出しにして好戦的に笑みを浮かべた。

 確かに、魔力も普通の人の倍はある。運動能力も高そうだ。現にそこらへんの傭兵だったら瞬殺してしまうほどの戦闘力は持っている。

 アイリは現保護者であるゼクスに視線を送るのだがドヤァ、と腹が立つほどの自慢顔。

 そしてリリィによく似たため息を吐き捨てる。

「仕方ない……ただし、無茶はしないこと――――それと、」

 中腰になって、ずい。サラと目線をあわせて顔を近づけて付け加える。

「この男をころすのは構わないけど、ヤる前には教えてね。私も恨みはあるから」

 流し目で見つめられるゼクス。瞬間背筋がゾクッ、とするほどの冷たい何かが流れる。

 さっき殴られたことを未だ根に持っていたアイリ。この恨みはいつ晴れるのだろうか。

(あー、俺って、恨み買いやすい体質なんかな……?)

 ゼクスは苦笑いで後頭部を掻いた。

 

 アイリの先導で地下にある海流操作装置の元に向かう三人。

「この先を抜けて左に階段がある――まって誰かいる」

 後方を警戒していたゼクスも足を止める。

 開けた通路の真ん中に一人――ヌルが立っていた。

「ヌル! どうしてここに!?」

 瞬時にクロイツランツェを取り出して戦闘態勢に移る。

「あいつがさっき言った嗤う闇の一人、ヌルよ。警戒して」

 ゼクスにも戦闘態勢を促した。

「アーデルとの契約は破棄された」

 始めて聞くヌルの声。淡々と吐き出された声は中性的ではあるが声質から見て女だろう。

「我らを甘く見すぎていた。よってこれより我ら嗤う闇は本件から手を引く。よってキサマらと刃を交えることはない」

「それが本当だと、どうやって証明するつもり?」

 フードの下からフッと嗤う。

「特に照明などしない。ただ、事実を述べただけだ」

 二人のやりとりを黙ってうしろから見ていたゼクス。

 内心思っていた事が溢れ出てきた。

「記憶で見た時から、コイツは俺と似ている、と思ってしまったんだ……理由は分からない。俺の中の何かがそう感じてしまったんだ」

 突如、ゼクスの口が勝手に動いたとしか思えないように、そう口走ってしまう。

 ゼクス地震も自分で何を言っているのかわからないように。

「それが本当なら、これからまた、何度か相まみえるだろう。寝首を掻かれぬことだな」

「……お前は一体……」

「もしかしたら、すでに会っているのかもしれない。初対面かもしれない。私はヌル、存在などありはしない。ただここにいるだけ」

 ヌルは静かに言葉を紡ぐ。刹那、姿が陽炎のように消え去った。

 瞬きをした一瞬で、その姿は跡形もなく消え去ってしまったのだ。


「なんだったの……いまのは」

 アイリは額に汗を浮かべながら未だ緊張が解け切らない声色。

「ひとつだけ言えるのは、あいつは何もしなかった。ということだけだ。あいつが未だ敵対してるのなら、この先の装置は壊されたくないからな。でも、それをしなかったということはあながち嘘は言ってなかっただろ」

「そうね……先を急ぎましょ」






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