最高(最低)の始まり……
青い光に包まれ目の前には異世界が広がって……いない!?
扉……?
目の前には扉があった。
おそらくこの扉の先が異世界だ!
きっとこれから仲間と共に冒険が始まるんだ!!
意を決してその扉を開けると、何人かの女性がこちらを凝視している。
すると、蝉の鳴き声のように共鳴してーー。
「「「きゃーーーー!!」」」
辺りを見回すと同じ扉が五個並んでいるということは……。
「アーシェ早く逃げるぞ!」
あれ? いない……。
おいおい、待てよあいつ他人と紛れてまるで『自分は関係ありませんっ!』ていう顔してやがる!
あとで痛い目に合わせてやる!!
しかし今はとにかく逃げるしかない!
視界には中世のヨーロッパ風の世界が広がっているが、ゆっくり見ている時間がない。
「待ちやがれ! そこのぼうず!」
警察のお出ましか!?
「いてっ……!」
転送された時に靴を履いていなかったために裸足のままだ。
しかし、体育でそこそこの成績の俺が六十代の警官に捕まる訳がないだろうーー。
「だーかーらー! 召喚された先がトイレだったんだってば これは冤罪だ!」
「そんな言葉で警察を騙せると思うなよ! それに貴様が女子トイレに入っていたのは事実ではないか!」
「だから! 魔法陣の上に立って気付いたら女子トイレの中だったんだって!」
「裁判では自分のしたことを白状することだな、さもなくばさらに長くここにいることになるだろう」
「おい待てよ! 話しはまだ終わってねぇよ!」
あろうことか俺はあの後捕まってしまった。
まさか、滑って転んで捕まったなんて誰にも言えない……。
鉄格子の中に足枷をつけられてしまっては逃げようにも逃げられない、おまけに窓も高すぎて手が届かない。
石の床が冷たいーー。
いったい誰のせいでこんな辛い思いしなきゃならないんだよ!?
ーーところでアーシェはどこ行ったんだーー?
ふと気づいた……。
どうせ、助けには来ないだろう、あいつは俺を見捨てたんだきっとーー。
「ここから出ろ!」
鎧の騎士からそう告げている。
「ここから出ると言うことは罪が晴れたと言うわけか?」
「勘違いするなデウス様がお前を呼びだ、分かったならさっさとそこから出ろ!」
デウス? 誰だそれ神様みたいな名前だ。
まぁ、ここから出られるのならなんでもいい。
目の前にはいかにも王様だと言わんばかりに髭を生やした五十代くらいの男が椅子に座ってる。
おそらくこの男がデウスだろう。
そこにはなぜかアーシェの姿もーー。
「おいアーシェどういうことだ?」
「説明してくれよ!」
「ちょっと静かにしてて!」
「……お父様……、私……、桐風哲也さんとお付き合いしてるの、だからアレス様とは結婚できないわ!」
「「……え……?」」
何言ってやがるんだこいつ……。
おそらく俺は目の前で驚いているデウスと同じ表情だろう。
「アレスと結婚しないだと!? アーシェ、お前が結婚しなければこの先どうなるか予想がつくだろ! 分かっていながら言っているのであれば今すぐそこの男と共に出て行け!」
「分かったわよ! 出て行ってやりますとも! 誰があいつと結婚なんてしてやるものですか!」
ーー城の正門前にてーー
「ああああああああああ……ああああああああああ!! てつやああああああああああ!! ぐすっ……、ぐすっ……、私……、私……、日本でムサシと出会ってからムサシがいないと寝られないの……、ぐすっぐすっ……」
「他に心配することがあるだろ! それに聞きたいことが山ほどある! それにムサシって誰だ? お前そんなやつといつも寝てたのか!?」
おそらく何かの間違いだと思うのだがーー。
「そうよ悪い? 今から部屋に取りに戻ってくるわ」
「あああああああああああ……ああああああああああ!! てつやーーどうしようお家に入れてもらえない、わああああああ」
お家と言っても城なのだがーー。
「メイドに取りに行ってもらえばいいだろう」
「その手があったわ!」
アーシェはポンと手を叩くと門番にメイドを呼ぶよう交渉している。
「私にはどうしてもムサシが必要なの! だからお願いメイドを呼んでちょうだい」
「いくらアーシェ様と言えどもそれはできません!」
「どうしてよ!」
「デウス様より『手を貸すな!』とのご命令がありましたので」
「門番のくせに何様のつもりよ! あなたいつも一時間早く業務を終わらせているらしいじゃない、それに、この前、門番の事務所をあさっていたら机の引き出しの一番奥の方に……」
門番の顔色がだんだんと悪くなっている、だが俺は何もしてやれない。
門番が慌てて口を挟んだ。
「それ以上はどうかお許しを! 呼びます! メイドを呼びますから!」
ここで働いていたら俺はどうなっていたことやら、間違いなくアーシェの尻に敷かれていただろう……。
ーーこれからそう、な、り……ダメだダメだこれ以上は考えないようにしよう。
「アーシェ様あいにくあなたには『手を貸すな!』とデウス様よりご命令をたまわっておりますのでお力になれることはございません! どうかお引き取りを!」
「私の部屋からムサシを連れて来てくれるだけでいいから! ね、それだけ……いいでしょ?」
「いったいいつまでぬいぐるみとお休みになられるおつもりですか? これを機にぬいぐるみ離れされると良いでしょう、これはあなたのためを思って言っているのですよ!」
「……そんな! 人でなし!」
やはり俺の勘違いだったらしい、ムサシとはいつも一緒に寝ているぬいぐるみだそうだ、それにしても紛らわしい、ぬいぐるみに剣豪にでもなってほしいのだろうか?
「ぬいぐるみくらいまた買えばいいだろう?」
「ダメよ! ぬいぐるみのたちのあの肌触り、あの匂い、あの柔らかさ、あの抱き心地、あの……」
「分かった、分かったから……でも、この際ぬいぐるみ離れすればいいじゃないか?」
「嫌だった言ってるでしょ! あんたの耳は節穴なの!?」
節穴は目だろ!
「だいたい、お前この世界に来たときぬいぐるみなんて持っていなかったじゃないか!?」
「荷物なんて使いの男二人から逃げやすいように日本から全部私の部屋に送ったわよ! そんなことより早くしないと私の必殺技『泣きじゃくる』を使うわよ!」
ーーついにメイドは折れてしまったーー。
もう少しメイドにはがんばってほしいところではあったが人通りの多い城の真ん前で『泣きじゃくる』を使われてしまっては周りからの視線を一点に集めてしまうだろう、それを予想してかメイドは。
「……はぁ、かしこまりました。どのようなぬいぐるみでしょうか?」
「茶色のくまちゃんよ!」
ーー数分後ぬいぐるみがメイドに抱き抱えられて来たーー。
「これで今晩もぐっすりね!」
「ところで今晩どこで寝るんだ?」
「「……あっ……」」




