第二部 五話 交渉
少ないです
くだらねぇ、
俺は居並ぶ魔人たちを見渡して小さくつぶやいた
友好の為にと半ば無理やり連れてこられたが、やつらの態度はお世辞にも友好的とは言いづらかった
特にアグルとか言う魔人は此方を親の仇の様に睨んでいる、俺は付き合いきれなくなった
「接待が威嚇だけなら帰らせてもらうぜ、生憎暇じゃないもんで」
そう言うと、一番高いところに居たラウル侯爵が慌てて言ってきた
「待ってくれ!部下の非礼は詫びる、どうか私の話を聞いてくれないか?」
「・・・話って?」
「・・・うむ、それは人族と魔族との友好関係を築く為の第一歩なのだ、故に先ほどの部下の態度は有っては成らぬ物だった、黒井殿、本当にすまない」
・・・どうやら魔族全体はともかくラウル侯爵は人族との共存を望んでいるらしい、・・・だが、その話をなぜ俺に?
「ラウル侯爵、あんたが友好を望んでいるのはわかった、だが、なぜ此処に俺を呼んだ?俺は一介の剣士にすぎないぜ」
・・・苦虫を噛み潰したような顔をラウルがする、少し嫌味が過ぎたか?だが、俺は几帳面なので解らない事は解るまで追求したくなるのだった(零は几帳面ではありません)
「・・・まず、武力が必要だった、ほかの反対派を認めさせる為に、次に組織に染まっていない事が好ましかった、思想が固まっていなければ我らとの交渉の場に立ってくれるのではないかと思ったのだ、最後に、個人であれば、高望みかもしれないが魔族と人族との間の緩衝材になってくれるのではと・・・」
・・・成る程・・・だが気になるな
「俺がステラ姫と交流を持っていることは?」
「無論、存じておる」
嫌な流れになってきた、厄介事の匂いがプンプンする、もしかしてだが・・・
「ラウルさんよ、俺に口利いて欲しい訳?」
「その通りだ黒井殿、頼めるか?」
「嫌だ」
「そうか、ありが・・・ッえ!ダッ駄目か?」
「すごくすごく嫌」
「そ、それはまたどうして」
「くっそメンドイ、ステラの父に借り作りたくない」
俺がそう言うとラウルは渋い顔をして暫く考え込むのだった
ラウル 視点
かなり嫌そうな顔をした黒井殿を見て私はまず我々と友好を築くことで得られるメリットを話そうと思った
だが、その前に黒井殿が馬鹿にした顔で言ってきた
「あんたらと仲良くなって何がどうなる?金銀財宝思いのままか?くだらねぇ」
黒井殿の言葉を聞き、私は焦って最悪の一手を打ってしまった
「で、では、人と魔との戦争を止めた「英雄」にしてやろう」
その言葉を言ったとたん、空気が凍りついた、何が気に障った?、黒井殿は此方を肉食獣の様な目つきで睨んできている、怖すぎる、
「・・・いま、なんて言ったんだい?、なんか、「英雄」って言葉が聞こえたが・・・」
「ッそ、そうとも汝を音に聞こえし大英雄に・・・」
最後まで言えなかった、一瞬で黒井殿が目の前に来た、ああ殺されるな、そう思った瞬間意識が黒く塗りつぶされた
ラウル 視点終了
俺はラウルを気絶させ、魔法で帰る事にした、殺さなかったのは情けからではなく、ただ単純に面倒なことになりそうだったからだ
慌てる側近たちに床に転移陣を描かせ、転移魔法を発動させる(クロウが居たため零は一切魔法を習得していない)やれやれ、やっと帰れるのか
私立グランド学園
眩い燐光が立ち込め俺は帰ってきた、と、俺を送り出した張本人であるリノアが驚いた顔をして此方を見ていた
「・・・魔族の歓待はお気に召しませんでしたか?、少なくとも二、三日は向こうに行っているかと思いましたが・・・」
俺はその問いに答えず、ただリノアを睨み付けた、彼女は冷や汗を流しながら言い訳する
リノア 視点
黒井先生の態度から見るに、あちらで馬鹿な魔族に文句でも言われたのだろう、かなり激怒していた、まあ、それを狙って侯爵には情報を与えなかったのだけれど、私としては、黒井先生が魔族と仲良くなるのは構わないけれど、侯爵個人と仲良くなるのは困るのよね、魔王様と直接交流を持ってもらいたい、でも、何も伝えずただ優れた剣士と言ったのは、やりすぎだったみたい
「あれを歓待というなら、魔族との戦争は継続せざる負えないだろうよ、少なくとも俺は戦う事に今日決めたよ」
「!お待ち下さい、我々にも派閥や事情があり今回の事は・・・・」
「それが俺に何の関係がある?」
「・・・そ、それは・・・」
悔しくて歯を噛み締める、自分で撒いた種とはいえ、かなり慌てる、だが私には魔族であるというプライドが有った、このままでは返せない、私の手が剣へと伸びる、と、その瞬間、胃の中身が逆流するかのような緊張感に包まれた、あの目は・・・何だ?
自分を憎み、相手も憎み、この世全てを怨み、呪っているかの様な、破滅的な瞳、・・・とても私なんかが敵う相手じゃない、彼相手に策略なんてやめておけば良かった
「その手の向かう先には注意したほうがいい、行き先次第では、首と体がはなればなれになるぜ」
そう言った後、私に後ろを向けて黒井先生は去っていってしまった、結局彼が魔族領にいたのは一時間程度だろう、私は完全に失敗した、せめてもの救いは、彼は「私」を嫌っているだけであり、魔王様のことは何とも思っていないことか、せめて好意的な印象は与えられないかしら・・・
リノア 視点終了
俺はグランド学園の訓練場を目指して歩いていた、そこでは多くの学生が強くなるために訓練していた、だが、そのやり方は明らかに間違っていた、武蔵流を修めた自分としては散財する様で気が引けるが、教師を引き受けた以上正しく導いてやらないといけない、非ッ常に面倒だが
「おい、お前ら集まれ・・・良いか、丸太相手に剣を打ち込む練習してるようだが、全員剣の持ち方が違う一度しか言わないからよく聞け、まず利き手を・・・」
結論から言って、彼らは良い生徒だった、同じ年代の俺の忠告をよく聞き、そして、もともとのレベルが高かったのだろう、乾いた布が水を吸収するかの様に、技術を習得していった、俺は教師というものに密かな手ごたえを感じていた




