変奏曲
演奏を終えた僕らは、楽屋、なんて洒落たもののある
市民文化センターを有り難く思いながら(笑、普通は廊下か表。
学生バンドは人数多いんだもの)。
やり遂げた、と言う気持で。
「やったねぇ」
「ビール飲みたい」
「お前何歳だ(笑)」
などなど、賑やかにステージを降りて
袖から、裏手にある楽屋へ。
なにより、中山が嬉しそうにしていたので
それだけでも良かったな、と僕は思う。
しんちゃんも、暫くはこれで恋のお悩みを
忘れられただろう。
たかたか先生が、立っていた。
でも...怖い顔じゃない。
「うん、よく頑張ったな。やる気の無い演奏より
余程良い。編曲は中山か?」
中山は「はい。」と、神妙な表情。
「うむ。中山はそちらに進む事もいいな。」と
たかたか先生。
(後、高校に入ってからも
中山の芸大受験の為のコーチを紹介したり、と
中学教師の枠を超えた、親切なたかたか先生だった。
その頃は多かったので、あまり記憶には残っていなかったが。
火事で家が焼けた生徒の、家業再建に尽力したり、
家業が倒産して、困っている生徒の進学資金や
学業に助力したり。それが普通だったし
だから、僕らはそういう人たちと一緒に居たい、と思った。)
「事前に言えば、オリジナルアレンジとして届ければ良かったのだが。」と
たかたか先生は言った。
クラシックなので、提出されている譜面と違う演奏は
減点になるらしい(笑)
そんなことまで考えなかったし、中山が
ただ、やりたいだけ、でここまで来ちゃった(笑)。
コンクールなんてどうでも良かったのだ。
たかたか先生の背後から、学年主任の杉山先生。
怖い顔。(笑)。
それは、予想していたが。
「無許可はいかん。」(と、言っても、この杉山先生が火事の生徒の
面倒を見た、その人。商工会に行ったりして。本当はいい人なんだろうが
地方公務員だから、自分の給料に関わるらしい。無許可は。それは仕方ない)。
「すみません」と、中山は素直に謝る。
賢い男だから、反抗したりはしない。
たかたか先生は「まあ、いいでしょう。これは音楽の課外授業みたいなものです。
編曲を自ら勉強するのは立派な姿勢です。」と。
音楽家らしい理解を示した。
「それでは、結果を発表します.....。」アナウンサーの声だが
僕らは客席で、それを見ていたけれど
元々、賞なんてどうでも良いと思っていたからあんまり興味ない。
「帰ろうか」「そだね」「どうせダメさ」
席を立って、通路を歩いている僕らの背後に発表が続く。
「金賞、吉崎学園中学。
銀賞、第五中学校。
銅賞、金森中学校。
....なお、今回は特別審査員賞として
大岡山中学校。
個性豊かな楽曲と演奏で、審査員の支持を受けました。」
僕は、振り返って驚いた。「なんだ、それ?」(笑)。
中山に聞く。「どうなるの?僕ら」
中山は「わからないけど....まあ、失格にはならないらしいね。」
授賞しちゃったので、席に戻る(笑)。
ステージで賞状を貰ってきた中山は、僕らに
「ありがとう、みんな。僕のわがままのせいで。」
しんちゃんは「でも、失格じゃないもの。」
初美ちゃんは「この後はどうなるの?」
中山は神妙な顔で「それがさ、特別枠で本選行きなんだって。
賞は無いんだけどね。」
それってなんで?と、朋ちゃん。
中山は「うーん。どうもあのアレンジを聞いてみたいって
話らしい。よくわかんないけどね。」
中山はとにかく、みんなを驚かせたいだけだったから
それはいい話。だろう。
「新世界から、変奏って事になるんだ。それと、もう一つ
演奏できるらしい。」
しんちゃんは「それじゃ、夏の日の恋’76!」と言って
「いやいや、summer place '76」と、言い直した。
みんな、笑った。




