楽器を吹くのは気持ちいい
それでも僕は、時々
ブラスバンドの方に出たりして。
大岡山中学は、と言うか
この県は、部活とクラブ、ってふたつ入れて。
ひとつでも良かった。
僕は、科学部なので
文化祭の時だけ働くみたいな存在だったから
ブラスバンドに出ても全然問題無かった。
でも、吹く楽器は息を吐くから
大声出す、みたいで
ギターと違う気持ち良さがあったり。
朋ちゃんもそうだったのかな。
どうか知らないけど、なんとなく
おとなしい子で、ふわふわしてて。
はしゃぐ事なかったから
僕と似ている感じだったのかも。
クラリネットは、金管みたいな
発散する感じに見えないけど
結構息を使うから、吹くだけで
運動になる。
それで、ストレス解消にはなるかもしれない。
なーんとなく悩み多い年頃なら、そういうのもいい。
僕も、まあ兄貴がいるし
父もいるから
それなりにストレスはあったりする(笑)
そういう時、ユーホは良かった。
低音が体に響くし、大きな声で
叫んでいるようなキモチ良さもあった。
「クラリネットって発散できる?トランペットみたいに」
僕は、ブラスバンドのリードトランペット、外田の事をイメージして言った。
ニキビ面で、ジャガ芋みたいな顔だけど
トランペットを持たせるとカッコイイ。
めいなーどふぁーがそんみたいな
高音で、例えば「ハレルヤ」のリードを吹くのだ。
大岡山中学では、歴年卒業式で
仰げば尊し、ではなく
ハレルヤ、を歌う。
それは、自由な感じで
公立中学としては珍しい、と
今では思うけど
理科の片岡先生が、天皇陛下の俳句仲間、なんて言うあたりで
民主主義、だったのかもしれない。
朋ちゃんはにっこり「それなりに発散するかなー。」と、曖昧に答える。
ふにゃふにゃした感じで、可愛らしい。
「唇荒れるでしょ」と、僕が言うと
「そーでもない。ユーホーは?」と。
「うん。マウスピースが金属だし、ずっと吹いてると唇が痛いね。木管の方がリードが当たるからしびれるかと思ったけど」と
朋ちゃんの唇を見ると、あまり赤くなってない。
「サックスは吹いた事あるけど、あれでも
リードが当たって痛くなるもんね」と僕は言うと
朋ちゃんは「へーき。ほら」と
僕に唇を見せた。突き出して。
放課後の教室だけど、僕らは
友達だし、なーんとなく僕も中性(笑)と
思われてるから
女の子みたいに扱われる。
けど、物陰からこれを見ている人が
誤解する事はよくある。
イチャイチャしてるとか、ふしだらだとか。
そんな事もなくて、仲良しグループのみんなも
こんな感じ。
たけちゃんも、男の子だけど
中性っぽいし
しんちゃんもそう。
もしかして、発育が遅いのかも(笑)
小学生の頃と同じ感じでいたから。
なので、唇を突き出されても
なんとも思わない(笑)。
「荒れてないね」と、僕はいい
朋ちゃんは「リップしてるし」と
看護婦さんの絵がついた薬用リップを
見せた。
「気をつけてるね。」と、僕。
「そりゃーそーだよ、女の子だもの」と
朋ちゃんはあごを突き出して。
「そうするとおばらそっくり」
おばらってのは、朋ちゃんの友達で
背丈が朋ちゃんより少し高くて
あごが目立ってたから、猪木みたいだって
アントニオ、って別名もあった(笑)
大庭比佐子の事。
片瀬自動車学校のコースの脇の二階建に
住んでいて
川風が吹く、いい所で育った元気な子。
おとなしい朋ちゃんの守り神になっていた。
「おばら、いい奴だよね」と、僕は言う。
朋ちゃんは頷き「うん。おばらとも、でも
卒業したらお別れかな」なんて
淋しがりらしい言葉。
「なんで?一緒に高校行けばいいのに」
朋ちゃんは窓の外を見て「そーだけど。」と
言って
「進路いろいろだし。おばらは頭いいから
進学校に行くだろうし。あたしは」と
言葉が止まった。
朋ちゃんの家は町工場で、お父さんが
ネジとか機械の部品を作っている。
経営者なのだけど、元々は
エンジニアだったらしい。
経営を助けたい、って思うのだろう。
家がお店とかだと、普通思う。
どうして自分がご飯を食べて行けるのか。
物を作って、売って。
お金を貰えて、それでお米を買って。
おかずも変える。
朋ちゃんの家は工場だから、機械を作って
売って、お金を貰う。
儲からなくても、働いて。借りたりして。
そういう姿を見ていれば、助けたいと
思うのは自然だろう。
子供ながらにそう思うのだし。
朋ちゃんもおばらと同じくらい賢いが
私立の進学校なんて、お金払えないから
無理、と
諦めていた。




