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私の思いと、わたしの思い。

「ねぇ、ねぇ、4曲連続で演奏してみない?」

「ちょっと、ハナ。突然、何を言い出すの?」

「なにって、カナ、4曲連続でって・・・」

「いや、それは聞こえたんだけど・・・4曲連続って、ちょっと」

「ちょっと、なに?あれ?もしかしてカナ、出来ないなんて言うつもり?」

「えっ、何いってんの?出来ないなんて、一言も言ってないし。

4曲でも5曲でも、やってやろうじゃない!」と、どうやら、

ハナの思惑通りに事が進んで行く光景を、

まだこの時は、笑って見ていられた。


「ミキも、ナミも、行けるよね?」

「4曲でしょ?ぜんぜん平気だよ」と親指を立てる、

強気のミキとは違って、私は確認に回る。

「ハナ、どんな順番で演奏するつもり?」

「じゃ、始めに、Guns N' RosesのGarden Of Eden・・・」

「ちょっと、最初から、飛ばしすぎじゃね?!」とミキの言葉に、

私とカナも頷いていたというよりは、呆れた感の方が強かった。

「こらこら、口を挟まないでよ。えっと、

それからオリジナルを2曲挟むでしょ・・・そして、ラストは・・・・・・」


「ラストは・・・・・・」私たちは固唾を呑んで、ハナを見つめる。

「ランディー・ローズ師匠の曲で、Steal Awayでどう?」と聞かされた時、

3人の内の2人がズッコケけど、ひとりだけ、辛うじて堪えた、

ミキが突っ込みを入れてくれた。


「いや、いや、ハナちゃん、そこは、オジー・オズボーンって言っとこうよ」

「いや、いや、ランディー・ローズ師匠は、ランディー・ローズ師匠なので、変えられないよ」

「聞け〜!聞いてくれ〜!私の話を聞いてくれよ〜!って、

おまえさんは、こどもか!」

「まぁ、子供の件は、置いといて・・・、様は付けようよ。

私にとって神様みたいな人なんだからさぁー、語尾に様を付けようよ」

「えっと、神様は人じゃないから・・・」

「あっ、そうだ、特別に師匠と呼んでも良いよ」って、

人の話しは聞かないのかい!とツッコミを入れるミキは、

「ちょっと・・・師匠と呼ぶのは、支障をきたすんで、

ランディー・ローズ様と、お呼びすればよろしいですかね?・・・」


「支障があるなら、仕方ないか、許して使わす!」

「って、何故、私は頭をさすられてるんだ?しかも、上から目線で・・・」

「よちよち、よく出来ました。お利行さんだね」

「あれ、おかしいな、支障の下りをガン無視したぞ・・・

突っ込んでもくれなかったぞ、ランディー・ローズ師匠なんて、

言っているけど、あの乙女の様な仕草に、瞳の中には、

星がキラキラ輝いているって事は、とっても危険極まりないような、

破天荒な妄想しているんだぞ・・・きっと。

ちょっとだけ、いや、少しだけ、ハナから離れよっかな・・・」


「ねぇ、ねぇ、ミキちゃん?」

「はい、はい、なんでしょう、ハナちゃん?」

「言いにくいけど、心の声が丸聞こえに、なっちゃってるよ?」

「・・・・・・・・・てへっ」

「そんな表情しても、駄目だぞぉ!」

「はい、はい。お約束は、そこまでにして始めるぞ?」と、

カナは手を叩きながら止めている姿が学校の先生に見えた。

ハナとミキは、何故か、ちゃん付けで呼び合って、

二人は何時もこの調子なんです。もちろん止めるのは何時もカナです。

私は笑っているのが、役目なんだけど、今日はね、

流石に・・・先週の件を、引きずっているから・・・。

ハナに、上手く声を掛けられないでいた。


「どした?悩み事があるなら、相談に乗るけど?」

「びっくりした・・・声かけるなら、かけるって言って・・・って、

普通かけないよね、ごめん、ごめん」

「例え、今のタイミングで声をかけたとしても、

同じリアクションだろうからね、いえ、いえ、こちらこそ」


「私で良かったら、中を取り持つけど?」

「えっ、なんの話?」

「言いたくないなら、聞かないけど?」

「う、うん。そうしてもらえると助かります」と私は頭を下げた。

受けを狙ったとかでもなく、心の底から感謝の意味を込めて

頭を下げていた。

「うん分かった。でも苦しくなる前に、言うんだぞ」

カナは親指を立てると、ウィンクをすると、途端に顔が綻び、

少し照れくさそうな表情で私を見ている。

だから私も、ありがとう、という言葉と共にウィンクを返した。


こんな遣り取りが出来たから、気持ちを切り替えることに成功していた。

そして、私はドラムに語りかける。まずはネガティブ気味から入る。

それ以上落ちることがないから、気持ち的には楽なのです。

「わたしに、出来るかな・・・大丈夫かな?」

と、バスドラに問いかける為に、右足でペダルを踏んでいる。

次に、タム類に語りかけ、最後はシンバルを震わせて願う。

「皆を驚かせてやりたいの、だから、私に力を貸してください」

と、ドラム・スティックを、クルクルッと回す。

ポジティブモードが降臨すると、私の顔は笑顔へと変わる。


私がドラムから顔を上げると、3人から見つめられていた。

3人は笑っている。ミキは照れくさそうに頭を掻いていたけど笑い、

カナは親指をたてながら笑っていた。

そして、ハナは私に向けて、何度も頷きかけていた。満面の笑みを浮かべて・・・。


もしかしたら、今なら謝れば、許してもらえるのかもと思っていた。

練習が終わったら、きちんと謝ろうと、この時は、そう思っていた。

「やばいよ、シルクハット忘れたよ・・・」

「あっ、バンダナ忘れたよ・・・」

「おい、こらっ、言い出しっぺと、ツッコミ担当。真面目にやるよ」

分かりにくいけど、言い出しっぺがハナで、ツッコミ担当は、カナです。

「準備はお済みでしょうか?」とハナは真面目ぶっているけど、

顔は笑っている。私も含め皆うなずく。

「では、行かしてもらいます・・・」ハナは皆に首を縦に振って、

カウントを取り出した。

ハナがスラッシュに成りきるギターを弾き始めると、

カナが抜群のタイミングで出撃する。

私もタイミングを見計らいながら、戦いに参加すると、

後ろからミキが援護射撃を行う。


この曲は、カナが1番キツイだろう・・・。

見ているだけで、酸欠で倒れそうになる・・・。

そして私は、ガンズの中で、誰が好きかな?なんて事を考えていた。

とりあえず、スラッシュは置いといて・・・、

アクセル・ローズよりは、ダフ・マッケイガンの方が、好きかな。

今もカッコイイけど、昔は、もっと格好良かったからな・・・えへへ。


そして、ドラムを叩くたびに、音符たちが、飛び出しては、

私の周りを楽しそうに踊っているように感じる。

こんな風に、妄想が出来るのも、心に余裕があるお陰なので、

自然と笑みも溢れてくる。


気がつくと、あっという間に、ラストの曲に入っていた。

カナは可愛いらしいオジーを演じていて、ハナは

ランディー様になりきっている二人の背中に頼もしさを感じ、

私の隣へ、寄ってきたナミは、妖艶なウィンクを投げかける。

男の子なら一発で、虜にされるだろう・・・。


ハナは、見事にギターソロを弾きこなすと、後ろを振り返る。

その顔は、決して、ドヤ顔ではなく、

「どう?ランディー師匠に、少しは近づけたかな?」そんな風に、私に対して

目を輝かしながら見つめている。

だから私は首を縦に振る。

今日、はじめて、ハナにたいして、心の底からの笑顔を送ることが出来た。


演奏を終えた3人は、楽器をスタンドに立てかける。

ハナはカナに近づき、握手を求めていた。

何やら話しながら近づいてくるけど、私の耳にまで何を話しているのかまでは、

届かなかった・けれど、お互い笑い合っている姿は、

見ていて清々しくて気持ちが良かった。

私の持ち物は、スティックだけなので、楽といえば楽かな・・・。

そして、私たちは一箇所に集まると、決まって床へと腰を下ろす。


「おつかれさま」と互いに握手をかわして行く。

皆それぞれ携帯をチェックしている。

この時ばかりは、自分の世界に入り込む。

みんな、気づいてないかも知れないけど、結構ニヤニヤしてる。

まぁ私も人の事は言えないけどね・・・。


そして、小さなバイブ音と共に、揺れている携帯に視線を奪われていた。

覗き見る気なんて、さらさら無かったけど、

液晶画面に浮かんでいる、健児の文字に、

気がついた時には手を伸ばしている自分が存在していた。

もう少しで、私の指が、携帯に触れると思った瞬間、携帯ではなく、

ハナの指と軽く接触してしまった。

「えっ?」と驚きの声を上げて、ハナは私を見つめている。

「あっ、ご、ごめん。自分の携帯と間違えちゃった・・・」

「うん、そういうのって、たまにあるよね」と笑って言ってくれた。

二人の携帯は見た目からして一目で違うものだと分かるのに・・・。

こんな私に、ハナはどこまで優しいのだろうか・・・。


薄っすらと笑みを浮かべながら、メールを書いている姿を見ていると、

羨ましく思う一方で、なぜ私では駄目なんだろう?という、

思いが脳裏をめぐる。

健児くんには、ハナの事しか見えてないけど、

その中へ入り込む事は出来ないのだろうか・・・。

小さな隙間すら無いのだろうか・・・。

こんなにも、健児くんの事を、思っているのだから、

見つかるかもしれない・・・。


「もう、健児は、ほんと面倒くせぇな・・・」と

携帯を床に放置すると立ち上がるハナの姿を見て、

声を掛けようとするが、

「ふぅ・・・ちょっと、トイレに行ってくるね」と、

スタジオから出ていく姿を、追いかけるのではなく、

ハナの携帯に目を奪われていた。

携帯には、健児と文字を浮かび上がらせ、

携帯は小刻みに揺れていた。

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