友達
ハナが、スタジオから出ていくと、三人が残った形になっていた。
でも、数に入らない携帯は、そこに存在していた。
私は、持ち主の居なくなった携帯を見つめている。
床で不気味に音を鳴らし、小刻みに揺れる携帯に私の右手が伸びる。
「ナミ!」私の右手は行き場を無くすと、
少し強めの口調にたいして、こころでは、
あと少しなのに・・・あと少しで、携帯に手が届くと思うと悔しくて仕方なかったから、
誰から声を掛けられたのかなんて気にも留めなかった。
「ねぇナミ、その携帯って、ハナのだよね?」
カナは、いきなり確信を付いてきたので、
「・・・ごめん、間違えちゃった」謝っていた。
でも心のなかでは、違うことを思っていた。
「そこにあるのに、すぐそこに、数センチ先にあるのに・・・」
理性というものが、掴み取りたいと思う気持ちをグッと堪えさせた。
仕方なく私は、携帯の前で止まっている右手を、
何事も無かったかのような仕草で、膝の上に置く。
そして意味もなく膝をさすることしか出来ずにいた。
「ごめん、ちょっといいかな?」と私の前に腰を下ろした。
私から見て左側に、カナが腰を下ろすと、
右側には、ミキが、無言のまま腰を下ろした。
分かりやすく言ったら、三者面談が始まるみたいな感じ。
「ねぇナミ、さっきも、同じ失敗をしたよね? なんでまた、
ハナの携帯を取ろうとした?」
「・・・・・・」
「ねぇ、もう一度、聞くけど、その携帯って・・・・」
「もう良いだろ? ナミが困ってるだろ!同じ質問、繰り返すなよ・・・」
「はぁ?なんで、ミキが割り込んできた? ナミに、聞いてんだよ、
私はナミに聞いてんだよ」
「ごめんなさい・・・・・・」
「ほらまた、なんで、このタイミングで、ナミが謝るんだよ?
意味分けわかんねぇよ・・・」
「はぁ?カナ、それマジでいってんの?
考えりゃ、誰でも気づくだろ?誰でも分かるだろうが・・・」
「わかるけど、わかるんだけど、嘘だって思いたいよ、ナミの口から、
嘘だって事をいって欲しいんだよ・・・でも、分かってんだよ」
「分かってんなら、口出すなよ・・・」
「私には、言う権利すら無いって事?」
「そこまで、言ってないだろ? 馬鹿じゃねぇの・・・」
「は? なに馬鹿って? 私に喧嘩売ってんの?」
と、カナは唇を噛み締め、ミキを睨みつけている。
「はぁ?喧嘩?売った覚えもないし、買うつもりもないんだけど・・・」
カナの表情が次第に険しくなっていく姿を見たら、
「ちょっと、まって、まって!?」と、二人の間に無理やり、
体を捻り込ませた。
「あれ? なんで、なんで私、避けられたの?」と心の声を発しながら、
私の体は、二人に体に触れることすら出来ず、床へとダイブしていく。
まるで、スローモーションのように、床が近づいてくる。
その変わり色んな対処を想定することが出来て助かってたけど、
近づいてくる内に、次第に恐怖を感じ、床にぶつかる瞬間、堪えきれず、
遂に目をつぶってしまった。
あれ、おかしいな? 床との接触した筈なのに、
体に衝撃も伝わってこないし、体は痛くない・・・。
まずは冷静になって、自分の置かれている状況を確認する。
最初に下方向を確認する。私と床との距離、数センチで止まっていた。
次は左方向を確認すると、カナが苦笑いを浮かべているのが見えた。
最後に、右方向を確認すると、
「ナミ、ちょっと、重いんだけど・・・」
ミキが辛そうな口調で言うもんだから、
「えっ、そんな事ないと思うんだけどな・・・」
私の体は、二人によって両脇から支えられ・・・空中で浮いていた。
ちょうど、アメリカのスーパーヒーロのような姿で、
空を飛んでいた。だから、こんな機会はめったに巡ってこないので、
思いっきって両足を伸ばしてみると、案の定、良いツッコミが帰ってきて安心した。
「おーい、空飛ぶんじゃねぇよーー」
「あっ、ごめん、つい・・・えっと、それと、ありがとう。
それから、空を飛んでる最中に、悪いんだけど、えっと、喧嘩はやめて」
「ぷっ・・・・・・・・・」カナが噴きだすと、
「わかんねぇ、意味わかんねぇ、色々と、タイミング逃してるし・・・
喧嘩している事すら忘れ去られた・・・」
「ほんとだよ、私たち喧嘩なんてしてたか?」
「ん?してなかったのかな?」と、私が口に出していると、
優しき、二人の補助は、私の事を床へ着地までさせてくれたので、
「はい!」私は着地ポーズを決めた。
「はい!10点満点・・・じゃねぇよ」
「は、い?」
「は、い?じゃねぇよ、しかも、可愛らしく首を傾げんな・・・、
可愛すぎんだよ」
「って、おい!カナ、頬を赤く染めてんじゃねぇよ、
見てる方も照れるだろうが、変な方向に進んでいるから、軌道修正して戻ってこいよ」
「こほん。恥ずかしながら、帰って参りました!」とカナは姿勢を正し、
敬礼をしている。
「カナ、それ、古過ぎて、だれも、分かんないって・・・」
「いいじゃん、ミキは、分かってるんでしょ?」
「大丈夫、大丈夫。私も、分かってるから、横井さん、おかえりなさい!」
「おい、おい・・・・・・」と、ユニゾンで帰ってくるツッコミが、
私は好きでたまらない。
「ナミ、さっきは、ちょっと言い過ぎたよね、ごめん」
「ううん、こちらこそ、ごめんね。でもね、カナ。とっても嬉しかったよ」
「ほら、また、すぐそうやって、意味分かんない事を・・・」
とカナは口を尖らしている。そしてカナを見つめるミキは、
私の言いたいことが、伝わっていたのかも知れない。
カナの事を、どことなく微笑ましく見つめていたから・・・。
「カナ、私を止めてくれて、ありがとう」
「ほら、また意味分かんない事をいう・・・」
カナは照れくさそうに頭を掻いている。
「そして、ミキは・・・・・・」
「って、何も無いんかい!」
「冗談、冗談、ミキには、感謝してるんだよ」
「はい、はい、どういたしまして」
「二人も気づいてると思うけど、気がついたら、
わたし、健児くんの事が好きになってたんだよね・・・」
「・・・・・・う、うん」
「でもね、困ったことに、わたし、ハナの事も好きなんだよね・・・」
「ナミ、そんな焦らなくても良いと思うよ、ゆっくり、ゆっくり考えてこうよ」
「ありがとう、お世話掛けます」私が頭を下げると、
「はい、はい、お安い御用ですよ」カナが場の空気を和らげると、
「ちょっと、休憩しようよ」ミキが場を和ませた。
やっと少しだけ、いつもの調子に戻りそうに、なっていたのに、
私たちの真ん中に、堂々と鎮座してるハナの携帯が揺れているお陰で、
私たちの休憩は、中断させられた・・・。
「はぁ・・・・・・」と頭を抱えているミキと、
「タイミング悪ぃよ・・・」と笑っているカナに対して、
「ひぃ・・・・・・」私は気がつくと後ずさりをしていた。
いや、違う。表現が正しくない。
そう、私は気がついたから、後ずさりをしていた。
ハナの携帯に、健児って、表示されているのが見えたから、
同じ過ちを犯さない為に、携帯から遠ざかったの。
「ナミ・・・・・・」ミキは泣きそうな声を、
口を塞ぐことで押さえ込んでいた。
「ねぇ、これさえ手に入れば、少しは心が救われるのかな?・・・」
突然カナが、変なことを口に出すから、
「えっ、カナ? 心ってなに?何が救われるの?」と言ってみたけど、
言った私も何を言っているのか分からない。
「少しだけなら、良いよね?」と、私とミキを見比べながら、
ミキは話を続けた。
「見るっていっても、健児のアドレスだけだもん、それくらいなら良いよね?」
「カナ、良くないよ? 良くないよ、カナ? 見ちゃ駄目だよ、お願い止めようよ」
「少しだけだもん、ハナも許してくれるって、ミキもそう思うよね?」
ミキは軽く頷いた。その姿を見て、私はミキまで洗脳されてしまったのだと思った。
思ってた・・・。思った?いや、違うだろう・・・。
ハナの携帯を見ることで、誰が特をする?と考えてみたら、すぐに答えが出た。
私だ・・・。私以外は損をする。って事に気がついたから、私は救いを求めた。
「もう良いから、止めて・・・・・・」
「えっ、なんで? なんで止めるの?」
ミキは、私の制止を振り切ると躊躇なく、ハナの携帯を掴みとると、
「はい、これ」ミキは悪ぶることなく、私に携帯を手渡そうとしている。
「・・・ごめん、ミキ、受け取れないよ」私は首を横に振る。
「えっ、何で? 健児くんの、アドレス欲しくない?」
と聞かされ、私の心は叫んでいた。
欲しくない?欲しくないわけ無いし、欲しいに決まってるし・・・。
そんな目で、私を見るのを止めて、ミキ、お願いします。
「・・・ごめん、やっぱり受け取れないよ」
「はぁ、何で?ハナは、このくらいじゃ、怒らないよ」と、
微笑みを浮かべるミキの姿を見ていると、天使に見えて、
私から理性を奪われそうになったけど、時折チラチラと、
悪魔が見え隠れするから、私は耐える事が出来た。
必死に耐えていたつもりだったけど、感情までは、上手く制御出来なかった。
「駄目だよ、ミキ、受け取ったら、私の居場所、無くなっちゃうよ・・・」
「あっ、ごめんね・・・ナミ、そんなに、泣かないで・・・」
「ごめんね、私なにしてたんだろ・・・ほんと、ごめんね・・・」
と、二人は、私にハンカチを差し伸べてくれる。こんな私に優しくしてくれる・・・。
だから、私の口から、本音が飛び出していた。
「お願い、こんな、わたしに、優しくしないでよ・・・」
「ばーーか・・・・・・」私の肩に手を回すと、私の体を近寄せる。
「うゎっ! お前ら、暑苦しいな・・・」と言ったくせに、
ミキは私の肩に手を回すと自分の方へ寄せようとする。
「こら、ミキ。私のなんだぞ、盗んなよ!」と楽しそうに、はしゃいでいる二人に、
私の体は、右に行ったり、左に行ったりと、行ったり来たりで大忙しだったけど、
こんな私なのに、こんなにも幸せで良いのだろうか・・・と思うほどの幸せを噛み締めていた。




