エピローグ
あれから、クラスは平穏を取り戻していた。
これまで見て見ぬふりをしていた生徒たちも、一人ずつレンジのもとへ謝りに来た。
「今まで、ごめん」
「見て見ぬふりして、ごめんね」
レンジは誰も責めなかった。
「しかたないよ」
そう言って、いつも穏やかに笑った。
教室には怒鳴り声も、誰かを嘲笑う声も聞こえない。
クラスには、穏やかな時間が流れるようになっていた。
◇
朝。
レンジが校門を通る。
そのすぐ後ろを、ショウがぴったりとついて歩いていた。
「レンジ、放課後どうする?」
「特に決めてない」
「じゃあ、よかったらうちに来いよ」
「まあ、考えておくよ」
「……うん」
ショウは笑顔を作り、再びレンジの半歩後ろを歩く。
かつてダイチの隣にいたときと、ほとんど同じだった。
◇
その日のホームルーム。
担任が連絡事項を読み上げている途中で、教室の一番後ろから手が上がった。
「どうした、レンジ」
指名されたレンジは、ゆっくりと立ち上がる。
「校庭の花壇なんですけど、少し汚れていました」
担任が不思議そうな顔をした。
「花壇?」
「雑草も増えていたし、ペットボトルも落ちていました」
それだけ言って、レンジは席へ座る。
教室に短い沈黙が流れた。
すぐにショウが立ち上がる。
「じゃあさ、放課後にみんなできれいにしようぜ」
誰も返事をしない。
ショウは教室を見回し、少し声を大きくした。
「なあ、そうしようぜ」
一人の生徒が拍手をした。
続いて、別の生徒も手を叩く。
やがて拍手は教室全体へ広がっていった。
担任も戸惑いながら頷く。
「そうだな。みんなでやれば、すぐに終わるだろう」
レンジは一番後ろの座席から一人一人の顔を見ていた。
◇
放課後。
クラスメイトたちは校庭へ集まり、花壇の掃除を始めた。
軍手をつけて雑草を抜く者。
落ちているゴミを拾う者。
土をならし、水をまく者。
ショウは誰よりも大きな声を出していた。
「そっち、まだ草残ってるぞ!」
「ペットボトルは袋に入れて!」
誰も文句を言わない。
誰一人として、帰ろうともしなかった。
部活動がある生徒も、塾の時間が迫っている生徒も、黙々と手を動かしている。
なぜ自分たちまで掃除をしなければならないのか。
誰が決めたのか。
そんな疑問を口にする者はいなかった。
教室の窓際には、レンジが一人で立っていた。
窓枠へ手をつき、花壇で働くクラスメイトたちを見下ろしている。
やがて一人の生徒が顔を上げた。
レンジと目が合う。
レンジは笑顔で手を振った。
生徒も慌てて手を振り返し、すぐに作業へ戻る。
「ははっ」
誰もいない教室に、レンジの笑い声が響いた。
「あいつら、本当にやってるよ」
その顔には、心の底から満足したような笑みが浮かんでいた。
その日から。
レンジが校内の汚れを見つけるたび、クラス全員で掃除をする習慣が始まった。
レンジが一言告げるだけで、放課後には全員が集まった。
命令されたわけではない。
強制されたわけでもない。
それでも、断る者は一人もいなかった。
意味があるのか、ないのか。
誰にも分からないこの美化活動は、卒業式の直前まで続けられた。
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僕をいじめた四人が消えるまで [ 完 ]




