第25話 「止まらなかった建築」――ウィンチェスター・ミステリー・ハウス
アメリカ・カリフォルニア州サンノゼ。ここに、世界でも屈指の「奇妙な家」が今も静かに佇んでいます。その名はウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
38年間、ほぼ休みなく増改築が続けられたこの巨大な邸宅は、約160部屋、2000枚以上の扉、1万枚近くの窓を持ち、「どこにも通じない階段」や「壁に向かって開く扉」など、常識を超えた構造で埋め尽くされています。
サラ・ウィンチェスターの物語
この家を造り続けたのは、サラ・ウィンチェスター(1839〜1922)。銃器メーカー「ウィンチェスター・リピーティングアームズ」の創業家に嫁ぎ、夫ウィリアム・ワート・ウィンチェスターの死後、莫大な財産を相続した女性です。
幼い娘を早くに亡くし、夫にも先立たれたサラは、深い悲しみの中で生きていました。伝説によると、彼女は霊媒師からこう告げられたとされています。
「ウィンチェスターの銃で命を落とした者たちの霊が、あなたを呪っている。彼らを鎮めるためには、西へ移り住み、決して止まらずに家を造り続けなければならない。建築を止めれば、あなたは死ぬだろう」
サラは実際にカリフォルニアへ移住し、1886年頃から小さな農家を買い取り、そこに莫大な資金を注ぎ込んで、生涯にわたり増改築を続けました。工事は昼夜を問わず行われ、彼女が1922年に亡くなるまで続いたと伝えられています。
家の奇妙な特徴
現在残る家には、次のような不可解な構造が数多く見られます。
•天井に突き当たって終わる階段
•壁に向かって開く扉
•床に開いた窓や、内側にしかない窓
•7段降りてから11段上がる「7-11階段」
•13という数字への執着(13段の階段、13枚の窓など)
•隠し部屋や、出口のない通路
1906年のサンフランシスコ大地震で一部が倒壊した際も、サラは「壊れた部分をそのまま残す」のではなく、さらに改築を重ねたと言われています。
事実と伝説のあいだ
歴史的な記録を見ると、サラが「霊に追われて」いたという確たる証拠は乏しく、彼女はむしろ合理的で、最新の設備を積極的に取り入れた人物だったとも指摘されています。家族を招くために家を広げた、あるいは建築そのものを趣味として楽しんだ、という見方もあります。
しかし、38年もの間ほぼ途切れることなく工事が続けられた事実は確かです。そして、その結果生まれた「迷宮のような家」は、今も訪れる人々に強い違和感と、どこか得体の知れない気配を与え続けています。
現代の姿
サラの死後、この家はすぐに観光名所となり、「アメリカで最も有名な幽霊屋敷」のひとつとして知られるようになりました。現在もガイド付きツアーが開催され、世界中から人々が訪れます。
家の中を歩くと、「なぜこんな構造にしたのか」「本当に誰か(何か)を迷わせるために造ったのか」という疑問が、自然と湧いてきます。
ウィンチェスター・ミステリー・ハウスは、「悲しみと富が、ひとつの家をどこまでも奇妙な形に変えてしまうことがある」という、静かな物語を今も語り続けています。
止まらなかった建築の音は、もう聞こえない。けれど、その迷宮は、今もそこにある。
※画像はInstagramに置きました。
https://www.instagram.com/p/DbhVQ52FJzK/?igsh=MXNoNTBqdmI3d3A0dg==




